師匠との生活6日目:ライバル?
「こんにちはー!」
声を掛けて食堂に入った。
エリーはするする進んでいき、奥の端の席に掛けた。
そう言えば最初に城下町に来た時はそれどころじゃなかったけれど、勝手に着席するんだよな。
ちょっと悪い気がして慣れないな、と陽平は思う。ファストフード店なら構わないのになんでだろう。
「はいはーい、ご注文は?」
陽平より少し背が低いくらいの、可愛らしい顔立ちの少年が立っていた。
茶味がかったふわふわの金髪に丸く大きな暗い碧眼の美少年は、しかし少々不愛想な表情だった。
ラファエロの天使みたいだ。
不躾にも、陽平はその少年を凝視してしまった。
きょろり、その目が陽平の方を向き、不思議そうに首を傾げた。
陽平の心臓が跳ねる。
失礼な事をしてしまった。
それにしても、絵画か彫刻が動くCGみたいでちょっと怖い。
「あれ、ジークじゃない!学校は?」
おお。名前かっけー。てかエリーは知り合いだったのか。
「今春休み。キルシュも学校入れば良いのに。てか、注文。」
「私は魔女様のとこが一番好きだから。ええと、じゃあシュヴァイネハクセで。」
「あんたは?」
「えーと、じゃあおススメを……」
「マウルタッシェンでいい?」
「はい。」
注文を取り終えジークと呼ばれた少年が席を離れると、エリーが“あーあ。”と言う顔をした。
「……別にヨーヘイは金曜日だからって肉を我慢しなくて良いのに。私もがっつり食べるし。」
エリーが陽平にこそこそ声をかける。
肉無しメニューだったのか。まあ、肉続きだったからちょうど良いけれど。
エリーは肉ってことか。良く飽きないなあ。
魚食べたい。
「この辺は金曜日は肉を食べないんですか?」
この世界も曜日が有るんだなあ、後で翻訳機を切って単語を聞こう、と考えつつ陽平は疑問を口にする。
「そうなのよね。宗教の関係だわね。まあ、罰されるとかではないから、食堂では出してくれるけれど、皆自主的に気を付けてるみたい。」
「エリーは良いんですか?」
「黒い森は別枠なんですー。」
うん、エリーらしい。
程なく、エリーが頼んだ、骨付きでどん!とした肉塊のブラウンソース煮込みと、陽平が頼んだ、大きめの水餃子の様なスープが出てくる。青々とした炒め物もついてきた。
「美味しそうー!」
肉続きで気分的に胃がもたれていた陽平は、エリーの料理の見た目に引いてしまった。
早速肉にナイフを入れたエリーに続き、陽平も食べ始める。
生地の中にはひき肉や刻んだ野菜が入っており、陽平には馴染み深い味だった。
なんだか故郷が懐かしく、美味しく、疲れた胃に染みていく。
野菜が摂れるのも嬉しい。
というか。あれ?
「肉、入ってますけど。」
「その程度肉って言わない。」
成程。
と言うか、現地の人も皆エリーみたいな性格なんだな。
「どうしても肉が食べたくて、生地で隠したのから広まったんだって。」
ああ、エリー程大雑把では無かったようだ。
陽平はいろいろ納得しながら食べ進める。
家でも作ってみたいが、出すとしたら塊肉も付けないとだな。もしくは朝に出すか。
「ねえ、キルシュ、この人初めて見るけど、誰?」
と、チーズの良い香りがするショートパスタの様な物を持って、ジークが席に着いた。
自然な様子で、特に断りもなかった。
「お仕事良いの?」
「母さんが、キルシュと食べてきて良いって。」
この二人、距離感が近いな、と陽平は思う。
「挨拶しなくてすみません、陽平です。魔女様に助けて貰って、今家の事を手伝ってます。」
「え?キルシュと一緒に住んでるってこと!?」
途端、ジークの目が鋭くなる。
「魔女様も一緒だよー。」
エリーが苦笑しつつ助けを出すが、あまり効果が無い。
しかも、ジークが知れば悶絶しそうだが、魔女様とキルシュは実際には同一人物なのだ。
俺は一人暮らしの女性の所に転がり込んでいるってことか、と改めて自分の状況が後ろめたくなる。
「えと、キルシュには自室が有って、俺は居間のソファで寝てます。」
「当然!お風呂はどうしてんの。まさかキルシュを変な目で見てないよね。」
「大概ヨーヘイはその時間夕食片付けてるよ。……最近は……私も手伝ってるけど!……ちょっとだけど!」
あれ、そうだっけ、と陽平は疑問に思うが、助け船を出してから、自分が家事を全くしないことに後ろめたくなったらしいエリーは、しどろもどろに弁明した。
「……まあいいけど。あんた魔法は使えんの。」
「いえ、俺は……まだ。」
出来ない、とは言いたくなかった。
そんな陽平の様子に、ジークは、ふうん、と何やら馬鹿にした様な笑みを浮かべた。
なんか鼻につくやつだな、と反発心を覚えた。
「まあ、ヨーヘイは練習中だもんね!でも、ヨーヘイの才能は凄いのよ!何より魔法が好きなのが良いと思う。」
エリーが明るく言い放つ。
やめてくれ、ジークの目がどんどん厳しくなっていく。
ガガガッ、とパスタ様の物を口に押し込んだジークは、もごもごしながら宣戦布告した。
「魔法が好きなのなら負けない。キルシュもいい加減学校に入ってよ。魔法使うとこ見せてあげるから。」
「うーん、考えとく。お仕事頑張ってね!」
席を立ったジークに、エリーが投げかける。
この人天然タラシだったんだな。
もしかしてこれからも俺はいろんな人に敵対視されるんだろうか。
そんなことを思いながら、陽平はもそもそと残りを食べ終えた。




