再会
部屋の扉が見えたときにはすでに手は封にかかっていた。
父から手紙を貰うのは初めてだった。
美珠は扉を閉めるとその場に座り込み読み始めた。
そこには父の娘を思いやる気持ちがびっしりと書かれていた。
美珠が生まれた時のこと、美珠の過去、そして結婚相手のこと。
そして美珠はある部分で止まった。
『美珠がどの団長を選ぼうと構わない。もし、他に相手が出来たなら、その者でも構わない。しかし、私は罪を犯した。私はかつてある少年を闇に葬ってしまった。珠以のことだ』
(珠以・・・。父が闇に葬った・・・。どういうこと・・・。)
『美珠と珠以が見つけられた時、まだ珠以には息があった。珠以は程なく意識を取り戻し、何があったか私に語った。それを聞いて思ったのだ。珠以が生きていることが分かれば、二人いるところが見つかれば、また孝従のようなものに美珠が襲われるかも知れない。そう考えた私は珠以を殺すことにした。』
「美珠様?」
国明の声だった。美珠は走っていって扉を開けた。お互いの眼と眼がぶつかった。その途端に安心のあまり美珠の目から何筋もの涙が落ちていった。
「ただ今戻りました。・・・国王様のことはお聞きしました。」
そう言うと美珠の涙を優しく拭う。美珠は涙で言葉が出なかった。国明は美珠をとりあえず部屋の中に入れると、戸を閉めた。
「国明さん。」
美珠は声を絞り出して国明の体に抱きついた。国明も目を閉じ、美珠の体を抱きしめ返した。お互いの温かさが今の二人には必要であったのかも知れない。
国明の服からは国明の匂いと土埃の匂いがした。
「美珠様、落ち着かれましたか?」
国明は少し泣きやんだ美珠に問いかける。国明は美珠を抱きしめ、頭をなでながら頬にキスを繰り返していた。
「ええ。ごめんなさい。本当に国明さんなんですよね。」
国明の目を見つめると国明は美珠の唇に何度かキスをした。
「すいません、今、美珠様禁断症状が出てるんです。もう少しだけ・・・。」
美珠はその言葉が妙におかしくて噴出しつつも、国明に抱きついていた。がすぐに扉が叩かれ二人は慌てて体を離した。
「国明、国王陛下からお前に手紙を言付かっている。」
光東はそう言うと、国明に美珠と同じ白い封筒を手渡し、察したのか部屋から立ち去った。美珠は国明の方に寄っていく。
「国明さんにも?」
「美珠様も?」
国明の質問に美珠は机の上に無造作に置かれた手紙に方を指さした。
「国明さん、早く読んでみて。」
国明は手紙を開けると一枚の便せんが入っていた。国明は一瞬で読み終え美珠の顔を見た。
「二行でした。」
「二行?何が書いてあったの?」
「美珠様の手紙には何が?」
「まだ途中です・・・。でも書いてあることがあまりにも恐ろしくて。」
「読ませていただいて・・・よろしいですか。」
「ええ、でも国明さんのお嫌いな珠以の事も書いてありますよ。」
国明は美珠の言葉に少し微笑むと、一気に読んだ。
「何処まで読まれました?」
「父が珠以を殺したというところまでよ。」
「そうですか・・・。今夜、美珠様私と二人で過ごしませんか?」
「えっと・・・それは・・・。」
「ははは、そんなに怯えないでください・・・。大事な話があるんです。」
「・・・分かりました。悪いことじゃないよね?」
美珠の返答を聞くと、国明は国王の手紙を二通とも持って出て行った。美珠は寝そべって父の顔を思い浮かべた。
『自分の顔は童顔だ』
そう言ってあごひげを蓄えて、よく頬ずりしてくれた。痛かったな。
『教皇程すばらしい女性はいないぞ。お前の母親が一番だ。』
そう言いながら新しい侍女の名前は必ず覚えていた。だからお母様に愛想を尽かされるのよ。
美珠は仰向けに寝返りをうった。上を向き涙をこらえ、そのまま眠ってしまった。