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30歳童貞、魔法使いの弟子になる~チートなのは俺じゃないのか~  作者: 東野月子
30歳童貞、魔法使いの弟子になる~チートなのは俺じゃないのか~
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師匠との生活5日目:閃きと希望

「じゃー次水を丸めてみよー!」


 陽平は、アレ、と違和感を覚える。水にはどの様に呪文を刻むのか。魔法をかける物体と対話すると言うことは、直接刻み込む必要がある。

 いや、水道管のコーティングの件では、『呪文に触れた水が魔法を運ぶ』と話していた。つまり、魔法を刻んだ物体に対して、自身に触れた物質に魔法をかけるよう指示すると言うことか。ややこしいな。


「板に、“←○machst;bal○→”。」


 刻み込み、板の上に先程の水を垂らしてみる。

 すると、溢れる前に水が板の上で球状になり、垂らせば垂らすほどそれが大きくなっていく。

 水の玉が大きくなるにつれ、陽平はそわそわしてくる。いつ魔法が切れて辺りが水だらけになるかと言うスリルと、さざめく水が丸まって空気中に形状を保つ姿が、正に“魔法”と言う力を感じさせるからだ。


「“Du machst Wasser zu einen ball.(あなたは水を球にする)”を縮めてる。“bal”は古語ね。」


 文法が難しい………。とりあえず“werden”で物体が変化して、“machst”で物体が物体を変化させるってことか。英語だと“be”と“make”だろうか。

 そこまで頭を巡らせて、陽平はふと思い付く。

 これで、自分に魔力が無くとも魔法を作用させる事が出来ないか。


 以前エリーは、今している翻訳首輪が周囲の空気を変化させていると言っていた。更に、周囲の空気が、発された言葉に働きかけて翻訳していると。


 つまり、呪文は空気にも作用するし、その空気に何かさせる事が可能と言うことだ。

 なんという可能性の大きさだろうか。


 これと同様に、例えば杖とか、杖が不便なら腕輪等に、“あなたはそれを陽平の指示の通りに変化させる”として、作用の方向を前にし、空気に働きかける。

 そうすれば、魔法道具に触れている空気に“その葉を燃やせ”と指示すれば、炎が作れるのでは。


「あの……大丈夫?」


 突然かけられたエリーの言葉に呆ける。


「突然黙りこんじゃうから……」


 考え込んで知らず自分の世界に入り込んでいたらしい。

 陽平は反省する。そして、先程の思い付きを、とりあえずそのままエリーに伝えてみた。

 言葉をまとめられるほど整理出来ていない。


 するとエリーは、これでもかと目を輝かせた。


「なにそれ!凄い!ヨーヘイ凄いわ!やっぱりヨーヘイの閃きって凄いわよ!天才だわ!」


 チート中のチートな天才に天才と言われると嫌味に聞こえるが、陽平はエリーにそんな裏表等ない事を知っている。

 気恥ずかしく思いながら、素直に受けとめた。


「ありがとうございます。せっかくなので自分で作ってみたいんですが、杖と腕輪とどっちが良いでしょう。」


「うーん、邪魔にならないのは腕輪でしょうけれど、ピンポイントに力を届けるとすれば、方向を定めやすい杖でしょうね。腕輪だと周囲には作用しやすいけれど、力は分散しそうだわ。」


「そうですね。」


「ただ、正直、学び始めのヨーヘイがいきなり呪文を構成しても成功しにくいと思う。私も一緒に呪文を考えて、ヨーヘイの呪文を添削していきましょう。」


 初日にして折られた希望は、数時間にして光明を見せた。

 なんと怒濤の一日か。

 陽平は弛む頬を抑えきれない。


「それにしても本当に素晴らしい案だわ。国全体、いえ、きっとこの世界を変えるわよ!なんで誰も思い付かなかったのかしら。」


 それは当然の事かも知れない。

 この世界では、魔法を使えるのは選ばれた人間だけであるのが“常識”なのだろう。

 魔法を使えない人はそれを“普通”として受け入れるし、魔法を使える人はそも道具に頼らなくとも良いのだから、魔法を使える様にする道具、と言うものを発明すると言う考えすら無かったのだろう。


 チートのエリーもまだ研究する事が有ると言うことは、常識を覆しながら発展した科学のように、その内開発されていたかもしれないが。


 第一人者、と言う考えに陽平の心は踊る。

 “何者か”に成りたかった自分が、この世界で夢を叶えている。


「ご協力よろしくお願いします、師匠!」


「なんだか調子良いわねー。まぁいいわ、とりあえず上位の開発の前に、基本的な呪文をマスターしましょうね。炎でも作ってみる?水桶、おいでー!」


 エリーが手を振ると、水を掬った桶がこちらにふわりと飛んできた。

 ああ、やっぱり自分もこう言う“魔法っぽい魔法”を使いたい。

 陽平は、何がなんでも杖を開発しよう、と心に決めた。

ドイツ語もし間違いあったら教えてください……

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