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美珠の涙

「え?食事に来られない?」  

 国明の言葉に光東は頷いた。

「そうなんだ、国王様のもとから帰られるなり、部屋に籠もられたまま・・・。」

「何かあったのか?」

 魔央が割り込んだ。

「国王陛下が侍女と抱き合っているところ目撃されてな・・・。」 「は・・・そうか。衝撃を受けられたのかもしれないな。・・・あの方はそういうことにまったく免疫がないだろうし。」

「よくあるのか?そういうことが・・・国王陛下には・・・。」

 聖斗の質問に国王騎士の団長達は渋い顔をした。

「教会騎士の前で話しことではなかったな。忘れてくれ。」

「ああ。別に教皇様のお耳に入れることは無い・・・。」

「悪いな・・・。しかし、夕食だってもったいないし。俺行ってみくるよ。男嫌いになってなきゃいいけれど。」

「まあ、ここで誰がいくとなると、国明が妥当か・・・。頼んだぞ。」

 すでに酒を煽っている魔央の声を背に部屋を出て、美珠の元へと向かう。

 このときの国明はまた姫が可愛いわがままを言っているのだと思っていた。


 国明が美珠の扉を叩くと悲壮な美珠の声がした。

「お願い一人にして。」

「何言ってるんです。夕食ですよ。折角の料理人の真心を台無しにするんですか?入ります。」

 国明は美珠の言葉に構わず入った。

 真っ暗な部屋に一人寝そべっていた。

「来ないで・・・。お願い。」

「どうされました。」

 美珠は声の主が国明だと気が付くと慌てて起きあがった。

 かなり長時間泣いていたのか眼が真っ赤に充血し瞼が腫れていた。

「もう泣き止んで、ご飯一緒に食べましょう?」

「食べたくないの!お願いだから一人にしてください!」

「いい加減にしてください。あなたが来ないとみんな夕食食べられないんです。」

 国明は歩みを進め、美珠の寝台に乗った。重みで寝台が揺れた。

「食べたくないときだって・・・あります。」

「食べてください。」

 けれど美珠は首を振り黙り込んだ。

「何を悩んでるんです?一人で。聞きますよ。」

「・・・。」

「きっと人に話せば、少し楽になります。」

 美珠はその言葉を聞いてからしばらく唇をかんで考えていた。

「・・・私、好きな人がいるんです。」

 国明は予期していなかった答えに少し面食らった。父と母の不仲に言及してくると思っていたからだ。

 そしてその質問を深く掘り下げることは自分にとっては危険かもしれないということもすぐに推測できた。

 けれど聞かないわけにはいかなかった。

「誰です・・・。」

「言っても分からないわ。団長じゃないもの・・・。」

 美珠は再び泣き出した。団長ではない。それは自分が好きな相手ではないといわれたと同じこと。

 国明は一度拳を握った。

 自分の中でこみ上げてくる彼女への思いを必死に押さえ込もうとしていた。けれどそれも数秒のやせ我慢。

 思い切ったように美珠を抱きしめた。美珠の体は国明が思っていたよりも細かった。

 そして美珠はその腕の強さに驚いたが涙を止めることは出来なかった。

「離してください!国明さん。お願い・・・。」

 美珠からこぼれる涙は厚い国明の胸板を隠す白いシャツに吸い込まれ、そして染みになった。

「離したくない!俺は、俺はあなたが好きなんだ。・・・俺はあなたのために生きてきた。」

「離して!そんなの嘘!」

「何が嘘だというのです!」

「私達が会ったのはつい最近・・・それまで私は貴方を見たことも無かった。」

 国明はその言葉をきいてさらに腕に込める力を強くした。けれど国明から漏れた声は弱弱しいものだった。

「あなたは・・・意地悪をいうんですね・・・。私はあなたのそばにいたいとずっと願ってきた。あなたが生まれた時から。貴方の国づくりをするための道具、犠牲になってもいい、貴方の為になれたらと・・・そう思ってきたのに。」

「私はそんなものいりません。人を道具にするつもりもないし、犠牲にだってしたくない!ただ・・・好きな人と、労わり合って生きてゆきたいだけなんです。」

「それでは国主としては!」

「私は運命の相手を大切にしたいの!どうして好きな人と一緒になってはいけないの?あの人の妻になりたいってずっとずっとずっと思ってきたんです!命令で結婚するのは嫌!愛のない政略結婚なんて嫌!お父様たちみたいになりたくない!そんな結婚なんの意味もないんですから!」

 美珠はそう叫ぶと国明を突き飛ばし、布団をかぶった。

「愛がないなんてことはありません!俺は貴方を愛してるんです!確かに美珠様にとっては愛のない政略結婚かもしれない。でも、貴方が俺を少しでも良いように見てくれれば、幸せな結婚に・・・。」

「無理です!私の心の中にはあの人しかいないんです!もう、良いでしょう!でていって。命令です!これ以上そばにいないで!」

 命令といわれればどうしようもなかった。

 国明は部屋から出ると悔しそうに唇を噛みしめた。

「見たことも・・・無い・・・か。」

 堪え切れないやるせない思いがいつの間にか右手に拳を作り、そのまま白い壁を殴りつけていた。重い「ドン」という音が響いた。

「国明?」

 光東と聖斗が心配そうに部屋の前で国明を見ていた。

 国明は表情を作ることも出来ず、ただ二人を睨むと無言のまま部屋へと入っていった。

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