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商人根性

 その目はやはり情報を聞き逃すまいとした目だった。

 優しくみえる目は今は鋭く光っていた。

「率直にお訊き致します。この国で何があったのでしょう。息子の光東は・・・。」

 美珠はこの国で起こったことを光東の父親に包み隠さず話した。 「そうですか・・・。しかし美珠様も難儀なされましたな・・・。」

 商人はそれだけ言うと黙り込んだ。

 頭の中でそろばんを必死にはじいているのか、息子を心配しているのか美珠には分からない。

 そして結論にいたるまでそう時間はかからないようだった。

「分かりました。」

 美珠と相馬はその声と同時に顔を上げた。

「私には商人の情報網がございます。その孝従という者の事をすぐに調べさせましょう・・・。」

「本当ですか?よろしいんですか?」

「後は・・・。初音、服を貸して差し上げなさい。」

「嫌よ!なんで、私が!こんな人に!私だって荷物なんてろくに持ってきてないのよ!」

「いいから!黙って言うことを聞きなさい!」

 父親の怒鳴り声と共に渋々立ち上がると、美珠についてくる来るように顎で示した。


「どんな服がいいの?」

「動きやすい服を・・・。」

 そう言うと黒い長袖のブラウスと黒い細身のズボンを貸してくれた。

「ありがとう。」

 初音に礼を言うと、初音は横柄に寝台にドカッと座った。

「お兄様のこと好きなの?」

「え?」

「違うの?」

「信頼してるわ、優しいし。」

 初音は敵意むき出しの瞳で美珠を見据えていた。美珠にもそれは伝わっていた。そして付け足した。

「でも私には今・・・好き・・・な人がいるから・・・。」

 自分の今の心のよりどころとなってくれる人。国明を思い浮かべながら小さく呟く。言い終えた美珠の年頃の娘となんら変わらず恥じらい赤くなって俯いた。

 すると前からため息交じりの声が聞こえた。

「なんだあ、そうなんだ・・・。」

「ええ・・・。」

「お兄様よりもいい男がいるとは思えないけど・・・・でも選ばれなくて良かった・・・。まだお兄様は暫く私のものなのよね・・・。」

 それは自分で自分にかけた言葉。

 美珠は顔を上げると心によぎった言葉をかけた。

「光東さんのこと好きなの?」

 ギクッと初音の肩が揺れる。

「へへ。」

「だから私に?」

 美珠が訊くと、初音もまた恥ずかしそうに頷いた。

 トントン、扉が叩かれ二人とも顔を扉に向ける。

「よろしいですか?」

 初音達の父親だった。

「下でお話をしたいのですが。」

「あっ、はい。」

 美珠がついて降りると、初音もついてきた。

「今、社長に街の状況を聞いていたんだ、ここから東に少し行ったところに、何でか騎士達がたむろしているらしい・・・。孝従の足取りが分かるまで、行ってみない?」

「こんなところに騎士が?逃げてきたのかしら・・・。力を貸してくれるといいけれど。」

「兎に角行ってみよう!どうせじっとなんかしてられないんだろ?」

 相馬が立ち上がったのをみて美珠も立ち上がった。

「じゃ、我々はこれで発ちます。ご迷惑おかけしますが・・・。」

「いいえ、微力で申し訳ない。孝従という者の事が分かり次第、使いをやりますので。」

「お願いします。」  

 美珠が頭を下げると、商人は畏れおおいとすぐに頭を上げさせた。

「あっ、そうだ、これを・・・。」  

 商人はまるで何にか新製品を売るような口調で何本か刀の入っている箱から一番軽そうな物を美珠に渡した。

「よろしいのですか?」

「ええ、もしもの時の為です。」

「・・・お心遣い感謝します・・・。では。」

 美珠は優しく微笑む光東の父と顔のこわばった妹をみて頭を下げると歩き出した。

 しばらくして初音は美珠の後ろ姿を見ながら父に話しかけた。

「私・・・、美珠様と行くわ。」

「・・・ああ、行くと良い。」

「あら、さっきみたいに止めないの?」

「あの方は良き王に成られるかもしれない。ま、これはただの商人の勘だが。この状況で美珠様につくことは十年先を見据えた先行投資だ。」

「ふうん。投資なら失敗もあるってわけね。でも私は失敗なんて許さない。・・・じゃ、私は行きます。」

「気をつけてな。お前は投資じゃない。私の娘なんだから。」

 初音は何も言わず一度頷くと走っていった。


「あら?どうしたの?」

 美珠が訊くと初音ははにかみながら笑う。

「お供させて、私もお兄様の守るこの国を守るの!」

 初音の目には信念が宿っていた。相馬は美珠に頷いた。

「じゃあ、お願いします。」

 美珠は微笑んだ。



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