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想い人

 美珠達一行は次の日の昼、大きな木陰の下で束の間の休息を取っていた。

 あの廃墟を動いたのは昨夜、例の商人の使いから孝従が住んでいた村を突き止めたという連絡を受けたからだった。

 それはここからさほど遠くない香里(こおり)という小さな農村。

「暑い・・・。」

 水分補給を終え、美珠が木の下に転がると初音がどこかで拾った大きな葉で仰いでくれた。

「ありがとう、初音ちゃん。涼しい。」

「美珠様・・・私のことをそのように呼んで下さるなんて、うれしいですわ。」

 初音は笑顔を見せた。

 美珠は初音の事をしげしげと見つめた。

 きれいな黒髪に、可愛いクリッとした大きな目、手入れされた指、そして着ている桃色のブラウスにはフリルが付いていた。

「初音ちゃんて、可愛いよね。女の子ですって全身に書いてあるみたい。」

「何言ってるんですか!美珠様の方がおきれいですよ。だって顔は超綺麗だし。お姫様だし。」

そう言って初音は照れたのか美珠を褒め称えた。

 美珠はそんな初音に微笑んだ。

「でも顔も姫であることも両方私の力ではないんです。どうせなら、いつか強い姫と言われたいですね。自分の力を認めてもらえいたい。」

「・・・そう思えることが強い姫です。きっと兄も、美珠様の力になると思います。」

「そういってもらえると心強いわ。そういえば、初音ちゃん、光東さんと仲良いのね。」

 美珠の言葉に初音は手を止め、空を見上げる。

 美珠も空を見上げた。

 青空には雲が一つ二つ浮いていた。その雲の白さと空の青さが見事なコントラストを描いていた。

「お兄様、私のこと何か言っていました?」

「いいえ、何も。」

「そうですか。私、あの・・・私、お兄様とは本当の兄妹ではないんです。お兄様は本当は叔父夫婦の子供で・・・、だからお兄様は私に気を遣って、家を出て、騎士になったんです。」

「そうだったの・・・。」

「・・・私ね、そんなお兄様が好きで。九歳も違うのだけれどお兄様、とても純情なところがあって、私が守ってあげないとって。」

 美珠は何も言わず、ただ初音の話を聞いていた。初音は続けた。

「だから私はお兄様の保護者のような感覚だったのだけれど・・・。いつの間にか・・・恋に変わっていたんです・・・。お兄様と結ばれたいって。常識的におかしなことですよね。でも諦められなかった。だから私は一方的にお兄様に約束したの『一生離れない。ずっとお兄様の側で面倒見てあげる。』って。お兄様はただ笑っていたけれど、私は本気よ。」

「報われない人に恋するのって・・・切ないね。」

 美珠の脳裏にも珠以の顔が浮かんだ。

「ええ、だから美珠様がお兄様の候補になられた時なんて・・・、今考えると恥ずかしいわ。本当にごめんなさい。敵だと思っていたから。」

「ですよね。何の障害もない人見ると無性にむかついて。」

 護衛についた少年魔法騎士も話しに加わった。

「あれ、貴方は誰に恋してるの?」

 初音の言葉に少年はただ微笑んだ。

 美珠はもう一度空を見上げる。雲は西から東に流れていた。

 美珠はふと自分のことを一番に考えてくれている男のことを思い出した。

 国明さんは今頃どうしてるだろう。

 ちゃんとご飯は食べてるのだろうか。怪我などしていないのだろうか。

 顔が見たい、声が聞きたい、話がしたい。

 たった三日会っていないだけで寂しくて切なくて、胸が締め付けられた。

 美珠は初めて自分の中の国明の占める割合に気がついた。 

(本当に国明さんに会いたいです。)


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