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教皇

大きな机の上には巨大な地図が広げられていた。

 その地図にはこの国の王都、そして西には赤く囲まれた城が一つ。

 そこは先日、多くのものが命を落とした場所。洛西だった。ここは洛西から少し東に行った、軍事演習場。

 その地図の四方を取り囲むように光東、聖斗、魔央は数回目になる作戦会議を立てていた。

 

 演習場ではすでに王が城に残り、戦ったということが伝わり特に国王側の騎士達に肩を落としている者が多くいた。

「士気がかなり低下してるな。陛下ご不在というものがこうも影響するものなのか。」

 そう言った光東自身がかなり精神的に影響を受けてしまっているようだった。

「国王側の騎士団長が裏切り、二人が戦列を離れて・・・。」

「お前らしくない。」

 吐き捨てたのは聖斗だった。その瞳には怒りさえ滲んでいた。

「こんなときに騎士団長ともあろう者が泣き言か?どういう精神構造をしている?お前は人徳があるようだが、甘さもある。このような非常事態には無用の長物だ。」

「聖斗!やめなさい。その優しさが光東の長所なんです。それに、我々だって、心の寄りどころを失くせば、こうなってしまうかもしれません。・・・ですが、光東、君だけではないのですよ。何かを失ったのは・・・。」

 それは騎士団長のなかで年長者としての言葉だった。

「それに美珠様は孝従という者を自ら調べに行っておられるはず。そして国明だって戦列を外れたわけではない。何かの解決策を持っててくるはずです。」

「分かっている。そんなこと。だが、それはいつだ!このままでは!」

 皆・・・死に絶える。 

 最後の言葉を光東は飲み込んだ。それ以上を言うことは騎士団長としてはばかられた。そしてかわりに、そうならぬための策を口にした。

「我々は国王側の騎士団、光騎士団だ。国王がいなくなられたれた今、我々が敵を引きつける。教会側の騎士は安全なところに。」

「ふざけるな!」

「何を言ってるんですか?君は!」

 けれど光東のその提案は他の二人に却下された。

「我々はもう教会側、国王側と言っている時ではないのですよ。」

 それは後ろからかかった女の声だった。

 部屋にいた者たちは慌てて声のほうに跪いた。

「少なくとも王の傍に残ったものたちにはそんな考えなど無かったでしょう。国王側、教会側、いいえ、騎士であろうが軍であろうが関係なかったでしょう。皆の心は同じだったはず。」

 教皇とは戦に疲れた民の心を癒すため作られた役職。

 そして今まさに彼女はそうあろうとしていた。

「王の下に残った者たちの心にあったのは、国を守り、救うこと。決して名誉や地位のためではなかったでしょう。」

「教皇様・・・。」

 光東は今まで教皇を国王の妻という認識でしかなかった。美しいだけの飾り物だと思っていた。

 けれど違った。

 彼女もまた自分が敬愛する国王と同じ強さを持った人間だった。

「気持ちが沈んでいる者、そしてまだ国王、教皇という境に苦しんでいるもののためにも私が皆の前に立ち、話しましょう。」

「大丈夫ですか。」

 聖斗が声を掛けると教皇は頷いた。

 それは聖斗に見せていた女の顔ではない。聖斗の上に立つものの顔だった。

 

 教皇は全ての騎士、兵士を集めた。

 広場では光東のいうように俯いている者が多くいた。そして明らかに左右に両陣営が別れていた。

 教皇に迷いは無かった。

 今はいない夫のためにも、彼らを纏めなければならなかった。

 教皇は壇に上がり改めて彼らの顔を一人一人見つめた。

「皆に聴いて欲しい。」

 透き通るようでいて、凛とした声。

 見かけはか弱い女であったが、中には国王にも劣らない激しい感情を持っていた。それが現れるときだった。

「洛西の城から逃げる時、我々を逃がすために多くの者が命を落とした。国王側教会側、兵士関係なく。彼らは命を顧みず、本当によく戦ってくれた・・・。」

 教皇は洛西から逃げるときに聞こえた喚声を思い出していた。

「あの時、たくさんの命の声を聞いたはず。自分達に全てを託し、戦い続けたものの声を!国王が戻られぬ今、我々がすべき事は垣根を取り除き一つにまとまることではないのか。そして敵を討つのだ。今は傍にいないものを嘆くときではない。」

 教皇は目を閉じ両手を広げた。

「彼らの志はまだ我々の隣にある!志に国王側、教会側という境はひつようか?私達に今必要なことはお互いを信頼するということ!お互いを守り信じるという強い気持ちだけだ!そして今こそ一つの絆を、作ろうではないか!」

 教皇はそういうといつも手にしている勺丈を振り上げた。太陽の強い光が黄金で作られた太陽に反射し、神々しい光を放った。

 そしてそこにいた全ての者が剣を抜き空に掲げた。

 そして光東も聖斗、魔央と顔を見合わせて剣を抜いた。

 

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