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断固拒否

 母親からその男を紹介されてから、良介と妹のサナは母の再婚について、「断固拒否」の姿勢を取っていた。

 

 

 


-----

 

 

 男を紹介されてから、3日が経過した。

 

 「ごちそうさま。」

 

 「苺があるわよ。美味しいと思うの……」


 席を立つ良介を引き止めるかのように、桃子は早口でそう言った。

 頬にはぎこちない笑みをたたえている。

 あれから桃子は、二人の我が子に気を使っていた。

 

 「いらない。」

 

 良介はそう残して、仏間に向かった。

 気を使うくらいなら結婚なんて辞めればいいと、彼は思う。

 妹のサナも同じ気持ちに違いない。

 どこからともなく現れた男に、母親を渡す訳

にはいかないと思っている……

 ただ、それだけのことだった。

 

 仏壇の前に正座して、目を瞑る。

 こうすると、生前の父親の姿が鮮明に蘇るのだ。

 

 満開の桜の下、良介は桃子の作ったおにぎりを頬張っている。

 サナは、父親の膝の上で舟を漕いでいる。

 良介もサナも、まだ幼かった。

 ふ、と

 父親は、シートの上に桜の花を見つける。

 花弁に傷がないものだ。

 父親はそれを拾い上げ、少し眺めると、サナの髪の毛を結わえたゴムに差し込んだ。

 色の白いサナには、桜がよく似合っていた。

 父親は、目を細める。

 それを見て、桃子も微笑んでいる。

 

 ……暖かい記憶。

 良介もサナも、実の父親が大好きだった。

 それは、母親の桃子も同じはずである。

 それほど生前の父親は、彼らにとって必要不可欠なものだった。

 

 桃子は、誰からも褒められるほどの美人である。

 あの忌々しい男が、夫が亡くなり、まだ整理がついていなかった桃子の心に漬け込んだ。

 きっと桃子欲しさに汚い手を使ったに違いない。

 良介はそう確信していた。

 

 桃子に冷たくするのは間違っているなんて、そんなことは分かっている。

 これは、八つ当たりに近いものなのだろう。

 彼は、再婚した母親が、今までの母親と別物になってしまう気がしていた。

 

 背中の向こうに気配を感じ、目を開ける。

 振り向くと、サナの姿があった。

 何か言いたそうな顔をして、俯いている。

 

 「どうした?」

 

 なるべく、優しい口ぶりで話しかける。

 

 「ううん、見てただけ。

 お兄ちゃん、よくそうして考え事してるなぁと思っ

 て」

 

 この発言が、本当かどうか確認する方法はない。

 考えても仕方がないので、妹の言葉を信じることにする。

 

「こうして毎日、父さんとの思い出を振り返るんだ。

 記憶を、離さないために」

 

 サナは仏壇に近づき、良介の隣に正座した。

 

「今日も、部屋で夕飯食ったのか?」

 

「そうだよ。絶対、許さない。」

 

 彼女は静かに目を瞑る。


 ……暫くの間、静寂が続く。

 黙祷の長さを不思議に思って、良介は妹の顔を覗き込んだ。

 彼女の頬には、一筋の涙が流れていた。

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