ライバル(?)再び
「あ、村だ!」
「良かった。俺座りたい。ちょっと休憩していこう。美珠様!」
三時間ひたすら青々とした小麦畑を歩き続けた二人は見えた人工的な建造物に心を躍らせた。
けれどその村の中は王都の異常を感じ逃げようとしている者の方が多いのか多くの馬車が休憩をしていた。
そして村の中央では一際大きな荷物を積んだ商人の一行が陣取っていた。
「あれは・・・。」
相馬が呟く。
「ん?」
「東和商会だ。王都からいち早くでたのか・・・。さすが商人。」
「東和商会?」
「そう。この国で一番大きい商社だよ。多分団長にそこの息子いただろ?」
「あ・・・。」
父が一番大きな商家の息子だと言っていたことを思い出す。
「じゃあ、光東さんの・・・。」
「何か手伝ってもらえるかもしれないな。行ってみよう美珠様!」
近寄ろうとすると怒鳴り声が聞こえた。
「だから、やめておきなさいと言っているでしょう。」
それは四十代の女性が発した声だった。
自分たちに背を向けた形になっている少女に浴びせられた声。
「嫌!お兄様を助けるの!」
「お前が行ったところで無駄死にだ。」
五十代の男が呆れたように、けれど温和に声をかけた。
「私は、お兄様と一緒にいるの。そう約束したの!だから一人でも助けに行くわ。」
女は背を向けて駆け出した。
そして美珠と目があった。
みるみる少女の顔は高潮してゆく。それは美珠の目にも明らかだった。そして息を吸い込むと懇親の力で怒鳴りつけた。
「あんた何でこんな所にいるのよ!お兄様達を捨てて逃げる気?」
初音は美珠にあからさまに敵意をむき出しにして怒鳴っていた。
けれど美珠はひるまなかった。
自分にはやらなければいけないことがあった。
「いいえ、私は今私がすべき事をしに行くのです。」
「王城から逃げることがすべき事なの?お兄様を民を見捨てることが貴方のすべきことなの?」
「逃げる・・・わけではありません。皆さんが守っている間に、守ってくれているからこそ・・・自分ができることをしに行くだけです。」
「何を?」
「今、王都を襲っている者の目的はなんなのか?王座がほしいのか、それとも他に何かあるのか・・・本質を調べたいのです。」
「・・・竜騎士が王座ほしさに反乱を起こしたって聞いたけど・・・。違うって言うの?」
「いいえ。ただそうなのかもしれません。けれど、調べたいのです。なんというのか・・・人の心が複雑に絡んでいるように思えて。」
すると後ろから男が走ってきた。小太りの垂れ目をした男だった。
「初音、こちらは?」
「はあ・・・この国の姫様、美珠様よ。」
「何と!」
垂れた目をまるで吊り上げるかのようにしてこの国で屈指の財力を誇る商人は、美珠をこの村の宿まで連れて行った。