雨音
『雨が降ったらてるてる坊主を窓に吊るさなければいけない』
街では暗黙のきまりがかる。それは雨音さんとの約束。
破ってはいけない約束。雨の日の約束。
「この街にはそういうルールがあるの。」
「はぁ......そうなんですか。」
神妙な顔つきで新しい隣人は話しかけてきた。夜もネオンの光によって照らされたどこか安っぽい街には似合わない都市伝説みたいな話に僕は曖昧な返事しかできない。そんな僕の様子に呆れたように隣人は溜め息をつく。
「信じてないようだけど、これは都市伝説でもなく本当の話よ。警察も頑張ってるようだけど、雨音さんはものともしないもの。気を付けなさい。」
雨音さん。雨の日にてるてる坊主を吊るさない家を首吊りで殺すここら辺では有名な殺人鬼らしい。隣人曰く、1日に一人しか殺さないらしく、置き土産に枯れた白バラを一輪死体の足下に置いていくらしい。芸術を意識してるのか、してないのかよくわからない。
「それで、今日は雨なんですが。」
そう今日は雨なのだ。雨音さんが現れる条件にぴったりの日だ。引っ越し初日が雨の日でも憂鬱なのに、雨音さんなんて謎の殺人鬼が出現するなんて最悪だ。
「そうなんだよ!!どうせ君は引っ越し初日でてるてる坊主を作る余裕なんてないだろう?ほら、君の分だ。今日はこれで凌ぐといい。」
手のひらにてるてる坊主を落とされて、今日はもう帰って寝るといいと追い返された。隣人の挨拶回りも終わったし、風に吹かれた雨が僕の背中に届いてもう随分と濡れてしまった。早く部屋に戻ろう。