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勝負の日

 大陸屈指の強国、その意地を見せ付けるかのようにきらびやかで、美しい飾りが一夜のうちに町の人々によって施されていた。

 白く美しく輝く垂れ布。

 正装し王城の前にそびえる門から規則正しく整列したすべての騎士。

 そして今日という日を祝うべく各領地から参列したこの国に存在するすべての貴族の色鮮やかな衣装。

 それらすべてが見事なまでに美しい色彩をこの街に加えていた。

 そして各国から送り出された貴賓たちはこの国の財力、軍事力を目の当たりにし、その迫力に圧倒され、改めてこの国の大きさを知る。

 その為に開かれたといっても過言ではないのかもしれない。

 この教皇在位十五年の記念舞踏会というものは。


 鏡の前には母からの贈り物である桃色のドレスを着た美珠の姿があった。

 豊かな黒髪には父から贈られたダイヤモンドの髪飾りを挿し、細く白い首には同じおなじく大粒のダイヤをあしらった首飾りを着けた少女。けれど今日はその瞳も爛々と輝いていた。

(今日お父様に言うんです。珠以と結婚したいって。そうずっと願ってきたんですから。やっと・・・運命の人に出会えたんですから。)

美珠は自分の運命の流れを自分に取り戻そうと初めて思った。

大理石で作られた正殿に足を踏み入れると大臣、将軍、各騎士団団長、副団長とが正殿の入り口から敷かれた赤絨毯の横に勢揃いをしていた。

 その姿は圧巻で、この国の後継者美珠でさえ、見ほれてしまうものだった。

 けれど自分にはそんなものはいらなかった。

 珠以さえいてくれれば自分は幸せなのだから。

 美珠は深呼吸をすると赤絨毯の上を歩いてゆく。奥のほうに国明の姿が確認出来た。

 が、国明とは一度も視線を合わせることはなかった。

(このままではいけません。せっかく培った国明さんとの関係が駄目になってしまう。)

 そう考えていても、今は自分のことが優先だった。

 自分勝手と思われても、人から王たる器で無いといわれても、自分の愛する人と結婚する、そう決めた。

 そして美珠は自分の立つべき位置までくると、踵を返し入り口へと視線を向けた。国王に続き、美しく着飾った教皇が大広間へと入ってくる。

 十五年間、人の心を救い続けてきたと民に感謝され、称えられる教皇。最近、そんな母も女だったということを知った。

 そんな教皇が愛の無い結婚で生んだ自分。

 義務として生まれた自分。

 生まれたときから未来の決まっていた自分。

 そんな自分だって幸せになりたい。

 夢の中でしか会うことのできなかった運命の人と現実の世界で愛し合いたい。

 なりたくも無い王になれというのなら自分に一つぐらい幸せをくれたっていいのではないか。

 けれど、

 美珠は躊躇いがちに一度国明に視線を送った。

 姿を見ると胸が締め付けられて涙が出そうだった。

 だから自分は避けるしかなかったのだ。

 純粋に珠以を想う自分をなくしたくなくて。

 国明はふと窓の外へ視線を遣った。美珠もつられて窓へと視線を送る。

 窓の向こうから地を揺るがすような竜の鳴き声が聞こえ、ピリピリと硝子が振動した。

その声と音に会場がざわついた。

美珠はその気持ち悪さに唾を飲み込んだ。

次の瞬間、硝子が割れ、窓から竜騎士が入ってきた。

 大広間に集まっていた貴族達が悲鳴をあげ、逃げだしたためもともと込み合っていた部屋はすぐに混乱し、国王も竜騎士を下がらせるよう怒鳴ったが、竜桧はもう団長の列にはいなかった。

竜桧はあろうことか敬愛する国王を狙う竜騎士の前に立っていた。

「竜桧!」

国王の声に竜桧は無表情で一言呟いた。

殺れ(やれ)。」

 その声に押され竜騎士は槍を構え国王や教皇のもとへかかっていく。

 国王はすぐに部屋にいた客を逃がすようにその場にいた騎士達に指示し、その間に国王を国王側の騎士、教皇を教会側の騎士が守った。

 美珠の前にも騎士が何人かついた。しかし、美珠は信じられないものをその時見てしまった。

 竜騎士の後ろから現れたのは孝だった。

 武闘大会で優勝し、教皇を祝う席上で祝われるはずだったもう一人の男であり、美珠との中を国王に願い出ると美珠に告げた男。

 そしてその男は美珠の前に立ちふさがる騎士を一人斬り捨てた。騎士は声を上げることすらできず倒れ、血が大理石を赤く染めた。

(ど、どうして・・・。自分の事を愛していると言った人がこんな事をするの!)

 美珠はただ相手を見ることしかできなかった。

(どうして・・・。何故・・・。何が起こっているの?)

 相手は美珠の顔を見て噴出した。美珠は目の前の惨劇を理解できず、ただ不思議そうな顔をして立ち尽くしていただけなのだから。

「私は殺されかけたと申したでしょう?私を殺そうとしたのは誰だと思います?」

 美珠は男の気迫に押され後づさる。

 体がこの男は危険という合図を出していた。

「あなたなのですよ。」

 その言葉を聞いて美珠は混乱し頭を両手で押さえた。

「私が・・・。」

「そう。そして私が珠以を殺してやったんだ。」

(この人が珠以を殺した?)


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