最終決戦
「よし・・・。顔色が戻ってきた。」
「あ、意識が!」
相馬と初音の声が耳に届いた。
目を開けると魔希の放つ暖かい白い光が見えた。傷ついた魔希は自分より先に美珠の傷を癒してくれたようだった。
「復・・・讐?」
(今のは・・・夢?桐の夢?じゃあ、この前の悲しい気持ちはすべて桐の気持ち・・・?桐はこんなに悲しい思いをしていたの?)
「美珠様!」
体を起こそうとすると暗守が支えてくれた。
夢うつつの美珠は暗守の優しげな水銀の髪を暫く見つめていたが、一筋の濃い紅色を見て我に返った。
「暗守さん!額から血が!」
「大丈夫です。あなたこそ・・・。」
美珠の負担が最小限になるようにゆっくりと、しかし力強く抱き起こした。
腕の痛みに一瞬顔をしかめた美珠の耳に何かの重い音が聞こえた。
先ほどから連続する爆音を美珠はここにきて初めて認識した。
「この音は!」
「桐の魔法でしょう・・・。あの魔女め・・・。」
「珠以!」
こんな轟音の中珠以が戦っているかと思うと胸が痛んだ。
歩こうとすると目の前がくらんだ。
「珠以・・・。こんな中にあなたは・・・。」
ぐっと、自分の足で踏ん張り、前を見る。
「我々も参ります。あいつ達を戦わせ、自分達は戻ることなどできませんから。」
「暗守さん・・・。」
「それが騎士というものです。」
光東もいつものように穏やかに微笑んだ。美珠は無意識のうちに笑顔になれた。
「ありがとう・・・。皆さん・・・。」
「う・・・。」
ずっと援護していた魔央が桐の魔法で吹き飛ばされた。
黒の法衣が風にはためく程のかなりの速度で壁に激突し、その場に倒れた。
その為、珠以と聖斗は水晶の剣を持ちながらも得意の接近戦に持ち込むことが出来ず、接近しようとすると逆に攻撃魔法がかけられた。
魔法を避けて着地をすると、聖斗と対極に位置する形になった。
珠以は桐越しに聖斗の姿を確認し、間合いを計る。
「どちらかで・・・いい。」
どちらかが桐に傷を負わせればいい。
聖斗にその声は聞こえてはいなかったが思いは同じだった。
先に動いたのは聖斗だった。
それは桐をひきつけるような動き。
聖斗の最大の武器は瞬発力。
それは誰にも負けないと自負しているもの。
珠以も見計らって、近寄った。
「今だ!」
聖斗と珠以は隙を見つけ、お互い勝利がよぎった。
けれど、桐は口の両端を持ち上げ気持ちの悪い笑みを浮かべた。
その笑みを見た聖斗には防御姿勢をつくる時間が与えられた。
桐は自分の体から放射線状に雷を放った。
聖斗は瞬発力で逃げることができたが、珠以は不意の攻撃でその場に倒れこんだ。
「ぐ・・・。」
「弱いねえ・・・。」
桐は楽しそうにコツコツと黒いヒールの音を響かせ、感電し動けない珠以の横に立つと、踵で右手を踏みつけ笑った。
「騎士なんて・・・こんなもんかい・・・。はあ、カスの集まり。」
「何だと!騎士を侮辱するのか!」
「侮辱も何も・・・女相手に何人でかかってくるんだい。」
桐がそういった後ろで聖斗が攻撃姿勢をとっていた。
けれど桐の手が挙がると、聖斗は金縛りにあったように全く動けなくなった。
「・・・国明・・・。」
「ここで・・・俺たちが倒れたら。美珠様に・・・。」
「おや、あの姫の心配かい?心配せずともあの姫は暫くは生きつづける。あの姫はこの私に選ばれたのだ。そう思えば悔しくもあるまい。」
「ふ・・・ざけるな!」
すると桐は踏みつける力をさらに加えた。
国明は声を上げずただ相手を睨み付けた。
「悔しいか。私の手にかかって死ぬのは?なんならあの姫が私に入れ替わる様をみせてやろうか?そうか、ならば体を入れ替えた後、あの姫の体で騎士を全て殺してゆくのもわるくはないか・・・。」
「そんなことさせるか!」
国明は動こうとした。けれど桐の爪が鋭い剣に変わり、首に突きつけられた。
「国明!」
聖斗が叫んだその時、部屋に爆音が響いた。