第四章 邂逅 失くしていたもの 前編
『珠以、奥義を教わったそうだな。』
若い教官、孝従は一四歳になった珠以に声を掛けた。
『ええ、あの嫌な教官に教えて頂きました。』
『まあ、そんな風に言うな。あの人の剣は類まれなる魔法剣なんだ。お前達の力になる。』
『どんな技なの?』
『奥義は秘密だそうです・・・。簡単には出せません。』
まだ幼い美珠はワクワクしながら問いかけたが珠以の質問の答えに、口をとがらせた。
『そうか、それは残念だ。』
教官は気を悪くした風でもなく笑って去っていった。
『はあ。珠以も珠利も強くなっていくのね。ね、珠以はどこの騎士に入りたいの?』
『別にどこというわけではありません。ただ貴方のそばで貴方を守れれば。』
『でもあるでしょ?国王騎士とか、教会騎士とか!それに騎士になれば、その騎士の一字をもらった名前がもらえるのよ。素敵じゃない。』
『いいえ。貴方を守れなければ意味はありませんし・・・。』
『美珠騎士になりたいんだよ。珠以は。だから、美珠様と同じ「珠」っていう字があれば十分。むしろ変わりたくないんじゃない?』
『珠利!』
顔を真っ赤にした珠以の背中をたたくと珠利は机に乗っていた良く冷えたお茶を飲み干した。
『はあ。静祢の煎れてくれるお茶、おいしい。』
『でもさ、美珠様こそ国王様になるの?それとも教皇様?』
すると美珠は机の上に乗っている政治学の本を閉じた。
『お父様は国王がいいんじゃないかって。お母様のほうが十二歳も年下だし、きっと先に死ぬのは自分だからって笑ってらっしゃったけど。でもどうして分けないといけないのかしら。両方をするって言うのはできないのかしら・・・。国を助け、人の心を助け、国を一つにまとめる。一石二鳥なのに・・・。』
『一つでも大変なのに、二つもする気?やる気満々だね。ま、ヒヨコがいるから、面倒なのはこのヒヨコに任せておけばいっか。』
『ヒヨコ言うな!』
後ろで叫んだのは相馬だった。まだ体の小さい相馬は珠利に喧嘩で勝つこともできず、ただ、それを言うのが精一杯だった。
『でも、大きくなったら、相馬ちゃんに助けてもらって、珠以と珠利に助けてもらって・・・。きっと素敵な国になるわ。考えるだけでワクワクしちゃう。』
その言葉を聞いて三人は顔を見合わせて笑った。
この人の為に命をかける。
その気持ちをすでに三人は持っていた。大人に言われたわけではないく、過ごしてゆくうちに自然と身についていた。
『でもさ、二人はいつぐらいに結婚するんだろうね。』
突然の珠利の言葉に美珠と珠利は顔を見合わせる。
お互い真っ赤になって顔が見れなくなっていた。
『できないんじゃないの?案外、珠以が伸び悩んでさ。残念だね。この国で一番になれないなんて。』
『相馬!なるに決まってるだろ?』
『でも、色々強いやつの噂聞くよ。暗黒騎士に最年少で入った暗守ってやつとか、教皇様の秘蔵っ子とか、あと、東地区の訓練所で商人の息子にすごい強いやつがいるって。』
『何言ってるの!珠以が一番に決まってるじゃない!ね?』
『うわ、変な重圧。珠以大丈夫?』
『ああ。いつかそいつらとも手合わせしてみたい。それでそいつらとともに美珠様を守る。』
『ありがとう。珠以』
美珠はそんな珠以に微笑みかけた。珠以はそんな美珠の微笑みを幸せそうに見つめていた。