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30歳童貞、魔法使いの弟子になる~チートなのは俺じゃないのか~  作者: 東野月子
30歳童貞、魔法使いの弟子になる~チートなのは俺じゃないのか~
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師匠との生活8日目:魔法学校

「おはよー!」


 いつもより早く、しかも、すっきりした表情でエリーが起きてきた。

 夜型なのか、朝方はだるそうなのが常なので、陽平は訝る。


「おはようございます。今日は早いですね。」


「ふふん、昨日言ったでしょう、今度は私が作るって。早めに寝て準備はバッチリなんだから。」


 ああ、と陽平は思い出す。

 そういえばエリーは、夕食の席でそんな事を言っていた。


「じゃあ、今日は見てます。」


「楽しみにしといてよ!」


 エリーが湯を沸かす。

 鍋に水を張ったら、魔法でポン、だ。

 便利だな。と言うか、良く竈を作ろうと思ったな。

 陽平はツッコみたくなる気持ちを抑えて見守る。


 ぐらぐら沸騰している所にソーセージを入れた。

 あー!せっかくのプリプリソーセージが破ける!

 声が上がりそうになるのをぐっと堪える。


 茹だったソーセージを、油を引いた鍋で炒める。

 これは火を使う様だ。なるほど、魔法は使い分けるんだなぁ。

 うん、バッチバチ油が跳ねている。

 油は引かなくて良いんだよー……


 陽平は、エリーが料理する間ハラハラし続ける事になった。


 しかしながら、慣れない様子で懸命に料理する姿は非常に微笑ましい。

 しかも、これがエリーだけでなく、自分の為でも有るとなると、なんとも。


「幸せだなぁ。」


 ばっ!とエリーが顔を上げた。


「でしょう!分かったでしょう!」


「ええ、昨日エリーが言っていた意味が分かりました。」


 胸の辺りがほかほかと温かい。

 陽平も台所に入り、皿に焼き上がったソーセージと、魔法で時短にしたのだろう、ソーセージの茹で汁で茹でた野菜を受け取り、黒パンを添えて運ぶ。

 エリーは牛乳入りのカップを持って続いた。


 野菜もソーセージも見た目は少し不細工だったが、なんだかとても美味しかった。


 自然、頬が緩む。

 対して、エリーは眉を潜めた。


「なんか……ちょっと違う……」


「えっ?何がですか?」


「なんかヨーヘイが作ったのと違う。」


「そんなことないと思いますけど。」


「……今度料理を教えてよね。……師匠!」


 グフッ!


 陽平の鼻にソーセージの欠片が入った。鼻の奥が痛い。


「勿論です。」


 陽平は涙目で、しかし笑顔を作って応えた。


「で、学校の話よね。」


 エリーは魔法学校について説明を始める。


 まず、魔法学校は7年制。

 一般的には、8歳から通い始めるそうだ。

 しかし、魔法使いの素養が遅れて発現する場合があり、特に就学の年齢制限も無く、大人になってから入学することも可能との事。


 1年目はほぼ読み書きと計算の勉強に費やされる。

 魔法を使うにも、呪文を刻むのにも、必要最低限の知識だからだ。


 貴族や裕福な商家の子であれば、読み書きと算術はそれまでに終えるが、学校に通う子どもたちの家庭環境、経済状況は様々だ。

 例え貧しい家柄であっても、魔法さえ使えれば、門戸は開かれる。

 一定以下の経済状況であれば、教科書や筆記具なども支給される。


 国にとっては、魔法が使える人材はそれだけ貴重であり、国民にとっては、魔法の才能は大きな財産だ。


 2年目からは、本格的に魔法の授業が始まる。

 まずは座学が中心との事。呪文についてもこの時期から学び始める。

 前述のとおり、裕福ですでに1年目の内容を習得済みの者は、2年目から入学できる。

 交友関係を広げたい者や、復習したい者は1年目から入学することも有るが、特権意識からそれを忌避する家もあるとのこと。


 3年目から、座学に加えて、魔法の演習が始まる。

 まずは自身がどの様な魔法を使用しやすいか、分析するところから始まるとのこと。

 例えば、火を扱いやすい、水を操れる、風や天候に働きかける事が出来る、など。

 単一の属性に秀でている者も居れば、複数そつなく熟すタイプも在り、個性豊かで特に縛りはないらしい。

 まあ、エリーを見ていれば、色んなのがいるんだろうなあ、とは推測できる。


 ……で。


「まあ、この3年目の時に、大ポカをやって、街を出たのよねえ。」


 そう。

 学校の話となれば、嫌でもここに関わるわけだ。


「だから、私がきちんと把握しているのはここまで。

 ここから先は聞いただけなんだけど、7年目は城内や魔法騎士団、それから、魔法の……政策?管理?をやっている様な所とか、自分の進路に合わせて実習を少しづつ始めるらしい。

 その後は、そのまま就職したり、魔法を活かして全く別の商売をしたり、薬局を開いたり、更に2年間上級の魔法を学んで、研究職として学校に残る事も出来るみたいよ。」


 なるほど、一口に魔法使いと言っても、存外選択肢の幅は広そうだ。


「入るとしたら、2年目かしら。」


「……すみません、俺、まだ読み書きがかなり不安なので、1年目から通いたいです……」


 8歳に交じっての学習はかなり恥ずかしい気がするが、飛び級した癖に基礎が無い方が肩身が狭い。


「エリーはどうぞ飛び級してください。エリーだけなら、3年目からでも良いでしょうし。俺は俺で基礎から学びます。俺が元の世界に帰る方法は、空き時間等に一緒に調べましょう。」


 うん、なんだか希望が見えてきた気がする。

 それに、実は最近翻訳首輪に頼り切りだったので、この国の言葉を学ぶいい機会だ。


「そうね。じゃあ、お互い頑張りましょう!そうしたら、早速明日にでも申請に行きましょうか!」


 2人で頷き合った。

2人は恋仲では無い。

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