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僕と闇一凛 下

以下、回想。

「さて赤谷君、私は付き合ったからには恋人らしいことをしたいわ。明日にでもデートに行かない?」

「またまた行動が早いですね、闇一さんは」

「これは意外と普通だと思うわよ。メールでこそこそ話したって何かわかるわけじゃないもの。一緒にいるからこそお互いを理解しあうことが出来ると私は考えているわ」

「そういわれては返す言葉がありませんね……」

「いってくれるの!? じゃあ約束! 絶対よ絶対! 男に二言はないんだからね!!」

「……まぁ、行くとしたらどこに行こうとしているんですか?」

「遊園地よ」

「遊園地、ですか?」

「えぇ。映画もいいと思ったんだけれど、接している時間が長いのは遊園地が一番かなと思って」

「確かにそうですね……。ていうか遊園地なんて行っちゃっていいんですか? 神明団のメンバーって全員指名手配されてますよね?」

「ちゃんと変装するから平気よ。何も考えてない団長と一緒にしないで」

「それは安心です。じゃあ明日の午後から遊園地で遊ぶことにしましょう」

「じゃあこの遊園地でいいかしら?」

「ここですか? こっちのほうが近いし安いですよ?」

「この遊園地でいいかしら?」

「いや、あの」

「こーのーゆーうーえーんーちーでー」

「いいと思いますいいと思います。ぼくはその意見に大賛成です」

「じゃあ決まりね。それじゃあまた明日遊園地で会いましょう。おやすみなさい、赤谷君」

「おやすみなさい、闇一さん」

こんな会話があり、僕と闇市さんはデートプランを立てた。


闇一さんが選んだ遊園地に、カップルにお勧めの乗り物がたくさんあったことは言うまでもない。




神童さんと別れた僕はそのまますぐに遊園地に向かったが、それよりも早く闇一さんが着いていた。

というか最初闇一さんだと気づかなかった。

昨日は服を黒一色で統一していたが、今日は真っ白なワンピースを着ていた。長くきれいな黒髪はポニーテールになっており、さらに眼鏡もかけている。随分念を入れた変装だった。

「ごめんなさいね。本当ならあなたの好みを聞いて、それに合わせたりしたいんだけどそうもいかなくて……」

「大丈夫です。それに白も似合うと思いますよ?」

「ほ、ほんとに? ほ、褒めたってビートボックスくらいしかしてあげないんだから……」

「結構神対応じゃねーか」

やっぱりこの人ちょっとどころかかなりぬけてるところあるな……。たまに何が言いたいのかわからない。

「じゃあそろそろ行きましょう。たくさん遊びたいことだし」

「そうですね」

少し緊張しながら僕は闇一さんと一緒に、遊園地に足を踏み入れた。




それからしばらくして「ちゃんと楽しめているかしら?」と闇一さんが聞いてきた。

「えぇ、楽しいですよ。遊園地ってあんまり行ったことがないので少し不安でしたが……。こんなにたくさん乗り物があるとは思っていませんでした」

「それはよかったわ」

どうやら気を使わせてしまっていたらしい。

「あのね…実は団長からあなたのこといろいろ聞いているのよ」

「まぁそうでしょうね」

僕も事前にいろいろ聞いていたのでそうだろうと思っていた。

「人間が嫌いだとか、恋愛感情を持ったことがないとか、付き合ったことがないとか、横山っていう仲の良い子がいるとか」

……余計なことまで教えてない?

「もちろんそっちも団長から私のこと聞いていると思うけど、私は男が大嫌いなのよ。あなたは好きだけどほかの男は無理」

「僕たちって結構似ているんですね」

「そうね。嬉しいことに」


ただし


「あなたが変わろうとしていることを除いてね」

闇一さんはそう続けた。

「これも団長から聞いたんだけど……、今の自分が嫌いなのよね?  常に周りを気にして、『性能』を気にしている自分が嫌い。だから団長のように自由に行動できるような人になりたい……。そうよね?」

「……まぁ大体そんなところです」

「あなた、変わらなくていいわよ」


「え?」

どういうことだ。そんなこと無駄だと言っているのだろうか。

「別に否定しているわけじゃないのよ?」

闇一さんは慌ててそう付け加えた。

「というかよく考えてみて。自分のことが好きな人なんてなかなかいないわよ?私だって大嫌いよ。嫌いなことが好きになれなかったり、出来ないことが出来るようにならなかったり。でも」

「でも?」

「そういうことを他のことでカバーできる人が強い人だと思うの。団長みたいに、強くなれると思うのよ。自分が強いと思えれば少しは好きになれるはずよ」

「……そんなこと、できません」

闇一さんの言葉に僕はそう返す。

そう返す、ことしかできない。

「僕には補うほどのものがありません。中身すっからかんの男です。そんなことは」

「何一人でやろうとしているのよ」

闇一さんは馬鹿にしたように笑う。

「私を使えばいいじゃない」

「え?」

「私は自分のことは嫌いだから変わろうと頑張れないけど……、でも」

闇一さんは照れたように笑って続ける。

「あなたのことは好きだから。一目惚れでも好きなものは好きなの。だからきっと変わるのを手伝ってあげられると思うの。私があなたが嫌いなところを好きになってあげる。それじゃあだめなの?」

「……それじゃあ結局あなたに頼ってしまうじゃないですか」

「だから関係ないのよ。頼っても頼らなくても!」

彼女は大きな声でそう言った。

「そうすることであなたが強くなるんだから。そのためなら私はいくらでも好きになるわ!」

どこでもね、と彼女は笑う。綺麗な笑顔で。


僕はようやく気付く。

彼女は強い。どれだけ自分が嫌いでも、それは変わらないことなのだ。僕よりも、だれよりも自分を変えようとしたのだろう。

だが変わったところで自分はこれ以上強くなれないと気づいたのだろう。彼女は現時点で最強なのだから。


でも彼女は僕と付き合った。それで自分が変わってしまうことを知りながらも。


僕という弱点を持つことで、弱くなってしまうと知りながらも。


僕を守ろうとまでしてくれる。


「ありがとうございます。でも僕は変わります。強くなるために」

「あら? そうなの?」

「僕も闇一さんを守りたいんです。そのためには強くならないと」

闇一さんはとても驚いた顔をしたが、すぐにまた笑顔になった。

「そうね、男の子に守られるのも体験したいわ」

「あと闇一さん」

「なに?」



「将来絶対結婚しましょう」


今日1日ですっかり惚れてしまった僕だった。






「こら~~~~!! あーかやく~ん!!!」

次の日学校に行くと、横山が物凄い勢いで駆け寄ってきた。

「昨日遊園地で見たよー? 何あのちょー美人なおねーさんは!?」

どうやら見られてしまったらしい。全く気付かなかった。

「で、あれ誰なの?」 どうせ彼女じゃないんでしょ?」

「いや、彼女だよ」

僕は自慢するようにそう答える。



「僕の大好きな、最強の彼女さ」

ついでに「婚約もしたんだぜ?」と笑って付け加える僕だった。

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