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残った二人

「国王陛下。」

一人の兵士が後ろに跪いた。声からしてまだ若かった。

「もう我々しか残っておりません。」

「そうか・・・。」

 国王は立ち上がり、腰に帯びていた剣を静かに抜いた。

 手入れされた剣は見事な白銀の光を放った。

「私はかつて、武闘会で優勝したこともあったが・・・。」

「国王陛下・・・。」

「お前は、私の死を見届けてくれるか?」

「何をおっしゃいます!国王陛下!お待ちください!」

 兵士を一人置いて外に出た。

 自分への忠誠を捨てた竜騎士達が飛竜を連れて前に立つ。

「お前達、騎士としての命を忘れたか。」

「我々は竜桧様という王に仕えている。」

 どこか虚ろな表情で騎士達はかつての主の前に立っていた。

「では、容赦はしないぞ。」

 そう言うと国王は剣を構えた。たった一人生き残っている若い兵士が国王の側に走ってくると、剣を構えた。

「お前・・・。」

「残る竜は五匹です。他のもの達が七二匹も倒してくれました。」

「ありがたいな・・・。」

「ええ、勇気のあるもの達です。」

「お前もな、名は何という?生き残れたらお前を師団長にしてやろう。私の傍に置いてやってもいいぞ。」

「それは十分魅力的な話なんですが、私はもう主を決めてます。」

「ほう。それは?」

「美珠様ですよ。」

「お前、一体・・・。」

「珠利です。国王様。お忘れですか?」

 兵士独特の兜の中から人懐っこい茶色の目をのぞかせて笑った。

「お前か、よく戻ってきたな。」

「もちろんですよ!」

 そう言うと、珠利は竜にかかっていった。

 国王と二人で一匹ずつ叩く。

 竜と竜騎士は二人の力に呑まれるように力尽き倒れていった。

 もしかしたらこのまま生き残れるかもしれない。

 淡い期待が二人の脳裏によぎった。 

 けれどそれを打ち消すような大きな稲妻が城に落ちた。

「うわっ!」

 珠利は飛ばされ頭を強く打った。

 国王は静かに稲妻から出てきた者に剣を向けた。

「あらあら、女好きの国王様、お久しぶりです。」

 美しい女は笑う。

 そしてゆっくりゆっくり一歩一歩国王の方に近づいてゆく。

「よくも、竜桧をたぶらかしてくれたな。桐。」

「あの子は私なしでは生きられないみたいですわ。今じゃあ、私の虜、いい右腕よ。」

 女は唇に笑みをたたえ、おろしていた髪をかき上げた。

「あの子は自分から私に近づいてきたの。自分の居場所を求めて。自分だけ美珠になじめないとね。」

「私のせいだな。竜桧は一番若くまだ騎士の中でも充分な年とはいえぬ、それなのにただ強いからといって心が出来上がっていない若者に大役を任せてしまった。そして今度もお前の存在に気が付かず、お前にたぶらかされるとは・・・。未宇があれだけ念を押していったにもかかわらず。すべて私の罪か。」

「未宇とはまた嫌な名前を出してくださって。でも、本当にあなたの女好きは必ず問題を起こすんですからね。悪い子には、お仕置きしないとね。」

 桐は空に手を掲げ、国王に魔法をかけた。

 初めのうちは国王はうまくかわしていたが、珠利の前に立ってしまったことに気が付いた。かわせば珠利に当たる。

(この子も死なせるわけにはいかない!)

 桐の放った火の砲弾は国王の腕に当たりジュウという音を立てて国王の左手を溶かした。

「うわああああ!」

 国王は熱さと激痛に耐えられず、倒れてのたうち回った。

「男のくせに、みっともない。これが国王?情けないわねえ。」

 桐は国王の落とした剣を持ち上げた。

「くっそ・・・。」

 悔しそうに女を睨み付けた瞳に左右に揺れる剣が見えた後、首から鮮血が噴出した。

「ぐっは・・・。」

 その血はうめいた口からも血が流れた。

「ふふふ。人間なんてあっけないわねえ。」

「くっそ!てめえ、許さねえぞ!」

「なあに?あら?」

 珠利がいつの間にか起きあがっていた。そして後ろへ回り込むと桐の首を落とした。

「あら、仕方ないわねえ。今日はここまでにしてあげましょう。」

 首だけで普通に話し、切り離された胴は地面に落ちた首を拾い、そのまま消えた。

「何だ・・・。」

 しばし信じられない光景に珠利は呆然としていたが、我に返り国王に駆け寄った。

「国王様!国王様!」

 しかしすでに返事は無い。

「くそ!」

 珠利は国王を担ぐと、走っていった。


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