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帰る場所

「美珠様、大丈夫?何で私庇うの!私は美珠様を守るために・・・。」

「珠以も珠利も私の大切な仲間なの!庇うに決まってるでしょ!」

「美珠・・・様・・・。」

深々と剣の刺さった腕は骨をかろうじて避けたものの血管や肉を絶ち斬りおびただしい血がはじけ出た。

たとえどれだけ強く押さえつけようが、溢れ出る血は目に見えて濃い色に変わってゆく。

「あの子達はは敵すら討てない父を許してくれるだろうか・・・。」

そう無意識に呟く孝従の目にもう戦闘意欲はなかった。

「もしかしたら許してくれないかもしれない。本当は敵を討って欲しいかもしれない。それぐらい悔しかったと思うよ。でも・・・でも私は、先生に幸せに戻って欲しい。」

「珠利・・・。」

「私、知ってる。先生が笑顔でも、なんか寂しそうだったの。だって、私と一緒だったから。私も家族がいなかったから、美珠様や珠以といてその時は楽しくてもふと寂しくなることあったから。でも、そんな先生には家族ができたんだよね。待ってる人が出来て良かったじゃない。私はまだ家族も誰もいない。待ってる人がいるっていうのは。すごいことだよ。」

珠利は孝従の腕を力いっぱい掴んで笑った。

「孝従は変わったんでしょ?昔の孝従とは変わったんだよね?」

美珠はそんな孝従をただ覗き込んだ。

「心を・・・開いてくれたって咲さん言ってた。」

美珠は震える指で指輪を渡す。孝従はその指輪を手のひらにおいてただ眺めていた。

それは妻や子供を眺める瞳そのものだった。

「いつの間にか・・・自分でも知らないうちに・・・。心は開いてゆくものなんですね。開けたつもりなんてなかったのに・・・。」

焦れたのか珠利は孝従の手を掴み指輪を無理矢理はめた。

「帰ろうよ。先生。」

孝従は目を閉じ深呼吸をした。脳裏には失った大切なものとこれから守るべき大切なものが交互に浮かんだ。

けれどすぐに答えは出たようだった。いや、本当の答えははじめから分かっていた。

「帰りたい・・・。」

その一言に全ての思いを込めた。

「私は、かつて桐と手を組み珠以を殺し、自分自身もあなたに殺されかけた。しかし、その後の人生は穏やかなもので、妻や子供に囲まれて・・・幸せだった。でも・・・半年前、子供が殺された時感じたんです。自分には安息は無いんだって。」

「そんなこと無い、・・・孝従の築いたものは香里の村に・・・ちゃんとある。」

「ええ、そうですね・・・。今こうやって心静かに思うとそうかもしれません。咲を守り、子供を守らねば・・・。」

腕から血が滴り落ちる美珠を孝従は抱き上げると、珠利が後ろで嬉しそうに笑った。

「先生のこと昔から大好きだったよ、例えそれが本当の姿じゃないとしても。本当のお兄ちゃんみたいだったし。」

「そうだな、お前は何があってもおれの後ろ着いてきたな・・・。」

孝従は敵からの不意の襲撃に備え貴賓控えの間を選び、美珠の傷口を高く上げ抑えた。

珠利は鞄から包帯を出した。

「美珠様。」

初音が心配そうにのぞき込む。

「大丈夫・・・。痛いけれど。生きてるわ。」

「廊下・・・。何も居ないみたい。手当が済んだらここから逃げ出すか。」

相馬の言葉に美珠は首を振る。

「珠以の所へ行きたい。あの人を助けたい。」

「今の美珠が行っても邪魔になるだけだよ。」

 相馬は美珠の言葉を否定した。

しかし美珠は痛みのあまり潤んだ目で相馬に必死に訴えかけた。

「・・・死ぬのなら、あの人の側で死にたい。」

「・・・珠以か・・・、強くなったものだな。あいつも。」

「ええ、だから私も負けていられない!こんな所で休んでられないの。」

 口では強がって見せたが、心の奥底では不安で一杯だった。悲鳴を上げる体を酷使し、立ち上がろうとするとふらつき、見かねた相馬が肩を貸した。

「分かった。行こう、邪魔っていってごめん美珠様!」

「好きな人の側か・・・。私も行くわ。」

初音はあたりを見回して、兄を探し始めた。

「師範、美珠様と珠以幸せにしてあげたいね。」

珠利が呟くと孝従は少し顔を緩めた。

「ああ、美珠様、変わられたな。本当に。」


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