出立
夜明けまえの広場は緊張で満ちていた。
設けられた台の上には教皇、美珠、将軍、団長達が並び、その前には七万人の人間が整列していた。
「我々は王都奪還のため戦う。王都に残されたままの家族、民を救うため。戦いは人外のものとの戦い。辛いものになるだろう。けれど忘れないで欲しい。隣で戦うものは仲間。国王側、教会側、軍も関係ない。この国を救うことをできるのは我々!皆心を一つにし戦うのだ!我々は一つなのだ!」
教皇の声は今までないほどに神がかったものだった。それは今から戦いに行くという極限の精神状態におかれた者たちに光を与えるもの。そしてそれこそが教皇としての本来の役目だった。
教皇の言葉を聞いた者達は誰に言われることもなく剣を空に掲げ、喊声を上げた。
それがさらに自分達の精神を鼓舞させた。
「では、出立!」
「第五師団、王都に向けて進撃!」
「暗黒騎士団、進撃!」
「魔法騎士団、各小隊、補助魔法開始。」
将軍の声と各副団長たちの声があがり、軍は動き始めた。それと同時に壇上の団長達も選抜された精鋭たちと合流した。
美珠はただ竜に乗った珠以を一生懸命目で追っていた。珠以は一度美珠のほうを見ると優しくそして悲しそうに笑った。
(そんな顔、そんな優しい顔されると辛い。)
追いかけたとしても・・・もしかしたら会えないのかもしれない。
これが・・・会える最後になるかもしれない。
そう思うと胸が痛くて、涙が出そうだった。
珠以の内心も切なさで一杯だった。この愛しい人のもとへ二度と戻れないかもしれない。美珠の泣き顔を思い浮かべると辛くて仕方なかった。
だから自分は精一杯笑いかけた。すると美珠も笑顔を向けた。
けれどその後も辛さは消えなかった。
隣の暗守がつぶやいた。
「お前だけは死なせない。・・・あの人の涙など見たくないからな。」
「はは、そうですね。君は生きて戻ってあげてください。美珠様、そしてこの国のために。君になら任せられそうですからね。正直誰かのために自分の命をかけることなど馬鹿馬鹿しいと思っていましたが、美珠様そして愛する人を守って死ぬのも悪くありませんからね。」
「誰かを守ろうとする思いは力になる。そうやって私も強くなった。」
「誰かを守ろうとする思いか・・・。愛する人のためにならなんだって出来るさ。」
魔央、聖斗、光東の言葉を聞いた珠以は首を二度横に振った。
「何弱気になってるんだ?お前ら皆、この国を代する騎士団の団長だろ?しっかりしろよ!俺達は無敵だ!全員生き抜く!これが今回の約束だ!」
珠以も自分を鼓舞するために声を張り上げた。
すると後ろから珠以にも負けない大声がした。
「皆さん!絶対帰ってきてください!皆さんの未来のためにも、そしてあなたの帰りを待っている人のためにも!」
それは珠以の為の言葉ではなく美珠がその場の全員にかけた言葉だった。
皆一度美珠に顔を向け立ち止まると敬礼し、そして王都へと足を向けた。
「今の言葉きっと皆の心に届いたでしょう。でも、本当にあなたも行ってしまうのですか?」
「ええ、もう離れないそう決めたんです。」
教皇は美珠をきつくきつく抱きしめ、娘の大きくなった体と心を感じていた。
「気をつけて。あなたも必ず戻ってきて・・・。そしてまたこうやって抱きしめさせて。」
「はい。お母様・・・。戻ってきたら、恋のお話聞いてもらっても良いですか?あと、どんな家庭にするのがいいのか・・・。」
「ええ・・・。私も教皇ではなく母として貴方の話をたくさん聞きたい。国を治めるものとしては間違っていても、国王のように娘を溺愛する親になって、いろいろなことをしてやりたい。・・・ごめんなさい・・・。今まで。」
美珠は母の暖かさを肌で感じながら母に微笑みかけた。
「行って来ます。」
「ええ、行ってらっしゃい・・・。必ず無事で戻ってきなさい。」
「はい。」




