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30歳童貞、魔法使いの弟子になる~チートなのは俺じゃないのか~  作者: 東野月子
30歳童貞、魔法使いの弟子になる~チートなのは俺じゃないのか~
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師匠との生活4日目2:陽平の役割

「あ゛あー、お腹空く匂いがするぅー……」


 夕飯の支度を終えようかと言う頃、エリーはへろへろと居室から出てきた。


「出来たら呼ぶからまだ研究してて良かったのに。」


「行き詰ったから良いのー、ちょっと休憩。」


 エリーはくたりとテーブルに上半身を預ける。

 陽平は、とりあえずメインディッシュ以外を並べ始めた。野菜たっぷりスープと薄切りの黒パンだ。


「いいねぇ。美味しそう。」


「今日はもっと良いものが有りますよ。」


 陽平は、大皿に円を描くようにローストした人参やジャガイモを盛り付けると、中心にどんと鳥の丸焼きを乗せた。“鶏”ではない、“鳥”だ。陽平が知っている鶏の大きさでは無いし、焼いている間も匂いが少々異なる様であったから、何だか分からない“鳥”だ。テーブルに向かうと、エリーが目を丸くする。


「何それ豪華!」


「防腐庫の中を見てから、作ってみたかったんです。」


「防腐庫?」


「左の“腐らない箱”です。時間を遅らせるだけで腐らない訳じゃないって言ってたし、長いからそう呼んでました。」


「成程良いネーミング。それにしても美味しそうー!」


 そう、初日に防腐庫の中でこの丸鳥肉を見つけてから、これをやってみたかったのだ。

 日本ではクリスマスくらいか、精々それを売りにしたレストランでしかお目にかからないが、丸焼きには何か心をくすぐるものが有ると思う。しかも、この普通の鶏の3倍は有る塊だ。お誂え向きに竈まである。

 表面と内部に塩胡椒とレモンを擦り込み、表面に油を塗って、麺棒を通し、両脇を糸で固定し、ローズマリーの葉をまぶし、鍋を下げるフック2つに乗せてみた。で、他の家事をこなしながら、時々油を塗りつつ回転させる。

 棒は、回転させた後固定されるよう、フックの位置を削って四角くしておいた。麺棒としては失格だが、正直今後出番も無さそうだし、エリーも多分用意しただけであろうからきっと問題ない。

 竈の火を小さくして、昼過ぎから取り掛かった超大作だ。

 陽平の頭の中に、某ゲームで肉が上手に焼けた際の声が響く。


 ナイフで鳥肉を切り分け、互いの取り皿によそった。


「ああー、幸せ。疲れが飛んでいくみたい。贅沢だわー」


 エリーは言葉通りに、うっとりと顔を綻ばせた。

 確かに、皮目がパリッと香ばしくて美味しい。でもちょっと油と水分が飛んでしまっていて、個人的にはもう一つというところ。次は鍋でローストしようか。


「まあ、これくらいしか出来ませんし。」


 途端、エリーが眉をひそめる。

 あ、またやってしまった。陽平は焦った。


「あのね、こんな食事の席で言うのも悪いけれど。ヨーヘイのその卑屈な考え方、あまり良くないと思うわ。」


 言葉に詰まる。

 でも、だって。


「……事実です。命を助けて貰って、見ず知らずの自分を拾って貰って、生活の場から食事、衣類まで与えて貰って。

 その上、俺がこの世界で困らないためだけに、魔法道具まで開発して貰いました。貰ってばかりで返せている気がしない。」


 陽平は、ずっと心にわだかまっていた物を吐き出した。


「……せっかくの食事時にきつい物言いをしてごめんね。私は、ヨーヘイに自信を持って欲しかっただけなの。こんなに美味しいものを用意して貰って、疲れも取って貰った。私だって貰ってる。」


「重さが違う。」


「うーん。あのね。私、本当に家の事が億劫だったの。魔法の事だけ考えていたいのに、洗濯や掃除に時間を取られて、労力をとられて、料理だって面倒な上に作っても美味しくない。でも、食べないと生きられない。美味しいものが食べたいって思いながら栄養を摂取して、後片付けして。

 ヨーヘイが来てから、本当に心が軽くなったのよ。これって、多分、あなたが思っている以上に大きいわ。」


 真剣に話すエリーからは、同情や慰めでは無い事が伺えた。


「それに。翻訳機も、私、ヨーヘイの為だけに作ったんじゃないわよ。」


「え。」


 陽平はぽっかりと口を開ける。その様子に笑いそうになりながら、エリーは続けた。


「うちの国も、異国と交流があるって話したでしょう。そうすると、やっぱり言葉の壁が出来るのよ。で、商売にしても、交友関係にしても、言葉を学べる裕福な人間が有利になる。

 でも、もしその翻訳機が汎用化出来れば、裕福とまではいかない人間でもチャンスが出来ると思わない?

 私はこの謳い文句で儲けるつもり。」


 陽平は面食らう。エリーは俗っぽい考え方なんてしないと思っていた。一緒に生活して、性格も分かってきたのに、出会いや初対面の印象のまま、聖人の様に考えていた。そうして比べて、自分の矮小さを勝手に悲嘆していたのだ。


「今考えている水道だってそう。ヨーヘイが管で水を断続的に使えるようにするのを見て思いついたのよ。この国では桶を使うのが普通だったし、私は水を浮かせてしまうから、私だけなら思いつかなかったわ。」


 ね、と花が綻ぶ様な笑顔を向ける。


「ヨーヘイにはヨーヘイの強みが有るのよ。」


 陽平は心が軽くなっていくのを感じる。

 食事を中断させてしまった詫びを受け、エリーに促されて2人は食事を再開した。

 少し冷めてしまったが、エリーが魔法で温めなおした。

 2人とも幸せそうな笑顔だった。

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