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30歳童貞、魔法使いの弟子になる~チートなのは俺じゃないのか~  作者: 東野月子
30歳童貞、魔法使いの弟子になる~チートなのは俺じゃないのか~
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師匠との生活6日目:城下町への道中

「……私、ヨーヘイ拾って良かったわ。」


「え?」


「1人で誰にも気兼ねなく研究するのは、集中出来るしストレスも無いし、自由で本当に楽しかったのよね。」


「……」


 何も気にしていないように見えたが、多分今は、俺に気を使ってしまってたんだろうな、と初めて陽平は気付いた。


「でもヨーヘイと話してると、新しい案がどんどん出るし、やってみたいこと、試してみたいことも次から次に思い付いて、研究意欲が高まってくの。」


「前にも、自分に自信を持ってって言った時に話したと思うけど、さらに実感が湧いたわ。人と関わるってのも、大事なのね。魔法で目をきらきらさせてるヨーヘイだから、ってのも有るだろうけど。」


 陽平の頬に熱が集まっていく。

 なんだこれ。凄く恥ずかしい。嬉しいけど、照れ臭い。

 なんだか愛の告白を受けてるみたいだ。

 いや、全然違うけど。エリー真顔だけど。


 陽平は狼狽えながらもなんとか返答する。


「……嬉しいです、そう言ってもらえて。」


 前だけ見ているエリーに、今はこっちを向かないでくれ、と祈りながら、陽平は赤らむ顔を少し背けた。


 熱い頬に流れる風が心地よい。

 間もなく城下町だ。

 切り換えねば。

 城門の数キロ前で降り立った。

 門に向かって歩を進める。


「猪は、この前の行商の人に売るんですか?」


「ううん、これだったら食堂やビアホールで売れると思う。」


 へえ、卸業者を挟まなくて良いんだ。


「いつも卸してるところが有るんですか?」


「うん、何ヵ所か有るから当たってみようかな。大量に使うから、仕入れ状況によるだろうけど、そんなに回らなくて良いんじゃないかな。」


 早めに買い物出来そうだ。

 野菜と、種、苗を買おう。


 前回同様門番の問答を終え町に入ると、中央広場に近い栄えた場所に鎮座する、大きなビアホールに来た。

 王冠のマークがあるが、王家と関係でも有るんだろうか。御用達とかか?


 扉を開けると、また童話やゲームのような世界観で、木の長テーブルとベンチがいくつも平行に並んでいる。

 天井の梁には青々とした蔦が絡んでいた。


「こんにちはー!おかみさん居ますかー?」


 エリーが声をかけると、奥から“食堂のおばちゃん”を彷彿とさせる中肉中背の女性が迫力ある笑顔で出てきた。

 笑っているのに圧が凄い。


「あら!魔女様のとこの!この時間ってことは食事じゃないんだね。」


「ええ、今日は猪の肉を売りたくて。城下町ではあまり入ってこないでしょう?昨日仕留めたばかりで、お肉の処理もばっちりですよ!」


「悪いねぇ、もう今日の分は仕入れちまったんだよ。朝の分が片付いて、昼の仕込み始めちまってるし。」


「ええ、そんなあなたにうってつけ!そのお肉、既に魔法を使用済み、明日でも明後日でも、絞めたてと同じ鮮度でござい!お部屋に放置で、あと3回日が出て沈んでも、変わらぬ旨さにございます!」


 え、キルシュそんなキャラだっけ、陽平は呆気にとられるが、おかみさんは特にツッコむ事なく思案顔だ。


「今ならなんと、赤子3人分の重さが80(ファルケ)!大銀貨一枚と小銀貨3枚で手に入ります!」


「乗った!」


 乗るのかよ!

 陽平は心の中でツッコんだ。勿論口に出す勇気は無い。


 あれ、10kg弱が80(ファルケ)、つまり8,000円。1kgで800円?えっ、肉ってそんなもんなのか。


「まいどー」


 陽平が頭でぐるぐるしている内に、売買成立して店を後にした。


「今度はご飯食べに来るねー!」


 エリーがほくほく顔でおかみさんに投げ掛ける。


 そんな調子で、6軒ほど回ると、昼過ぎには肉がはけた。

 まぁ、そりゃ、全員が全員買ってはくれないよなぁ。

 陽平はそんな他人事のように考えながら、荷物持ち以外は何もしないで後ろをついていった。


「ああー、お腹空いた!買い物の前に何か食べよう!」


 ふらふらとエリーが向かった先は、蔦の這う壁が可愛らしい、小さな一軒家のような店だった。

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