師匠との生活6日目:城下町への道中
「……私、ヨーヘイ拾って良かったわ。」
「え?」
「1人で誰にも気兼ねなく研究するのは、集中出来るしストレスも無いし、自由で本当に楽しかったのよね。」
「……」
何も気にしていないように見えたが、多分今は、俺に気を使ってしまってたんだろうな、と初めて陽平は気付いた。
「でもヨーヘイと話してると、新しい案がどんどん出るし、やってみたいこと、試してみたいことも次から次に思い付いて、研究意欲が高まってくの。」
「前にも、自分に自信を持ってって言った時に話したと思うけど、さらに実感が湧いたわ。人と関わるってのも、大事なのね。魔法で目をきらきらさせてるヨーヘイだから、ってのも有るだろうけど。」
陽平の頬に熱が集まっていく。
なんだこれ。凄く恥ずかしい。嬉しいけど、照れ臭い。
なんだか愛の告白を受けてるみたいだ。
いや、全然違うけど。エリー真顔だけど。
陽平は狼狽えながらもなんとか返答する。
「……嬉しいです、そう言ってもらえて。」
前だけ見ているエリーに、今はこっちを向かないでくれ、と祈りながら、陽平は赤らむ顔を少し背けた。
熱い頬に流れる風が心地よい。
間もなく城下町だ。
切り換えねば。
城門の数キロ前で降り立った。
門に向かって歩を進める。
「猪は、この前の行商の人に売るんですか?」
「ううん、これだったら食堂やビアホールで売れると思う。」
へえ、卸業者を挟まなくて良いんだ。
「いつも卸してるところが有るんですか?」
「うん、何ヵ所か有るから当たってみようかな。大量に使うから、仕入れ状況によるだろうけど、そんなに回らなくて良いんじゃないかな。」
早めに買い物出来そうだ。
野菜と、種、苗を買おう。
前回同様門番の問答を終え町に入ると、中央広場に近い栄えた場所に鎮座する、大きなビアホールに来た。
王冠のマークがあるが、王家と関係でも有るんだろうか。御用達とかか?
扉を開けると、また童話やゲームのような世界観で、木の長テーブルとベンチがいくつも平行に並んでいる。
天井の梁には青々とした蔦が絡んでいた。
「こんにちはー!おかみさん居ますかー?」
エリーが声をかけると、奥から“食堂のおばちゃん”を彷彿とさせる中肉中背の女性が迫力ある笑顔で出てきた。
笑っているのに圧が凄い。
「あら!魔女様のとこの!この時間ってことは食事じゃないんだね。」
「ええ、今日は猪の肉を売りたくて。城下町ではあまり入ってこないでしょう?昨日仕留めたばかりで、お肉の処理もばっちりですよ!」
「悪いねぇ、もう今日の分は仕入れちまったんだよ。朝の分が片付いて、昼の仕込み始めちまってるし。」
「ええ、そんなあなたにうってつけ!そのお肉、既に魔法を使用済み、明日でも明後日でも、絞めたてと同じ鮮度でござい!お部屋に放置で、あと3回日が出て沈んでも、変わらぬ旨さにございます!」
え、キルシュそんなキャラだっけ、陽平は呆気にとられるが、おかみさんは特にツッコむ事なく思案顔だ。
「今ならなんと、赤子3人分の重さが80F!大銀貨一枚と小銀貨3枚で手に入ります!」
「乗った!」
乗るのかよ!
陽平は心の中でツッコんだ。勿論口に出す勇気は無い。
あれ、10kg弱が80F、つまり8,000円。1kgで800円?えっ、肉ってそんなもんなのか。
「まいどー」
陽平が頭でぐるぐるしている内に、売買成立して店を後にした。
「今度はご飯食べに来るねー!」
エリーがほくほく顔でおかみさんに投げ掛ける。
そんな調子で、6軒ほど回ると、昼過ぎには肉がはけた。
まぁ、そりゃ、全員が全員買ってはくれないよなぁ。
陽平はそんな他人事のように考えながら、荷物持ち以外は何もしないで後ろをついていった。
「ああー、お腹空いた!買い物の前に何か食べよう!」
ふらふらとエリーが向かった先は、蔦の這う壁が可愛らしい、小さな一軒家のような店だった。




