父と対峙!
侍女が冷たいお茶を入れてくれた。それを一気に喉に注ぎ込むと、グラスを机に叩き付けた。かなり大きいゴンという音が部屋中に響いた。隣にいる光東は困ったように目を伏せた。
さほど時を置かず、父は頭を掻きながら現れた。
「何か用か・・・。大切な話とは?そうか!相手を決めたのか?」
美珠は無神経な父を冷たい目で父を見、そして呟いた。
「あの女性は、何なのです?」
「誘われたのだ・・・。」
父はいけしゃあしゃあと答えた。呆れ、父を更に睨む。
「本当だ・・・。」
「もう結構です。」
美珠は父に二の句を言わせず、自分の持ってきた質問を父にぶつけた。
「そんな事訊きにきたわけではありませんし。私がお聞きしたいのは珠以は何処にいるのかです。」
父は少し驚いたようで、質問に答えず、国王自身が美珠に質問をした。
「何処でそれを聞いた、誰に訊いた。」
その声音が低く一瞬美珠はひるんだ。けれどもう一度腹に力を入れる。
「・・・何処にいるのです。」
「死んだ・・・。」
(シンダ・・・?)
美珠は自分の耳を疑ったが、父はその言葉を繰り返した。
「珠以は七年前に死んだのだ。」
「嘘よ、だって今私・・・。」
「殺されたのだ・・・。」
「じゃあ、珠利は?」
「何処で・・・その名まで・・・。」
「お願いです。はぐらかさないで教えて・・・。」
「行方不明だ・・・。」
国王の言葉を聞いた瞬間美珠の目の前はぐらつき、吐き気が襲った。
二人の子供の笑顔が美珠の脳裏に浮かんでは消えた。夢の中で出会う二人の友への想いがまるで絶たれてしまったようだった。
(そんな・・・そんな!そんな!)
「どうして私は二人のことを知っているの?」
美珠が訊いても国王は黙り込んだままだった。
「お願い教えて下さい。お願い。・・・どうして・・・私は二人を忘れているの・・・。」
(どうして私は自分の大切な人を失ったの?どうして私は思い出せないの?)
美珠はそのことに強い衝撃を受け、ただこぼれて行く涙を止めることは出来なかった。
一方、城の廊下では・・・。
「桐!」
竜桧は桐という恋人を必死に追いかけていた。
「待てって!」
やっとのことで追いつき桐の細い腕をつかむ、振り向かせると桐は泣いていた。
「桐・・・。」
「何も言わないで!きつく抱きしめてて!」
桐が竜桧の腕の中に飛び込むと竜桧は桐を抱きしめている腕の力を強く強くした。
「嫌わないで!お願い・・・だから。私が好きなのはあなたなんだから・・・。お願い。」
「嫌うもんか、な、桐。だから泣くな。」
「だって、あなたにあんな姿見られるなんて!好きな人にあんな姿見られるなんて・・・死んだほうがよかった。」
「桐、何言ってるんだ!」
「お願い信じて!私嫌だったの!でも王に無理やり!」
竜桧は自分の腕の中にいる女の顎を上げて激しく口付けた。女の涙の味のする口付けだった。
そして離れた唇で竜桧は言葉を紡いだ。
「俺は・・・もう待たない!」
「え?」
「俺はお前を苦しめたものを絶つ!あの老いぼれにも、俺の桐を奪うとどうなるかを教えてやる。国一つ満足に統治できない国王なんて必要ないのだからな!変えてやる!俺が・・・この国を正しい方向へ導いてやるさ。」
「何をするというの?竜桧!」
女の心配そうな声色とはまったく違う輝きが目には宿っていた。それはこれから彼が行おうとすることを待っていたかのような期待にあふれた眼差し。
「・・・俺は・・・。俺には力がある。誰よりも力がある。だから最年少団長にもなれた。だったら・・・やれる。」
「・・・。」
「おれにできないことなんて何も無い。やってみせる。桐、お前もついて来い!俺が見せてやる!」
「・・・分かったわ。」
きつく抱きしめる竜桧の腕の中で桐は口の端を持ち上げた。