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第二章 欺瞞

「今日の月は格別に綺麗ね。」

「月よりも君の方が綺麗だ。」

 男は月光に浮かび上がる女の背中に口付ける。女はくすぐったそうに笑いながら、体の向きを変える。すると男は女の唇を奪った。

「もう共同生活は始まってるんでしょう?戻らなくていいの?」

「今日一日戻らなくても、かまわないさ。教会騎士団長なんて一回も来てないんだから。」

 男は行為を再び始めようと女の体に舌を這わせた。

「ねえ、あなたは私と結婚してくれるの?」

 すると男は動きを止める。その様子を見て女は笑った。

「嘘よ。私は妻になんてならなくていいわ。でも力のない男なんて何の魅力も感じない、だから王様になってよ。姫様と結婚して、で、あなたの心がずっと私を見てくれていればそれでいいわよ。」

 男はその言葉を鼻で笑った。

「お前、俺を誰だと思ってるんだ?この国で最年少騎士団長になった俺に不可能はないんだよ。俺は権力をもってやる。そしたらお前をちゃんと可愛がってやるから。」

「もう、自信家なんだから。」

「そこが好きなくせに。」


「え?」

「今日は早く仕事を終えたので公園にでも参りませんか?折角共同生活をしているのですから。たまにはお出かけもいいでしょう?」

「いいんですか?外へ、外へでても!」

「ええ、陛下の許可はいただきました。部下に今日、公園で異国の大道芸があると聞きまして、お忍びでいかがですか?あと武闘大会会場も近くですので・・・。」

(お忍び!異国!なんていい響き。)

 美珠の目の輝きを見て光東は立ち上がり道代にも美珠を連れて行っても良いかと訊ねた。

「ちゃんと光東様のおっしゃることは守ってくださいね。」

「子供じゃありません。わかっています。」

 はしゃぐ美珠は静祢に用意してもらった乗馬用の青と白のストライプのシャツに白いズボンという軽装に慌てて着替え、家の前で外にでるその瞬間を待っていた。

 すぐに白いシャツに茶色いベストという服で光東は現れた。光騎士が竜ではなく馬を玄関まで、連れてきていた。

「そんな美珠様のお姿も新鮮ですね。」

「光東さまも鎧を着けてらっしゃらないと違いますね。あっ、光東さんて、猫毛なんですね。知りませんでした。」

「この癖毛嫌なんですけどね。」

 二人で穏やかに笑いあってから光東は美珠を茶色の愛馬に乗せ、自分も後ろに乗り、公園までの道のりを駆った。


「はやーい!これが風をきるってことなんですか?」

 美珠が笑いながら歓声を上げると馬の蹄の回転数が上がった。

「騎士団の人達は竜だけでなく本当に馬の扱いがお上手なんですね。」

「そうですね。騎士になるまでは馬で稽古しますから。」


 公園は春の陽気でポカポカと暖かかった。木漏れ日が差し込み、多くの人々がその下に座り語り合ったり、昼寝をしていた。

「良い天気ですね。」

 光東の言葉に美珠は頷くと空を見上げた。紺碧の空に雲が二つ、三つ、と浮かんでいる。

「こんな風に公園で空を見上げたのは初めてです。いつも宮には塀や窓枠があって・・・。空をこんなにたくさん見たことありません!空ってこんなに広くて大きなものなんですね。びっくりしました。」

「戦闘にでて、平原などに行くとこの空の比ではありません。地平線まで空と草原ということがありますよ。どこまでいっても空が続いているんです。」

「素敵ですねえ。見渡す限り青い空・・・、見てみたいです。」

「見渡す限りの空ならば後で見せて差し上げます。あ、美珠様!ほら向こうで大道芸をしているみたいですよ。」

 耳に届いた歓声に光東は反応し、右を向いた。そこには人だかりができ、拍手がしばしば起こっていた。

「参りましょう!」

「はい。」

 二人で駆け寄ると、巨漢の金髪の男性が剣を飲み込んでいた。

「い、痛そうです。」

「す、すごいですね・・・。どういう体のつくりになっているのか・・・。」

 二人で顔をそらしつつ目だけ相手を追う。周りの人々からも悲鳴に近い声が聞こえた。

 次にでてきたあばら骨の浮いたガリガリの痩せた男は火を噴いた。 美珠はつかの間そこにいる一般人と何一つ変わりない時間を楽しんでいた。けれど、

「何でだよ!」

 突然耳に男の怒鳴り声が聞こえた。美珠も光東も驚き、眼を向けた。男同士で言い合っていた。

「何で!何で俺を捨てんの?」

「俺の立場も考えてくれ!」

「一生、一緒にいようって誓ったじゃん!これから何があっても一緒だって!何で?」

「状況が変わったんだ!分かってくれ!」

「嫌だよ!俺は絶対別れないから。」

 そう言って男は相手に口付けた。若い少年と肩で髪を切ったした男。そばにいた大道芸の観客たちもそちらに気を取られ、人ごみができていた。

「何だ?あれ、男色か〜?」

 野次馬達がこっちが見ものといわんばかりに騒ぎ出した。美珠には相手の男が魔央にしか見えなかった。意味が分からなかず隣を見ると光東の顔は強張ってしまっていた。

 男は野次馬に気がつくと若い少年を連れて消えた。

「あ、あの・・・光東さん・・・。」

「行きましょうか・・・。大道芸も、終わったようですし。あ、そういえば会場にも寄るんでしたよね。さっ。」

 次の瞬間にはもういつもの光東に戻っていた。その笑顔で美珠も自分を取り戻した。

(男色って何か意味が分かりませんが・・・。でも何故男の人と口付けを?)

 まだ美珠は騎士団長それぞれが抱える問題を知らずにいた。


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