ジャガイモ
その夜はそこに留まることにした美珠は村の集会場で食事の手伝いをしていた。
以前敵だった騎士に料理を教わりながら初めて持つ包丁でジャガイモの皮をむいた。数センチの厚みがある皮がくず入れに入れられていた。
「み、美珠様・・・ジャガイモは?」
「・・・無くなってしまったわ。むいていただけなのに・・・。」
声をかけてくれた若い魔法騎士に見覚えがあった。
男としての魅力よりもまだ少年のあどけなさが残っていた。
「あら、あなた魔央さんの。」
魔央という名を聞いて一瞬にして表情が険しくなった。
「あ、あの、ま・・・団長は全員無事ですか?」
「魔央さんは大丈夫です・・・。心配しなくても・・・。」
「そうですか・・・。良かった。」
「仲直り・・・したんですか?」
「え?」
少年は引きつった顔で美珠の顔を見つめた。
「公園に私もいて・・・。その後魔央さんともお話したんです。すごくノロケを聞かされて。」
そういうと少年は嬉しそうに唇をかみ締めた。
嬉しさが体中から出ていた。
「ホントッスか?魔央がノロケ?あのすかした奴が?・・・俺・・・それすごい幸せかも。」
「すかした奴?ふふ。見た目はそうかもしれませんね。でも立派な方です。ご自分の大切なものを分かっておられるようですし。」
「大切なもの?」
美珠はあえて答えなかった。ただ笑みを見せるともう一個ジャガイモを剥こうとした。
「あ、美珠様もう良いです。俺やりますから。このままじゃ、ジャガイモ無駄にする。・・・あの、今日はお疲れでしょう。あちらで休んでいて下さい。」
少年は美珠に強く勧めた。
美珠が鍋の所に行くと、相馬が座っていた。
燃えた火を小枝でつつきながらただ頬杖をついていた。
「あのさあ、」
「ん?」
「・・・ここにいるやつらが母さんを殺したの?」
「うん・・・。助けられなくて、ごめんなさい。でも、ここの人達は!」
「分かってる。分かってるよ美珠様の言いたいことは・・・。それに美珠様が謝ることじゃない。ただ・・・知りたかったんだ。母さんは一体誰に何のために殺されたのか・・・。それに、こいつらが操られたんなら犯人はあの宴、襲ったやつだろ?じゃあ、俺の敵もあいつらってことだし。」
相馬は顔を上げ黙りこんだ。
美珠もつられて顔を上げると美しい星の瞬きが、美珠に降り注いでくるように見えた。
「俺は・・・母さんの敵は必ずとる。」
「うん。」