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恋人

夕方母が様子を見に来て、美珠を起こした。

「お母様。また寝てたのね・・・。」

「疲れていたのでしょう。夕食を一緒にどうです?」

「ええ、頂きます。」

母と二人きりでパンと野菜スープという粗末な食事を取りながら親子の会話を愉しんでいた。

「好きな人は出来ましたか?」

「ええ、・・・、国明さんです。」

「そう、それは良い選択をしましたね。」

 教皇はとても優しい笑顔で娘を見つめる。

「お母様も国明さんを認めているの?」

「もちろんよ、私も国王も国明を一番に押していましたからね、ただ押しつけるのではなく、自分で選んで人を好きになって欲しかったのです。」

「・・・お母様、お父様お父様のことを愛していた?」

美珠はずっと知りたかった質問をした。教皇は気を悪くすることもなく、優しく微笑んだ。しかしその目には強さというものが宿っていた。

「ええ、愛していましたよ。でも私は天の邪鬼だったのね。あの人の優しさを邪険にしてたら、いつの間にか心の通わない夫婦になっていました。あの人と最後にあった時も・・・ひどいことをたくさん言ってしまいました。後悔しています。」

「お父様に後で謝りましょ。」

「ええ、そうね。」

二人は少女のように微笑んだ。

初めて母と娘は心を割って話が出来たような気がした。

お互い心のどこかに持って遠慮という壁が少し取り払われた瞬間だった。

美珠は食事が終わると、母に断ってから国明の部屋に行った。

「国明さん。」

「今お迎えに行こうと思っていたのです。」

国明は美珠の手をとると、部屋から出た。国明の足取りは心なしか軽やかだった。

「何処に行くの?」

「広場の奥にある木ですよ。」

「木?」

二人はしばらく歩き、大木の根本に着いた。

「ここは・・・。」

美珠はこの景色に見覚えがあった。夢の中で三人で稽古していた場所とそれは同じだった。

(ここで・・・平和にすると誓った。)

「そう、ここで、美珠様は国を平和にすると誓って下さった。」

美珠は思っていたことを口にされ一瞬惚けた。

「国明さん、あなた心が読めるんですか?」

「いいえ、美珠様。今、そのことを思い出されてたんですか?」

「国明さん?」

「なら記憶が戻ってらっしゃるんですね・・・。」

「どうしてそれを・・・。」

「本当のことを申し上げます。俺の本当の名は・・・珠以です。」

「何言っているの?だって珠以は死んだのよ。もうその手には乗らないわ。」

美珠が呟くと国明は襟から人形を出した。

「これは、珠以と結婚の約束をした時に・・・。」

確かに珠以にあげた物だった。多忙な母が布教に出るとき不器用ながら一生懸命作ってくれた人形。

自分の宝物だった。

その人形の腕にはには珠以が作ってくれた花の形をした水晶がつけられていた。

「嘘よ。さっきの手紙に何が書いてあったの?お父様にそう言えって命令されたの?その人形どこで見つけたの!」

美珠は国明の服を掴んで詰め寄った。

「美珠様の手紙には、国王陛下に珠以は殺された。つまり名を捨てて新しい人間に生まれ変わるようにおっしゃったと言うことが書かれていたのですよ。そのとき賜った名前が『明』。珠以という名を捨てた俺は今度は大臣である父から政治学を学ばされたのですが、やっぱり騎士のほうが向いていたので、父と国王様を説得して騎士に戻りました。いつかあなたを守れるように。」

「じゃあ、あなたが珠以?本当に珠以?騙してない?私一度騙されたよ。嘘じゃないのね?あなたが本物の珠以なのね!」

「ええ、美珠様。」

美珠はまるで子供のように国明に抱きついた。

国明はそんな美珠を満面の笑顔で抱き上げた。

「好きよ、大好きよ。」

美珠はしがみついて笑いながら泣いていた。

「騎士にとって主命が命。王に何も言うなといわれてしまえばそれが絶対。美珠様に全て忘れられているって分かっていても、違う男を俺だと思っているあなたに本当のことが言えなくて。すごく苦しくて。でも国王様の手紙には真実を告げてよいと書かれてありました。『真実を告げろ。迷惑をかけたと。』」

「ごめんなさい。だって、色々なことを知っていたんだもの。」

「多分、あいつは昔から俺たちの行動を見張っていたんでしょうね。」

国明は忌々しそうに言う。美珠は嬉しそうに顔を見つめていた。

「ねえ、何て呼べばいい?」

「どちらでも、美珠様の好きな方で。」

「そんなの困るわ。だって私は珠以も国明さんも大好きなんだもの。」

美珠の言葉に国明は赤面する。

「本当にいつからそんな甘い言葉を言えるようになったんですかね。」

そう言いながら二人は見つめ合う。二人の瞳には希望が満ち溢れ輝いていた。

「愛してるわ。」

「愛しています。」

美珠から瞳を閉じた。

目の前にいる人が自分もっとも愛する人。

口付けは今までの辛かったことも全て吹き飛ぶような激しいものだった。

触れあっている部分からお互いの気持ちが流れて来るようだった。

国明は角度を何度も変え、美珠にキスを繰り返す。

美珠もぎこちなく受け止めながらお互いの体温がどんどん上がってゆくことを感じていた。


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