準備
「まぁ、何にしろ、まずはヨーヘイが魔法を使えないといけないわね。」
家に着くと、早速エリーが魔法でベッドを作ろうとしたが、明日自分で作ると陽平は申し出た。
もう夕時だからというのも一つだが、自分の物なのだから、自分で用意したかった。
じゃがいもを茹で、キャベツを炒め、早速買ってきたソーセージを熱湯で温め、夕飯の席に着く。
と、食べ初めてすぐに、エリーが切り出したのだった。
「そうですね、早いところ杖を完成させないと。」
「うーん、考えたんだけど、杖だとやっぱり目立つかも。
……後々広めるかも知れないけれど、開発してすぐ“誰でも魔法が使える道具がある”なんて分かったら……」
「確かに、奪い合いになったり、粗悪品が出回ったり、悪用されたり、良い状況になるとは考えにくいですね。」
「そうなのよねー……、だから、道具の作り方や使い方、安全性、安定性なんかが確立してから、汎用化されるのが理想だと思うの。」
「そうなると、腕輪にしてバレ難くしないといけませんね。」
「ねぇ、いい考えがあるんだけど。」
エリーは徐に立ち上がって板を持ってくると、陽平に手渡した。
「それ、振りながら“ビールよ来い”って言ってみて。」
「“ビールよ来い”」
ガチャリ、防腐庫が開き、中からふわりとミニチュアの樽が出てきた。
ビールが入ってるのか。何それ美味しそう。
「んふふ、年越しのお祭りの時に振る舞われたのをとっといたのよ!お手製樽なのー!」
いいなぁ、俺も飲みたい。ソーセージと一緒に。
陽平はつい物欲しそうな目で見る。
「ヨーヘイはまだ2、3年早いかなー。」
あれ、エリーって俺の事何歳だと思ってるんだっけ。
2、3年で飲んでいいの?昔だから?
そういえば元々海外なんかは、飲みにくい硬水だか悪い水の代わりだったんだっけ?
ヨーロッパって十代後半から飲酒可なんだっけ?
違う?あれ?
「……俺、今15才です。」
陽平は、ぐるぐる考えて、とりあえず年齢を打ち明けてみた。
「嘘言わないでよー!……え、ほんと?」
「向こうでは飲んでました。ワインも。」
「……一人立ちしてもおかしくない年齢だったんじゃないのよ……」
しまった、追い出される流れだろうか。
「まぁいいけど。どうぞ。」
っしゃあ!
陽平は心の中で叫んだ。
本場のビールだ!
「……染みる……」
「あはは、おじさんくさい!種類があるんだけどねー、私はこれが好きなの!昔からのじゃ無いほう。ホップ?とか言うのを使うみたい。」
へぇ、前はホップじゃなかったのか。
なんとなく耳には入れながら、陽平はビールとソーセージを味わう。
「って、そうじゃなくて!なんか言うことないの!」
エリーに言われてハッとする。
そうだ、俺、
「魔法が……使えた……!」
ガタン!
勢い良く立ち上がった陽平の椅子が倒れる。
「もう、遅い!」
「でも、どうやって?」
「その板にね、私の魔法を閉じ込めてみたの。で、ヨーヘイの指示に従うようにしてみた。」
陽平は、椅子を直して再び腰かけた。
徐々に気持ちが重くなっていく。
「……ありがとうございます。でも、元々の方法で開発させてください。」
「えっ?なんで?!」
「……この方法では、使用に上限が有りますよね。
普通の人もそうなのかも知れないですが、エリーの力がかなり大きいとしても、分けて貰った物を本人と同じように使えているとは思えない。
となると、力が逃げる等して、想定より早く魔法が切れるかもしれない。
そうなれば、長時間学校で魔法を使うのに不安があります。」
「まぁ、周りの魔力を使えば上限は無いものね。でも、量的には問題無いとおもうけどなぁ。」
「……それに、これじゃあ、いつまで経っても、エリーにおんぶにだっこだ。」
エリーが瞠目し、そして陽平に困ったような笑顔を向けた。
「……そうね。じゃあ、頑張って“ヨーヘイ専用の魔力”を開発しましょう!」
エリーがカップを掲げる。
陽平もそれにならってカップを持ち上げると、二人で乾杯して夕食を続けた。




