馬鹿姫の昼食
館に戻るとちょうど暗守が竜から降りた直後だったのか、玄関で美珠を出迎えた。
「今日はお早いのですね・・・。」
美珠は先ほどの怒りをまだ噛み殺しながら暗守に声をかけた。
「何かあったのですか?」
「何故ですか・・・。別に、何も。」
すると暗守は美珠の眉間を示した。美珠はハッと気が付き自分の指でチョイチョイと皺の刻まれた眉間を押した。
暗守は美珠の仕草を見て笑い、美珠もつられて笑い返した。
そして気を取り直し暗守に尋ねた。
「どうなさったの?」
「仕事が一段落したので、帰ってきたのです。最近剣術の稽古も全くしていませんしね。そうだ、折角です、庭でお茶致しませんか?」
(こ、これはお誘いですか?暗守さんが私を誘ってくださった?)
「ええ、私もちょうどおなかがすいていたんです。」
二人を出迎える芹に食事を頼み、暗守の部屋のテラスへ向った。
「で、光東さんのところへ行ってきたんです。暗守さんは何位だったの?」
「三位です。準決勝で聖斗に当たりました。」
「聖斗さんはそんなにお強いの?あまりお話したこともないから・・・。」
「あいつの運動能力ははるかに我々を超えています。瞬発力が並外れて早いのです・・・。私の様な一撃で勝敗を決める人間は弱いですね・・・。」
暗守は懇切丁寧に説明してくれた。美珠はサラダに入っていたトマトを口に入れ、それを食べ終わってから意を決して話題を振った。
「男色って何です?」
暗守は話の流れから到底でるはずの無い言葉を聞いて、一瞬空耳かと考えた。けれど目の前にいる姫はその答えを待っていた。
「は・・・?・・・いきなりどうなされたんです?」
「いけないことですか?」
「さあ、いけないことかどうかはご自分の判断になるでしょうが・・・。教会も黙認していますしね。まあ、平たく言えば、男が男を好きになるということです。」
「男が・・・男を・・・?そんなことできるんですか?」
「さあ、私はそうではないので分かりませんが・・・。騎士には割といますね・・・。」
「そ、そうなんですか・・・暗守さんは?好きな方はいらっしゃらないの?」
暗守は美珠の質問に絶句したが、すぐに口を開いた。
「私は、好きでない方をお茶に誘う人間ではありませんよ。」
(私、本当に馬鹿姫かもしれません。)
美珠が照れてうつむいたのを暗守は青い目でじっと見つめてた。
「本当に美珠様は可愛い方だ。」