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30歳童貞、魔法使いの弟子になる~チートなのは俺じゃないのか~  作者: 東野月子
30歳童貞、魔法使いの弟子になる~チートなのは俺じゃないのか~
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師匠との生活5日目:魔法特訓

 炎を作る呪文では、ちょっとした工夫が必要だった。

 単純に“燃える”と刻めば、書き終わった瞬間自分の手も火の中となってしまう。

 と言うわけで、“○秒後に”と付け加えなくてはならないのだ。


「まぁ、頭に“2 Sek.”とかって添えれば良いだけなんだけど。前に、おしりに書いたら、手を燃やした挙げ句すぐ消えたのよねー。失敗失敗。何もしなくても鎮火出来るのが分かったのは成果だったけど!」


 想像すると恐ろしい。

 陽平は、エリーに言われた語順を守り、長めに5秒と刻んで、水桶に板を浮かべた。

 ほどなくして板に火が付き、自身が生木で水の上に居る事も忘れ燃え続ける。

 ゆらゆらと水に揺れる炎は幻想的だった。


「上手いじゃない!ヨーヘイって器用よねえ。」


「初めて言われました。魔法に活かせてかなり嬉しいです。これ、自由に色々使えたら本当に楽しそうですね。」


「そうね、なんだかんだ魔法って便利だと思うわ。多分私魔法が無いと生活出来ない。」


 大げさに聞こえない辺りがエリーらしい。

 陽平が冗談まじりに同意するとジト目で見られたが、その後もいくつか呪文の指導をしていった。


 形状変化、重さの変化、時間の経過を早める呪文など。

 時間の早送りのせいで腐った木から異臭が出るなどドタバタもしたが、陽平は楽しくて仕方なく、小屋には終始笑い声が響く。


 時間も忘れて特訓する内、昼を過ぎて夕刻になっていた。


「すみません、うっかりしてました。夕飯の準備をしないと。」


「夢中になっちゃったねえ。今日は私も手伝うわ。」


 二人で実験の残骸を片し、防腐庫・冷蔵庫を確認してまた新たな問題が発生した。


 肉が無い。卵も無い。


 そう言えば、先日城下町に行ったときに、商売と衣類の購入に気を取られて食材を購入し忘れていた。


「……狩るしかない。」


 どちらとも無く口にし、頷きあう。


「早速、魔法を使ってみて良いですか。」


「どうするの?」


 陽平は、余った木の板を呪文を刻んで槍状に変形すると、更に、柄の曲線に苦戦しつつ“You will shoot it.”を呪文にした“↑△schießt△↑”と刻んだ。

 刻んだ矢印と逆方向をしっかりと握る。


「これを獲物に向けて離します。」


「成程ね!」


 今にも飛び出さんとする木の槍を必死で持ち、もう少し良い呪文が有ったかも、と思いながら獲物を探し森に出る。

 エリーも後に続いた。


 森を歩いてしばらくして、陽平は、異世界到着直後に襲われた狼の存在を思い出す。


「今更なんですけど……、狼って結構遭遇し易いですか?」


「ああ、あんまり寄ってこないねえ。なんでだろう。鳥を探した方が早いかも。」


 成程、エリー効果か。陽平は納得する。そりゃあ、狼だってむやみに上位の生き物の近くをうろつきたくないだろう。安心して狩りに意識を戻す。


 歩を進める音のせいか近くに気配は無く、飛び立って行く音だけが遠くに響く。

 一度止まって耳を澄ます。

 と、上ではなく前方から、草をかき分け近づいてくるガサゴソと言う音が聞こえ始めた。

 慌てて槍をそちらに構える。

 地を踏みしめる足音や、木々にぶつかる様な音などが、かなり大きな体躯を示唆していた。


 陽平の心臓が早鐘を打つ。槍を音の方に向け、警戒を高める。


 ぬ、と音の主が姿を現した。


 ……猪だ。


 いや、本当にイノシシなんだろうか。四つん這いの状態で、陽平を見下ろす位置に顔が有った。


 咄嗟に槍から手を放す。


 槍は空を切り、巨大猪の額へ一直線に飛び出し……




 軽く振った鼻に弾かれた。


 ああ、終わった。

 そう思った瞬間、陽平の脇を光線が走り、猪の左顎下から後頭部までを貫いた。


 延髄を貫いたのだろう、はくはくと呼吸を取り入れようとするように口を痙攣させるとそのまま横なぎに倒れていった。

 陽平の上衣が、タスキがかかったように赤く染まる。


 陽平もそのまま意識を手放した。


陽平は結構チキン

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