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復讐

「何ごとだ?」

桐に焦りはなかった。無表情のまま顔をそちらへと向ける。

「この化け物!」

土埃の中から何かが飛び出した。

桐は手の平をそちらへと向け、予想の範囲であった侵入者に攻撃を仕掛けようとした。

けれど、雷が放たれたときにはもうそこには誰もいなかった。

「何?」

後ろで茶色の髪がなびいた。

「どこみてんの?ここだよ。」

珠利は言葉を放つと同時に、支給された水晶の小刀で桐の胸元を斬りつけた。

桐は紙一重でかわしたが、手が開放された珠以が下で剣を左手に持ち替え自分に苦痛を与えていた足を斬った。

「ぎゃああああ!」

桐は絶叫をあげた。それは紛れもなく本当の痛み。

そして足からは泉のように血が溢れていた。

「珠利、助かった!・・・美珠様は?一緒では?」

「ご無事だ。」

体を起こした珠以に孝従は顎で示した。

振り返ったそこには暗守に抱き上げられた美珠がいた。

美珠は珠以を見つけるとまるで宝物を見つけた子供のように目を輝かせた。珠以は駆け寄っていた。彼女の無事を、温かさを自分で確認したかった。

暗守はそれをみて美珠を下ろした。

「逢えて・・・良かった。」

「美珠様・・・この血は・・・。」

珠以は血で汚れた服を見て一瞬触れることを躊躇った。

「大丈夫・・・だから・・・。そばにいたくて・・・。」

その言葉を聞いた珠以は桐とその夫が別れた瞬間のように美珠の頬を撫でて抱きしめた。

「あなたは無茶をする・・・。」

「・・・珠以・・・怪我はない?」

珠以を見つめようとした美珠は桐と目が合った。

桐は怒るでもなく、哀れむでもなくただ静かに美珠を見下ろしていた。が、後ろからかけられた声に憎らしそうな顔を作り、美珠から視線をはずした。

「お前ももう終わりだな。」

「孝従。お前も寝返ったというわけか・・・。この根無し草。・・・竜桧は?殺したのか?」

「死んだよ。最後までお前を気にして。」

光東だった。

「そうか・・・死んだか・・・。。」

桐は無表情で言い捨てると、部屋にいるものを一瞥し、息を吐いてから魔法を四方に撃った。

しかし先ほどまでの勢いは無かった。

魔希がかけた風の魔法に魔央が力を加えかまいたちが何本も桐を襲う、それを紙一重でよけたところで今度は、珠利と聖斗が桐に斬りかかった。

「っち。分が悪い・・・。」

桐は逃げようと何かを唱えはじめた。目の前に水晶の剣を振り上げた暗守がいた。

「くそお!」

桐が叫ぶと細くそして鈍い氷の矢が何本か散った。

暗守の鎧はその矢から彼の体を守った。

「珠以、奥義を打て・・・。時間を稼いでやるから。準備をしろ。」

孝従だった。

「・・・このために教わった奥義だ。」

「はい。」

その返答を聞くと孝従は桐にかかっていった。

孝従はかつて仲間であった桐に剣を向けた。その眼にはまっすぐだった。

「珠以・・・。」

「・・・できます。信じてください。」

「うん。信じる。」

珠以は美珠に微笑むと、ゆっくり美珠から手を離し水晶の剣を構えた。

要領は魔法剣と同じ。だから奥義は自分に教えられた。

あの当時、最も優秀な魔法剣使いだと言われた自分に。

珠以は呼吸を整え、精神を剣へと集中させる。

桐が珠以の行動に気が付き魔法をかけようしたが、それは孝従と珠利が阻んだ。

その間にも珠以の剣には炎・雷・氷・風の力が集まってゆく。

やがて水晶で出来た剣は真っ白い光を放ち始めた。

それはまるで暖かな陽の光のようだった。

「よせ!やめろお!」

錯乱した桐は魔法を乱打した。

部屋中に炎や氷、雷でできた矢が飛んで行く。珠以を守るため孝従と珠利は体中に無数の傷を作ってとめたが、それでも止まらぬ分は聖斗の剣と魔法使い二人の結界が珠以と美珠の前に立ちはだかり落とした。

そして強烈な閃光とともに後ろから珠以が飛び上がった。

「消えろ、魔女!」

「いやああああああ!」

珠以は桐の頭から剣を振り下ろした。

桐の体は珠以の剣の光によって頭の先からまるで蝋のように下へと溶け始めた。

「まだ、死ぬわけには・・・生きて・・・生きて・・・復讐を・・・。」

それでもなお桐はまだ諦めてはいなかった。手のひらに炎が集まりだす。

「生きつづけることが・・・私の存在・・・意義。そして復讐を。」

けれどその手を誰かが強く握った。炎で焦げる肉の匂いがした。

正気を失いかけた桐の目にもう一度あたりが見えた。

「お前・・・。」

「私もずっと片思いをしていて・・・、やっと気持ちが通った嬉しさは分かるつもりです。」

 右目はすでに溶け、残る左の目は涙をおとす美珠に注がれていた。

「それにやっと気持ちが伝わったのに、おいていかれる寂しさも・・・。ごめんなさい。あなたの幸せを欲の為に奪って・・・。ごめんなさい・・・。」

美珠は涙を止められなかった。

すべての桐の想いが流れ込んできていた。悔しさ寂しさ、愛しさ。

それを自分と珠以に置き換え考えると辛くて仕方なかった。

「あなたのご主人があの術を守ってくださったから、私たちの祖先は自分達の与えられた時間を守ることができた。だから、私も生まれることができたんです。」

桐の脳裏に自分をおいて先立った夫の背中が浮かんだ。

気高く、優しい愛する夫。それを人の口から聞けて桐は微笑んでいた。

「・・・何で、百年以上前のこと知ってるんだい?」

「分かりません・・・でも、あなたの気持ちが流れ込んできたんです。」

「そうか・・・。」

桐はどこまでも青く続く空を涙を浮かべて見ていた。

やっと、あの人に逢える。それはいつも心の一番奥底に持ってきた想い。

夫の遺志に反するため自分自身にも隠し続けてきた本当の想い。

「やっぱりあの人なしで幸せになんてなれなかった・・・。」

桐はきつく美珠の手を握った。

すると美珠の体を優しい緑色の光が包み込んだ。

「でも・・・それでも竜桧は・・・あの人と同じように私を女の子として扱ってくれた。私の瞳の中をいつも覗き込んでいた。私が魔法使いだと知った後も・・・、同じように。もしかしたらあの子は私の力じゃなくて私自身を見てくれてたのか。あの人が言ってた幸せっていうのはすぐそこにあったのかもしれない・・・。手を伸ばせば掴めたのかも。笑えるだろ?こんな私に一緒に生きようって言ってくれて・・・嬉しいもんだね。そういうの。」

 桐の出す光は美珠の傷を優しくなでていた。

「でも、もういい・・・。何だか体がすごく重たい・・・。今は眠りたい・・・。あの人のそばで・・・ゆっくり・・・。」

その言葉を最後に桐の体は風とともに消えていった。

美珠は何もなくなった手のひらを見つめて視線を上げた。

そこには珠以がいた。

「ねえ、珠以・・・。」

「はい?」

「・・・生きていてくれてありがとう。」

「美珠様。」

「本当にありがとう・・・。」



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