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「お前の母親も桐に体を奪われた。お前が腹にいるころにな。」

「桐・・・・に?」

「ああ・・・、お前の母は有名な女騎士だった。強くそして気高い教会騎士として。そんな彼女に桐は目をつけた。私はお前の父親と同じ赴任地に何年かいて、酒を酌み交わす仲だった。お前の父が魔法騎士、私は騎士見習いの教官をしていた頃の話だ・・・。お前の両親は結婚こそしていなかったが、心は常に一緒にあった。」

 未宇はほんの一瞬眉間にしわを寄せた。

「お前の母はそれでも桐に飲み込まれつつもどこかで自分を保っていたのだろう。腹にいるお前を産むまで桐に手出しをさせなかったのだからな・・・。そのことに激怒した桐は生まれたお前に呪いをかけた。人外の姿となり人に蔑まれ生きてゆくよう。けれど張り込んでいたお前の父はお前に生まれた姿に戻れるように魔法をかけなおした。まあ、髪と肌はすこし普通の人間とは違うが・・・、あの状況でお前の父は良くやった。」

「父はそこで桐に殺されたのか?」

「ああ・・・。死んだ。」

 淡々と未宇は語った。暗守は父と母の墓を思い浮かべた。

小高い丘に寄り添っている二人の墓によく祖父と通った。

二人の墓の前で何故自分の姿が人と違うのかと罵り、叫んだことを思い出し笑いがこみ上げた。

「親不孝ものだな私は・・・。そして、次にお前の娘か・・・。」

「そうだ。王城に再び桐が現れた。俺の娘は国王騎士に配属が決まって喜んでいる時で・・・。お前の父親と同じように私は娘を守ろうとした。今から十年程前の話だ。だが結局守ることは出来なかった。この剣でお前の母の姿をした桐を切り捨て、自分も腕を切り落とされた。」

「・・・桐にのっとられていた人間は・・・桐が離れると元に戻るのか?」

「さあな・・・。そんなことを考えている余裕などなかった。自分の娘を守ることしか頭になかったからな。だが、結局娘は取り込まれた。」

 未宇は暗守が母を取り戻せたのか気にかけていることに気が付いてはいたが、答えは分からなかった。

 娘を取り戻すためなら正直他人のことなどかまっていられなかった。未宇は立ち上がると桐を倒すための剣を数本暗守に手渡した。

「お前の父や私のような思いをする人をこれ以上作ってはならん。美珠様は死守しろ。」

「もちろん。美珠様は初めて私が心から守りたいと思った女性だからな。」

 暗守は鼻で笑うと美珠の顔を思い浮かべた。


 朝、洞窟の中には地上の光が隙間から漏れていた。

 国明と暗守は未宇の妻が用意した、この地方独特のパンを食べ、山羊の乳を絞って出来た汁を飲みほした。

「これで魔女が倒さねば、美珠様が狙われ続ける・・・。」

「そうだな。・・・だが一人で気負わずとも我々がいる。私自身美珠様を守りたいのだ。」

「美珠様がその言葉を聞かれるとどんなに喜ばれるだろう。」

「言わなくていい。お前と私との間の男の秘密だ。」

 暗守はフッと笑うと食事をかき込んだ。

「さて、戻るか。」

 国明と暗守は立ち上がり、先ほど未宇に貰った剣を腰に装備し、馬に乗った。

「おい。言っておくが、あのものはもう私の娘ではないからな。娘の姿をした魔女だ。容赦はいらんぞ。切り捨てろ。・・・娘は弱者だった。だから死んだんだ。それだけだ。」

 未宇の言葉に国明は首をふった。

「人間一人では皆、弱者ですよ。だから我々は力を合わせて強者になるのです。力も心も。」

「そうか・・・。」

 未宇は肯定も否定もすることなく洞窟に戻っていった。

「済まないな、待たせて。」

「いいや、急ごう。」

  暗守は黒馬の手綱を引き、走り出す。国明も馬の顔を撫でてやってから暗守の後を追って走り出した。

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