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「ご主人は敵を討つためにこの村を出られたのですか?」

「敵・・・ですか・・・。敵って誰なんですか?」

 咲きの無表情の言葉に美珠ははっとした。

「それは・・・。」

 きっと孝従は子供達を殺したのは国王騎士だと知ったのだ。

 知った上で、国王騎士団長を殺そうとした。そして美珠と国王騎士団長の仲を引き裂こうとした。

 美珠が考えていると咲が再び話を始めた。

「昔からあの人、何も言わずにふらっと出て行くんです。そのたびに私が必死で追いかけて探して・・・。でも、今度は私は動けなかった。騎士達には死んでほしい、騎士なんていなくなればいいって思ったんです。だから止めなかった。」

「そんな!騎士はそんな悪い奴らだけではないわ!皆必死になって今だって!」

 初音だった。すると咲は初音の襟を掴んだ。

「分かってます。あの人がいなくなってからすぐに気が付いたんです。あの人が帰ってこないことが耐えられない。私と子供だけになるなんて・・・たとえ子供を殺した奴らが死んだとしても、そんなの何も嬉しくないって。」

 そして初音から手を離して縁側へと視線を移した。そこからは枯れ始めた畑が見えていた。

「初めてあった時、あの人は崖から落ちたようで意識もなく瀕死で、そこを農民だった私の父が通りがかり助けたんです。それから、体がちゃんと動くようになるまで私の家で養生することになって・・・。あの縁側にあの人いつも座って何も言わずに外を見ていました。」

 そして咲はその縁側まで歩いてゆくと愛しそうに板に触れた。

「初めは何を考えているのか全く分からなかった。何を聞いても冷たい眼で見られるし、喋ってくれないし・・・。だから私、何が見えてるのかなって気になって隣に座るようになりました。けれどそれでも分からない。いつの間にか、それが当たり前になって。なのに傷が治った彼は何も言わずに出て行ったんです。彼がいない縁側に座っているとどうしてか涙がたくさん出てきて。ものすごく何かが足りなくて。気が付くと彼を探していました。山の中駆けずり回って、やっと見つけた彼はぼうっと山の中で座っていて・・・。私怒鳴りつけたんです。礼ぐらい行って出て行けって!でも言いたかったのはそんなことじゃなかった。傍にいて欲しいって言いたかったのに。そしたら、彼は『何でか今日は右肩に風を感じて寒い。ああ、お前は右に座っていつも風よけをしてくれてたのか』って。」

 子供がくずり、咲は一度子供に笑顔を向けて、頬を撫でた。

「あの人は両親が幼いころ死んで、ぬくもりを知らないまま王の作った機関で教育を受けそうです。そしてある程度の年齢になると今度は自分が教える立場に立ったそうですが・・・体中に風が吹いていたそうです。その風は自分の心に灯ろうとする光を消してしまうって。・・・でも・・・。」

 それはいつものように縁側に座っていたときの出来事だった。

 村に来た騎士は誰かを探しているようだった。孝従はそれが誰を探しているのか分かっていた。

 ふらりと立ち上がったのを咲と咲の父は見ていた。そしてその手を二人で握った。

『またどこに行こうっていうのよ!あなたの家はここよ!』

『そうじゃ。お前は言いたいことを言えん出来の悪い息子じゃ。フラフラしてる暇があればちょっとは畑仕事せんか!』

 そういって鍬を渡した。

 孝従は暫く不思議そうに見ていたが、やがて一粒だけ涙を落とした。

「次第に心を開いてくれて、私達を家族だと思ってくれるようになって五年前に結婚したんです。子供も三人生まれて幸せだったのに・・・。なのに・・・それが突然・・・。」

 女のやせ細り窪んだ目から涙が溢れた。

 初音も話しを聴き涙を拭く。

「・・・孝従さんは幸せな暮らしを送っていたんですね。」

 美珠の問いかけに女は細い首を前に倒した。

 孝従は復讐の為に再び鬼になったのだ。

 美珠は息を一つ吐いた。

 そして咲の前に膝をついて頭を下げた。

「美珠様!何して!」

 相馬の悲鳴に近い声が部屋の中に響いた。

 珠以を奪った教官孝従は許せない。けれど、父親孝従はもう教官とは違う。別の人間。

「申し訳ありませんでした。」

「あ、あの?」

「私、この国の王女、美珠と申します。この度、国王騎士の犯した過ち、私が謝っったところでお心は晴れないでしょうが、どうか信じてください。国王騎士を束ねる者は決してこのようなことを許す人間ではないのです。この話彼にも伝えておきます。ですから、信じてください。騎士を。私達を。そして、孝従さんをきっとあなたの元へ。」

「・・・姫様、でしたか。面をおあげください。」

 けれど美珠があげられないでいると咲の手が顔をあげさせた。

「・・・・ではこれを渡して頂けますか?」

 咲はたんすの引き出から、細い銀色の指輪を出した。

「あの人とおそろいの結婚指輪なのですが、彼が出ていった朝に机に置いてありました。どうかこれをあの人に渡して戻ってくるようにとお伝え下さい。あと、子供が生まれるまでには戻ってくるように・・・。」

 咲はそう言うと少し微笑み腹を撫でる。

「お子様が?」

 その表情は先程までの悲壮感しかない顔とは違い生き生きとした嬉しそうな笑顔であった。

「あの人はこの子の存在を知りません。どうか、戻ってくるように・・・。」

「元気なお子様が生まれるように、お祈りしています。」

「私もお祈りしています。」

 美珠と初音が咲に笑うと、咲も笑い返した。強い母親の顔に戻っていた。

 美珠が立ち上がり家の外に出ると、咲は思い切ったように美珠に尋ねた。

「あの人、生きて帰ってきますよね。死んでではなくて。」

「もちろんです。」

「ありがとうございます。」

 咲から笑顔がこぼれた。美珠と初音は咲に手を振り村を後にした。

「どっちが悪者なのか分かりませんね。」

「そうね・・・、とにかく孝従を家に帰らせてあげないと。」

「美珠様、頑張りましょう。戻ればすることがたくさんありますよ!さあ、忙しくなります。」  

 相馬の言葉に美珠は笑い美珠も走り出した。

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