後悔
国明は水汲みから開放されて一つ伸びをした。その隣を歩きながら美珠は勇気を振り絞り国明に声をかけた。
「ごめんなさい・・・・。この前はひどいこと言って。」
美珠の言葉を聞き、国明は体を元に戻した。しかしどれだけ待ってもその後帰ってくる言葉は無い。美珠は国明の気持ちを考えた。
怒っているに決まっている。
あんなにひどい言葉をかけたのだから。
「私が馬鹿だったんです。わがままな姫でした。国明さんや皆さんだって色々なことを我慢して、それでも私に尽くしてくれていた。私は・・・自分が情けない。会わなくて済むのなら、このまま逃げていようとしていました・・・。」
こぼれ始めた涙はもう止まらなかった。
「自分だけ幸せになろうとしたんです。自分だけ・・・。国明さんが私に好意を寄せて下さっているのを知っていて・・・。考えないようにして・・・。」
「そうですね。私の気持ちは完全無視でしたからね・・・。」
「・・・。」
「あなたの側を何度離れようと思ったことか・・・、何度この辛い状況から逃げ出そうと思ったことか・・・・。」
国明は淡々と続けた。
「でも・・・できなかった。あなたを守ることが俺の使命だから。」
美珠は目にいっぱいの涙を浮かべ国明の顔を見ていた。
国明を思えば思うほど、自分の手で壊した彼との関係というものの大きさを思い知らされた。
「あなたのことは・・・もう諦めます。あなたはご自分の選ばれた方と幸せになって下さい。ただ出来る限りお手伝いは致します。国づくりも協力させていただきます。」
国明は美珠が結婚しようとした相手のことは知らない。
馬鹿な姫は敵の策略にまんまと騙され、自分のことを考えてくれている人を失ってしまった。
美珠は言葉を出すことが出来なかった。 それほど深い後悔と絶望に襲われていた。
雨がぽつりぽつりと降り始める。
「雨です・・・戻りましょう。」
「私、体を流したいの・・・。少し雨に打たれているわ、すぐ側にいるから大丈夫よ。中に入っていて。」
(今戻れない・・・。大声で泣いてしまう。)
「わがままを言わないで下さい。」
国明の言葉が心に響く。
「こんなところに姫を一人置いていけるわけがないでしょう?」
雨は激しさを増し土砂降りにかわった。
(国明さん・・・もう・・・名前も呼んでくれないんですね。)
美珠と国明はそれ以来お互い何も言わず立っていた。
衣服は濡れ、髪からも水が滴り落ち始める。
「戻りましょう・・・。」
美珠は首を振る。
「風邪をひきます。」
国明は美珠を小屋に戻そうと手を取った。しかし美珠は動かない。
「いい加減に・・・。」
国明は怒ろうとして美珠の顔を見て止まった。美珠は声を殺して泣いていた。国明は小刻みに震える肩に手を置く。
「雨宿り・・・しに行きましょうか。」
そう言うと美珠も素直に頷く。
国明は美珠の肩を抱いて、少し先に見える洞穴へと連れて行った。