気持ち
散々国明の胸の中で泣きじゃくり、流れる涙が枯れて落ち着くと恥ずかしそうに鼻をすすって顔をあげた。
「目が腫れてしまいましたね。」
そう言うと国明は瞳に口付けた。
美珠は国明のそんな行動に驚き照れて、顔を赤らめ身を硬くした。
「国明さん!だめです。私には思う人がいるんです。」
「珠以という者のことは忘れなくてもいいんです。」
「そんな都合のいいことできません!珠以がだめだから国明さんを相手に選ぶだなんて!私は!」
「珠以、以上に今の俺の事を愛してくれれば・・・。俺は幸せです。」
そう言うと今度は頬に口付ける。
「大切なのは俺たちの気持ちなんです!」
「私達の気持ち・・・。」
孝従の時よりも何かしっくりくるものがあった。
珠以という思いに囚われていたあのときとはまったく違うどこかすがすがしい気持ち。
「ええ、私は美珠様を愛しています。後は、あなたの気持ちです。他に何が必要だというのです?」
「国明さん・・・。」
「俺のことはお嫌いですか?」
「まさか・・・。」
美珠は首を激しく左右に振る。そして国明の腕を掴んだ。
「国明さんが気になるから、国明さんが好きだから避けてしまったのです。珠以を選んだ自分の気持ちが本当にあっていたのかわからず相当悩みました。それぐらい国明さんは心の中にすうっとはいってきて・・・。今思うと・・・はじめてあったときにもう貴方は私の心に入ってきていたのかもしれない。初対面だったはずなのに、貴方を昔から知っているようだった。きっと貴方は・・・珠以に少し似ているんです。私を見てくれる瞳も、私にかけてくださる言葉も。」
美珠は濡れた国明の前髪に恐る恐る触れた。するとその細く白い手を国明は握った。
「過去の男と比べるのはやめて下さい。今の・・・俺を見てください。」
「あっ、ごめんなさい。つい・・・。」
美珠が後悔していると国明は吹き出し、顔を優しくなでた。
「美珠様は本当に分かり易い方だ。そんなところが大好きなのですよ。愛しくて仕方ない。」
「今日の国明さん、どうしたんです。」
美珠は国明が一言一言恥ずかしいことを言うので真っ赤になってて顔を背けた。
「そんな顔をされると、もっと言いたくなりますね。・・・可愛いですよ。」
国明の方をまともに見ていられなくなり美珠は国明の腕をつかみ頭をつける。
「美珠様。」
国明は美珠の名を優しく呼び、両手で頬を挟み、上を向かせる。 「この世で誰よりも愛しています。」
「国明さん。」
(・・・この人を目でどうしても追ってしまう・・・。)
国明の瞳の中に映る自分の姿が見えた。
(きっと私はこの人が一日一日好きになってる。この人の優しい瞳が自分を見るごとに私もこの人を・・・。)
美珠は国明の瞳を暫く眺めていたがやがてゆっくり閉じた。
一瞬間をおき、美珠の唇に国明の唇が触れた。少し冷たい唇だった。軽く自分の唇に触れ、直ぐに離れてしまった。
目を開けると耳まで真っ赤になった国明の顔があった。国明が見る美珠の顔もまたまるで林檎のように赤かった。
国明は気恥ずかしさに顔を反らし、美珠に声をかけた。
「雨、止んだみたいですね・・・。」
「本当・・・。」
美珠も顔を同じほうへ向けた。
「皆心配します。戻りましょうか。」
「はい。」
美珠は空を見上げて微笑んだ。
雲の切れ目からもう星が見えていた。
二人は小屋へと歩き出した。途中ぬかるんだ道で国明は美珠に手を伸ばした。美珠はその手をしっかりと握り、そのまま手をつないで小屋へと歩いていった。