師匠との生活7日目:腕輪開発
昼食後は魔法の腕輪を開発することにした。
「外向き矢印で挟んで、“命令に従わせる”って刻むのはどうでしょう。」
「それだと、腕輪に触れている体と、周囲の空気に作用するだろうから、例えば“燃えろ”って言うと腕ごと燃えるんじゃないかしら。」
うわあ、想像したくない。
陽平の肌が粟立つ。
「魔力を吸収する、って言うのは?ほら、この前師匠が板に魔力を込めてくれたのの応用で。」
「ええとね、魔力は、生物、中でも動物みたいに自分で大きく動く様な物の方が保有量が多いのよね。だから、空気中の魔力程度だと、空気自身やその周囲を変化させるくらいで、溜めておいたりそれを操ったりするほどの量にはならないと思うの。」
「うーん、難しいですね……」
魔法は、自由に見えてその実制約が多い。
あれ、陽平は気付く。命令の仕方に気を付ければいいのでは。
「あの、師匠、戻るんですけど、命令に従わせる、と言う呪文にして、この何々を燃やせ、とか、この何々を浮かせろ、とか、主語を付ければ作用点を指示出来るんじゃ……」
かっ!とエリーが目を見開く。
「そうよ、そうだわ、なんて単純な見落とし……!」
肩を落とすエリーに、陽平はなにか申し訳ない様な気持ちになる。
「ええと、さっき師匠がおっしゃった、作用する範囲や魔力量の問題を考えると、この呪文だけでは近場にしか働かない気がするので、助けて欲しいです。」
励まそうとしているのがバレたのか、エリーは眉尻を下げたままだが、まあそうよね、と同意を得られた。
「前向き矢印なら指向性は持つだろうけど、距離がどの程度まで伸びるかよね。指先に集まれ、命令を飛ばせ、道を作れ……」
エリーはブツブツと案を呟きだす。
陽平も、何か無いかと頭を捻る。
ふと、陽平は思う。そんなに遠くに、大きな魔法を使う必要は有るのだろうか。
無意識にエリーを基準にしてしまっていたが、エリーの魔法は学校どころか街を追われるくらいには規格外なのだ。
だとすれば、手の周囲に働きかけるくらいでも、応用すれば問題ないのでは。
「……例えば、木片を持って、浮け、燃えろ、飛べ、って命令して投げるとか……」
「え?」
「あ、いや、工夫次第で、作用範囲を広げられるかなって思いついて。先に触っておけば、命令は通るかなと。」
ビタン!
エリーが勢いよくテーブルに突っ伏した。
「んもー!またしてもヨーヘイに負けたあー!」
いつから勝負になっていたのだろう。
「ヨーヘイの発想って、本当に自由よね。それ、才能だと思うわ。」
突っ伏した体勢のまま、エリーはテーブルの上で組んだ腕に顎を乗せる。
自然、上目遣いになり、そのまま褒められた陽平はどぎまぎした。
エリーはなんの含みも衒いも無く相手を褒める。
そんなエリーの言葉は、なんと信頼できることだろう。
そして、それはエリーの魅力だ。
「エリーの言葉って、しっかり胸に届きます。嬉しいです。」
陽平も、そんなエリーに習って素直に表現してみた。
2人してニヒ、と照れ笑いした。
早速腕輪の制作に掛かる。
エリーが狼を解体する時に使っていたナイフで、木の板から腕輪を切り出す。
ナイフで切れるのか、と思うだろうが、感覚としては大根を切る様な具合に刃が入るのだ。
円形に切り出し、中心をくり抜く。大根の面取りの要領で角を取る。
うーん、無骨だ。
「今のとこ良いとこなしだから、土台は私に作らせて!」
エリーがそれを見事に滑らかな腕輪にする。
腕輪に、“←〇machst;folgen;Yohei〇→”と掘ってみる。
“gibiotan”と掘ろうかと思ったが、陽平以外の命令に従われると困るので、名前を入れてみた。
分かって貰えるだろうか……
陽平は、腕輪を装着すると、水瓶の傍まで行って水に手をかざす。
「水よ、丸まって浮け!」
気合を入れる。自然、語気が強くなる。
と、陽平がかざした手の大きさ程の水の球が出来、浮きあがった。
「「出来たあああああー!!」」
2人の声が重なった。
両手を取り合って飛び跳ねる。
エリーは、陽平に腕輪を外させると、着色(と言うより変色、だろうか。)、コーティング、艶出しまでした。色はオレンジ。陽平のイメージなのだそうだ。
そして、文字を消す。
「えっ!?せっかく成功したのに!!」
「文字が見えたままだとバレるでしょう。中に隠しただけで、ちゃんと呪文は刻み込まれているわ。」
陽平は感心する。
「そっか、ありがとうございます。すこし練習したら、学校に行けそうですかね。」
「そうね!問題ないと思うわ!そうしたら、学校の事を説明しましょうか。でも、明日でいーい?お腹空いた。」
いつの間にか日が落ちていた。
2人して笑いあって、夕食の準備に取り掛かった。




