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暗守

 何の反応も無い。

 ソウッと扉を開けてみると暗守が扉の方を向いて立っていた。

 美珠の体はギクッと揺れうわずった声で暗守に部屋に入っても良いかを尋ねた。

 まだ収納場所の決められていない剣が角に五本ほど立てかけてあった。

「ええ、どうぞ。」

「あの」

「何か?」

「家では、鎧をお脱ぎにならないの?」

 部屋に来たものの別に会話のネタを持っていたわけでもなく、美珠は少し考えてから問いかけた。けれど暗守は何も言わない。兜で全く表情が見えず、怒っているのか、何か話そうとして考えているのかも読みとることが出来なかった。美珠はいきなり触れてはいけないところに首を突っ込んだのかと不安になり、少し恐怖心を持った。

「そこにお掛け下さい。」

「私訊いてはいけないことを?」

この後に待ち受けていることが分からず、美珠の目には恐怖で涙がジンワリ浮いていた。が暗守はなんとも優しい声で語りかけた。

「いいえ。あなたは私がお仕えすることになる方だ、私の姿を見る権利があります。」

 兜に手をかけ、上に引き上げる。

その後見えた光景に美珠は言葉を失い、何度か目を瞬きした。

 暗守の髪と瞳は水色と銀色の混じったようなとても美しい色をして後ろで一つに縛られていた。その上肌の色も少し褐色がかっていた。

「暗守さん、それは?」

「私の容姿は生まれた時からこうでした。両親は私が生まれてからすぐ落馬事故で相次いで死んだときかされました。何故このような容姿なのかは今でも分かりません。」

 親が死んだと聞かされて美珠が少し悲しそうな目をすると暗守は目を閉じ、昔を思い出していたようだった。

「私の祖父は元々暗黒騎士団の団長だったので八歳から暗黒騎士の鎧を着て育ちました。それまでは家の中でこもっていましたが。でも鎧で自分自身を守るようになってからはこれが自分の中では当たり前で、姿が見えないと誰も私を特別扱いしませんでた。そんな祖父も亡くなりましたが。」

「でも、その髪とても・・・綺麗で優しい色ですね。」

 心から出た言葉だった。暗守はそんな美珠に少し戸惑った顔をし、いきなり立ち上った。

「そうだ、私の鎧着てみられますか?」

「いいんですか。」

 照れを隠した暗守に気づくこともなく、好奇心から美珠も立ち上がった。

 ガコン、という重たそうな音がする割に、暗守は漆黒の鎧を軽そうに外し、すぐに白いシャツとズボンだけになった。

「これを先ず履いて。」

 暗守は鎧や籠手を並べていく。美珠は鎧を足にはめ、歩き出そうとした。

「どうなさいました・・・?」

 暗守は不思議そうに美珠の顔を見る。美珠の顔は力を入れているせいか真っ赤になっていることが暗守には分からなかった。

「ダメです。これ、重くて一歩も足を動かせません」

 美珠が悔しそうにため息混じりに呟くと暗守は美珠に初めて優しい笑顔を見せてくれた。

「あ、あの・・・動けないので、よろしければ手を貸して頂けませんか?」

 美珠が鎧を脱ごうともじもじさせていると、暗守は美珠を軽々抱き上げ引き上げた。

(ひゃあ、こ、こんなことされたの初めてです。)

 たくましい腕は真っ赤になった美珠をしっかり抱きかかえていた。

「あ、あのお!」

「はい?」

 暗守は真っ赤になった美珠の顔を見て自分が一国の姫相手に何をしているか気が付いたようだった。

「失礼いたしました。出過ぎたことを。」

 慌てておろそうとした暗守を美珠はとめた。

「あ、あの暗守さん、お願いがあります!」

抱き上げられた美珠の顔は暗守の正面にあった。二人はお互いの目を見つめ固まる。

「何でしょう?」

「辛いことや、悲しいことがあったら何でも言って下さい!私では頼りないかもしれませんが、一人で溜め込むのとは全然違うと思います!その為に一緒にいるんですから。」

「私は美珠様をこれでも信頼しているのですよ。」

「え?」

「初めてお会いしたとき、あなたは何の偏見も私にもたれなかった。大概、初対面の人間は私の鎧姿に嫌悪感を抱くにもかかわらず。」

 暗守が無表情ながらもそう言うと美珠ははにかんだ 。

「嬉しいです。そんな風に言ってもらえると」

「私の姿をみてもなお笑顔を向けてくださるのはあなたが初めてです。私も嬉しいのですよ。」

 暗守は美珠を床におろすと、お互いの目を見て微笑んだ。

「では、そろそろ戻ります。」

「ええ。美珠様。気にかけてくださって・・・ありがとうございました。」

美珠はその言葉に満足そうに微笑み、駆け足で出て行った。


『いったあい!』

 美珠の木刀が吹っ飛び、美珠は手を押さえて蹲り剣術の相手と珠以が駆け寄ってくる。

『大丈夫?』

『大丈夫ですか?』

『大丈夫。』

 美珠が笑うと二人も笑い、木陰で休憩をとった。見渡す限り草原の中で三人は木の幹にもたれ、おそろいの白いシャツで汗を拭いた。

『あたしは絶対この国一番の剣士になって、色々な所を回るんだ。』

 珠以よりも少し背が低く色素の薄い珠利(じゅり)が笑う。

『一番になるのは俺だよ、絶対珠利には負けないからな。』

 珠利と珠以の二人の間に挟まれ話を聴いていた美珠は話に割り込んだ。

『じゃあ、私は二人をこき使って、それからお父様から教わることをちゃんと勉強して国を一つにしてみせるわ、そしてこの国を平和にするの。』

 美珠が立ち上がり、手をめいっぱい広げて力説すると、二人は嬉しそうに聞いていた。


 美珠は目を開ける。

(また夢・・・。今日の夢の私は七歳ぐらいの子供でした。)

しかし七歳の時の思い出に珠以、珠利の名前など無い。七歳のころは刺繍に夢中だった。

「剣術もしたこと無いし。それにお父様に教えを乞うなんてまっぴらです。」

美珠は寝返りを打った。

「私が帝王学を真剣に学び始めればお父様泣いて喜ばれるでしょうけれど」

空には大きな満月が見えていた。


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