ライバル(?)登場
会場に着くと、大勢の人夫が会場を造り、設計図を持った騎士達が各場所の指示を出していた。
会場設営責任者である光東は美珠を馬から下ろすと小高い丘の上に向った。
「すごい!見渡す限りの空です!気持ちいい・・・。」
その丘からは全景を見渡すことが出来た。ただ美珠はそれよりも会場の向こうに見える空の濃い青と草原の濃淡のある緑、二色で出来上がった世界に見とれていた。風が吹いて草が倒れ、風の流れまでがはっきり分かった。美珠は無意識のうちに思いっきり空気を吸い込んでいた。
「全部で二十の闘技場を造ります。そこで力を試すのです。」
光東は下の造成地を見ていたが美珠はまだ空に見とれていた。青い空には基礎を作る物資を運ぶ真紅の飛竜が三騎とんでいた。一面の青の中で混じりけのない真紅が神々しいものに思えた。飛竜は上に乗る騎士の指示通りに風を切り、節ばった大きな翼で空を旋回し地面に降り立った。
「かつての他国との戦闘では飛竜が活躍したそうです。この国の者以外、飛竜を見慣れてはいませんからね・・・。空から悪が降ってきたと思っていたみたいです。」
「でも・・・格好良いです。」
「ええ、そうですね。我々の竜も負けてはいませんが、飛竜は別格かもしれませんね。さ、闘技場へ参りましょう。」
光東は坂道をゆっくり下りながら、話を始めた。
「ちなみに前回の優勝者は聖斗です。さすが一番大きな騎士団の団長です。私は四位でした。」
「光東さんは優しいお顔なさっているのにお強いんですね。」
美珠の言葉に光東は照れた。美珠はその顔を見ながら、やっぱり可愛いと見つめた。
「まあ、各団員年齢の近いものたちが上位を占めたので騎士団を刷新するために若い団長を作ったのです。各団から一番強いものをふるいにかけて。試験もありましたよ。あれは二度と受けたくはないですね。」
「そうなんですか・・・。あ、でもそういえば毎年本選だけは観戦していた気がします。その中に皆さんいらっしゃったってことですね。」
光東には嫌味なところなど無く、穏やかで癒しの時間が流れた。
「あ!お兄様やっぱりここにいたのね!またろくなもの食べてないと思ってご飯持ってきました。」
突然の声に美珠が振り返ると桃色のフリルの少な目のワンピースに、丁寧に縦に栗色の髪を巻いた可愛い女の子が立っていた。美珠とさほど年が変わらないその少女は美珠の姿を見て眉間に皺を寄せた。美珠はその気迫に押され、少し後ずさった。
「何、あなた。建築されてる方?」
あからさまに敵意を持った少女に、光東があわてて否定する。
「おい、この方は美珠様だ。」
「ああ。姫様でしたか。」
(何、この無礼な子は・・・。それにちょっと怖い・・・です。)
「申し訳ありません、ほらお前、ちゃんとご挨拶しろ。」
「はいはい。お初にお目にかかります。私、光東の妹で初音と申します。」
「美珠でございます。」
美珠が挨拶している間、初音はふてぶてしく人の事を上から下までまるで値踏みするように見ていた。
「お兄様、お昼食べましょう。」
初音ははなから美珠を無視し、光東を引っ張った。光東は困ったように引かれていく。
「美珠様もご一緒にいかがです。」
せっかくの光東の言葉ではあったが、この少女と一時も一緒にいたくはなかった。
「いえ、戻ります。騎士の誰かに送ってもらうことにします!光東さんは妹さんとせっかくですからご飯食べていってください!」
美珠があからさまにキレた口調で申し出を断ると、初音は挨拶もせず、光東を引っ張っていった。
(何でしょう・・・。私が一体何をしたというんです?嫌われることしましたか?)
美珠は心の底から沸き起こる腹立たしい気持ちを抑えることは出来なかった。光東が何とか用意できた馬車の中で思いっきり壁をけりつけた。馬車が一度止まり、衛兵も敵襲かと驚き構えたが、美珠はそんなことはもうどうでも良かった。
(あんな人間と決して仲良くなれません!)