白亜の宮
美珠はしばらく白亜の宮に戻ることになった。
一度血の海となった建物はどれだけ掃除をしたとしても飛び散った血や匂いが消えることがなかったためだ。
それに併せ団長達も白亜の宮に部屋を与えられ、そこで思い思いに過ごすようになっていた。
侍女は全て様変わりしたがばあやの書き残した、美珠の習慣を頭に入れ、以前から仕えていたような心配りをしてくれた。
聖斗はというと毎日白亜の宮の庭に現れ、剣術を教えてくれた。
今までの敵意に近いよそよそしさは消え、美珠に気さくに声をかけてくれた。
そして美珠もそんな聖斗を信頼するようになっていた。
「美珠様、基礎はきっちりしておられますね、習ったことがおありなのですか?」
聖斗は休憩し、汗を拭きながら言う。
「いいえ。全くの初心者です。」
少し聖斗は考え黙った、しかし気を取り直したようにニコッと笑う。
「それならば、美珠様の上達は目に見えて早いものになるでしょう。」
美珠は嬉しくなった。
つい最近まで美珠を敵視していた男が見せてくれた優しさであった。
美珠は聖斗との稽古を終え、庭で椅子に腰掛け自分の様子を見ていた人物へと駆け寄った。
「そんな日向で大丈夫ですか?」
「ええ。」
ひざを折り、大きな瞳をクルクル動かして自分を見つめる美珠に国明は手を伸ばし額に流れる汗を拭いた。美珠はその行為に恥ずかしがり、離れようとして体勢を崩した。けれどグイッっと前に引かれる。
「きゃあ。」
美珠はすっぽりと国明の腕の中に納まっていた。
(私、汗臭いのに・・・・。恥ずかしい・・・。)
けれどそんなことを国明は気にしてはいなかった。
「ずっとこのまま姫様を抱いていたい。誰にも渡すことなく。」
(ど、どうしたんでしょうか!聖斗さんもいるというのに・・・。国明さん。)
「さて、行くか!」
美珠の動揺を考えることもなく国明は満足そうに微笑んで立ち上がった。
「本当に大丈夫なんですか?まだ、お体良くないのに・・・・。」
国明は今日から竜に乗って城へいくと言っていた。
「今、美珠様に元気ももらいましたし。大丈夫ですよ。それにやわらかさも感じましたし。」
(どうせぷにぷにですよーだ。)
「じゃあ、行ってきます。」
「行ってらっしゃい!」
手を軽く振った国明に振り返し、振り向くと少し驚いた顔をした聖斗と目が合った。
「美珠様は国明ともうそういう関係に?」
「ち、違います!聖斗さん。母にはまだ何も言わないでください・・・。」
美珠は今まで国明が腰掛けていた椅子に座った。聖斗もとなりに腰を下ろした。
「でも、でも・・・。自分の中で本当に一番甘えられるのはきっと国明さんだと思います。あの人は何故か私の気持ちを全部知ってくれているような気がして。・・・甘やかすだけでなく、いつもきついこともいってくれるから・・・。」
「なるほど、私もここに来るまで国明の噂は聞いてはいました。が、正直どんな人間なのか分かりませんでした。昔からわれら団長たちは年が近いこともあり、各地で訓練生として過ごしていたころから名前だけは聞いていました。けれど、国明は突然現れた。大臣の息子で国王からの信頼も厚いということではじめは皆彼自身を見ようともしなかった。けれど、今はもう誰に聞いても悪口がでてくることはない。多少厳しいという人間はいますがね。自分で信頼を勝ち取ったんですね。あんなやつもいるんです。」
「聖斗さん・・・。」
「もしかすると、共同生活はいいものかもしれませんね。これならば分かり合えるのかもしれません。さ、私も仕事に戻ります。では。」
聖斗は立ち上がり、美珠に一度笑顔を見せて立ち去った。
美珠も自分の部屋へと戻ろうと剣を掴んだ。
そのとき誰かが歩いているのに気がついた。
相手が近づくにつれまた美珠のなかの何かが警告を始めた。