魔法騎士 魔央
その夜美珠は館に戻ってきた魔央に昼に目撃したものについて問うため、部屋を訪れた。
魔央の部屋には古い古文書がたくさんあり、火の灯された蝋燭が並んでいた。
美珠は魔央に椅子に座るよう勧められ、席に着くと、その向かいに魔央は腰を下ろした。美珠は一つ咳をすると心を決めて、魔央に切り出した。
「私、今日、見てしまいました。公園で・・・。」
魔央の表情が一瞬にして曇った。普段全く表情を崩すことのない、冷静な男が一瞬見せた動揺だった。
「あの中にいらっしゃったのですか?・・・ああ・・・見られてしまったからには、もう何の弁解もできませんね。私としたことが・・。」
次の言葉が出てくるまでにかなりの時間を要した。
「あの子は魔法騎士なんですが、桁外れの魔力の持ち主で、・・・五年前に自分の家族を焼き殺してしまったのです。自分の力の暴走が止められずに・・・。」
「焼き殺した?」
「ええ。私が到着したときにはあの子は炎の中で泣き叫んでいて、止めるのに一昼夜かかりましてね・・・。消火できたときには私もあの子もヘトヘトで・・・。そのまま二人で病院に運ばれていきました。それから、身寄りの亡くなったあの子を騎士に育てるために引き取りました。でも毎晩声を殺して泣くあの子が不憫でそばにいるうちにある種の愛着が沸いて、自分からあの子を求めるようになりました。男同士で何をしてるんだと思われるかもしれませんが、私にはあの子の性別なんて関係なかったんです。あの子が愛しい、可愛くて仕方ないんですよ。それなのに・・・あの子を切り捨てようとした。あの子を傷つけてしまった。」
魔央は肩まで伸びた黒髪をかき上げてからつぶやいた。
「私にも野心がないかというと、そんなことはありません。王になれるかもしれないという期待で眠れない日もありました。しかし、神は全てお見通しだったのですね。うまくいかないものですね人生っていうのは。因果応報ってところですか・・・。」
魔央の目にはもう何の迷いも見受けられなかった。
「きっと、この先二人で生きてゆくのは辛いことも多いでしょうが、あの子を守り抜くのが私の使命です。あの子を愛してしまったんですから。もちろん団長としての職務も全うしますよ。・・・美珠様・・・。黙っていたことを、お許し下さい。私の弱さの致すところでした。」
「いえ、私も女の人と男の人は自然に愛し合うものだと思っていて、同性同士でなんて考えたことはありませんでした。でも、そうですよね、そうなんですよね・・・。愛し合えるんですもんね。」
「いえ、不道徳な我々が悪いんですよ。でも私とあの子には道徳なんて関係なくて、気持ちだけがあれば十分なんです。子供もできませんし、人からも蔑まれますが・・・。」
「でも、その気持ちが一番なんですよね。愛し合う、想うってことが・・・。」
「ええ。私はそう思っています。」
魔央は心からの笑みを美珠に見せた。美珠も穏やかに笑った。
「教えてくださって・・・ありがとうございました。私なりにもう少し考えてみたいです。」
「ええ。」
部屋から出てゆく美珠を見送った魔央は死角になっている柱の影にいる男に声をかけた。
「君もいたのかい?はあ・・・隠し事はできないものだね。で、君は私に何が言いたくてそこで待ってるんだね?」
「・・・愛する人がいて、それでも自分の欲の為に美珠様を利用としてるのならまず貴方を団長の地位から引き落とさないとと思いましたが・・・」
「美珠様は思っていたよりもしっかりされた方だな。話してよかった今は素直にそう思える。あいつに猛烈に会いたい。きっとしばらくは口も利いてくれないだろうな。」
「ははは、貴方がうらやましい。あなたはもう愛する人が手に入っているんだから。」
光東は笑って自分の部屋に戻っていった。