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30歳童貞、魔法使いの弟子になる~チートなのは俺じゃないのか~  作者: 東野月子
30歳童貞、魔法使いの弟子になる~チートなのは俺じゃないのか~
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師匠との生活5日目

「怒られたー」


「いや、だって汚いしあれで問題ないと思ってたのがびっくりですよ。」


 きちんと顔を洗って戻ったエリーに陽平は投げ掛ける。

 えへへ、とばつが悪そうに笑うエリーに苦笑しながら、料理の温めを頼み、二人は食事を始めた。


「水道管はどうなりました?」


「そう!成功したの!」


 エリーは輝く様な笑顔で応える。


「鉄管全部の成分を変えるとなると、全体に魔法を刻まないといけなかったんだけど。表面に膜を作るくらいなら、入水口と、念を入れるとしても出口に刻むくらいで良いのよね!呪文に触れた水が魔法を運んでくれる。水を介して自動で表面を強化出来るの!」


 陽平も嬉しくなり、にこにこと聞いていた。


「ありがとう。」


「え?」


「思いつけたのはヨーヘイのおかげ。これは凄い発明よ!国に売り込めるレベルの!」


 陽平はなんだかむず痒い心地がして、しかし誇らしくも思った。


「……ヨーヘイはやっぱり国に帰りたいの?」


 突然の問いかけに、陽平は戸惑う。


「昨晩、シャワーを浴びて寝ようと思ったら、寝言が聞こえて。『ばーちゃん』って。」


 かぁ、と頬に熱が集まるのを感じた。

 なんて恥ずかしい。三十路にもなってホームシックか。

 いや、ホームシックと言うよりは罪悪感が大きいのだが、心まで15に若返ってしまったのだろうか。


「当然よね、自分の意思で家を出た私と違って、拐われて、全く知らない所に放り出されたんだもの。」


「あの、帰りたいは帰りたいんですけど……」


 交通手段を用意されれば帰れる、という問題では無いのだ。ここが元の世界と繋がっているのかすらわからない。

 今、陽平は、今出来る事をして、ここで生きていける様になる他無い。


「協力する。ヨーヘイが帰れるよう。国も探しましょう。」


 エリーの誠実さが温かい。この人になら、打ち明けても良いだろう。


「俺は、多分、この世界の人間ではありません。」


「え?」


 今度はエリーが驚く番だった。


「俺の世界には、魔法なんてありませんでした。いえ、物語の中には有りましたし、民間伝承なども有りましたが、大抵作り話だとか眉唾物で、実際に魔法が使われている、と言うことはありませんでした。」


 エリーはバカにすることなく、耳を傾けてくれている。


「なんとなく、食べ物だったり、服装だったり、元の世界と似ているところはたくさん有るんですけれど。魔法や、この森の動物が、異世界だって明らかにしている。」


「つまり、世界中探しても、あなたの国は見つからないって訳ね。月や太陽にある国を地上で探すのと同じ事になってしまう。」


「その通りです。月や太陽なら、見えているからまだマシなんですけど。」


 苦笑しながら陽平は応える。

 やはりエリーは聡明だ。こんなに突拍子も無い話を、一度聞いただけで深く理解してしまった。天動説の時代にすんなり地動説を受け入れたような物だ。


「俺に、魔法を教えてください。俺の問題、なんて言うと傲慢に聞こえるけれど、自分の事だから、俺自身でも何かしたいんです。流石に、俺1人でなんとかなるとは思えないんですが。エリーとなら糸口が見つかる予感がします。……師匠。」


「もー!師匠はやめてって言ったのに!まぁ良いわ。じゃあ、あなたを弟子にしてあげる。でも、魔法の勉強以外では師匠はやめてよね。」


 エリーは苦笑しながらも受け入れた。

 朝食を食べ終えると、さっそく魔法の授業を開始する事になったのだった。

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