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娘、跡継ぎ

次の日は軍事基地一帯が戦闘に備え、あわただしいの一言だった。

朝から初音に髪を切りそろえて貰った美珠はおかっぱという今まで経験したことのない短い髪になってしまっていた。

「まあ、可愛い。」

美珠の髪を包帯の巻かれた手で触る。

「火傷・・・、どうですか?痛みますか?」

「軽い火傷よ。大丈夫。それよりあなたは?」

「お母様が助けて下さったから。」

「当たり前でしょう。母親ですもの。」

美珠の言葉に教皇は嬉しそうにそして誇りを持って微笑んだ。

「ねえ、お母様。私。」

「行きたいと言いに来たの?珠以が相談に来たわよ。どうか避難するよう説得して下さいって。愛してるから生きて欲しいのだと。」

 そう願う珠以の気持ちは分かる。けれど・・・。

「私・・・孝従をお父さんに戻してあげたい。幼い子を騎士に殺され無茶苦茶になってしまった家族を元に戻してあげたい。それに・・・珠以と離れたくないの。もう二度と。」

「そうね・・・。母として私としても行ってほしくない・・・けれど、私も国王に逃がされてから毎日が辛かった。どうして私を逃がしたのか。共に死のうと、どうして思ってくれなかったのかと・・・。だからこそ、あなたはあなたの信じた道をお行きなさい。跡継ぎではなく一人の女性、人間として。」

「お母様・・・。」

「それが親としての私の言葉です。」

美珠は母の方に笑いかけると、母は首飾りをはずした。今まで一度も外すことのなかった新婚当初夫からもらった指輪を首飾りにしていたもの。それを美珠の首にかけた。

「あなたの行く先に光がありますように。」

教皇は母として祝福の言葉を美珠に掛けた。

目には涙が浮かんでいたが、決して泣き言は言わなかった。

美珠は改めて自分の決意の重みを感じた。

そして深く頷くと母と父の顔を見る。

父は目を開けて美珠の方を見ていた。

美珠はそんな父の右手に触れると笑顔を見せた。父も娘に笑顔を見せた。

「私、必ず戻ってきて・・・これからはお父様にもちゃんと師事しますから・・・。教えてください・・・。王というものを。」


「で、作戦を立てようと思って。」

「美珠様、正規軍も作戦が完成したから、見て。」

相馬が地図を広げる。そこには赤い文字で何か色々書き込まれていた。

「父の率いる正規軍は正面から王都に向かって・・・後は団長達が率いる精鋭部隊。これが二部隊。桐だけを狙う部隊だよ。これは地下の隠し通路を城へと向かって進むらしいね。その数はおよそ二十。名簿を見る限り・・・かなりの精鋭部隊だ。」

「ってゆうかさあ、なんか、昨日、いいことあった?ホント分かり易いよね。二人は。」

空気を読まないのんきな珠利の言葉に美珠は顔を赤くする。

珠利は美珠のわき腹を軽く肘で突きながら美珠の顔を覗き込んだ。

「え・・・。な、何もないよ!」

「でもさあ、もう二人が外でチュウしてるなんて。」

「珠利!ちょっと!」

二人が横道にそれてゆくと相馬が咳払いする。二人は顔を引き締めた。

「目的は孝従を家に戻らせること、あと他の人達の援護。地味ですがそういうことで。我々は生き残ることを最大目標にします。だれかが怪我をすればすぐに退却で。」

 相馬の作戦に珠利も頷いた。

「命あってのものだねだもんね。でも、孝従先生は昔から大好きだったから、幸せになって欲しいなあ。見たかったなあ先生の子供。ね、美珠様、今度私も連れてってよ。」

「どこがいいんだよ。あの男の!」

「ヒヨコじゃないところ!」

「んだと?こらあ!この男女がよお!もう一回ヒヨコって言ってみろ。こらあ!」

「まあまあ、落ち着いて・・・。」

「待って、私も!私も連れてってください!」

その時、初音が飛び込んできた。彼女なりに考え抜いた戦闘服は軽い皮の鎧。そして弓矢。

「弓なら少し、かじったことがあるんです。私も、兄の役に立ちたい!だから!お願いです!」

「初音ちゃん。死ぬかもしれないよ。だれも庇ってあげられないかも・・・。」

美珠が初音の顔を見つめると初音は真剣な眼差しで頷いた。

「構いません。お願いします!兄の傍に行かせてください。」

 美珠が後ろを向くと笑顔の珠利と地図を眺める相馬が見えた。

「うん、わかった。一緒に行こう!」

美珠の言葉に三人は顔を見合わせ微笑みあった。


美珠はその後すぐ珠以の部屋に走った。

「何ですか。何をいわれても連れて行きませんよ。」

いきなり珠以に釘を刺されたものの美珠はひるむことなく珠以の隣に座る。

「珠以、私はあなたとずっと一緒にいたいの。あなた一人を戦いに行かせて一人で安全なところにいるなんて嫌なの。」

美珠は珠以の手を取り見つめながら訴えた

珠以はその視線に耐えられなかったのか美珠をきつく抱きしめた。

その痛いほどの強さが戦いに向かおうとしている男の決意の強さに思えた。

「珠以、あなたが好きよ。大好き。」

「・・・もう、何も言いません。今日はただあなたと一緒にいたい。」

(珠以には死んで欲しくない。せっかく出会うことが出来たのだから。こんなに愛し合っているのだから・・・。)

美珠は視線をずらし外を見た、夕日が泣いているように潤みながら沈んでいっているように見えた。

「今日が終わってしまうわ。」

美珠が悔しそうに呟くと、珠以も外に目を移した。

「美珠様。愛しています。この命が尽き果てても・・・。永遠に。」

「珠以が死んだら私は幸せにはなれない。もう、小さなころにその辛さは体験済みよ。だから、生きて、生き抜いて。お願い・・・。ずっと一緒に生きていきましょう?これからも。」

「ええ、美珠様。そうですね。ええ。」

珠以は自分の顔を覗き込む恋人を愛しそうに見つめ、瞼にキスをした。

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