二人の教官
『本当にばあや!?またみんなと稽古出来るのね。』
『ええ、しかしあの姫様の嫌いな教官も奥義を教えるために必要な方らしく、どうしても外せないということで・・・。』
『それでも良いわ、一緒なら。』
美珠は微笑んだ。
次の日美珠と珠利と珠以は仲間達のもとに走っていく。子どもたちは笑顔で迎えてくれた。
『教官お会いしたかったです。』
珠利はよほど辛かったのか、幼いころより兄代わりに慕っていた教官に抱きつく。まだ若くいつも笑顔を絶やさない教官は珠利を撫でてやりながら、珠以を見た。
『手ひどくやられたな・・・。』
『手ひどいと言えるものではありません・・・。拷問です。』
『姫様とお前達二人は他の者よりもすでに技量が上だから、他の教官をつけて頂いたのだが・・・。』
美珠はその様子を見つめていた。美珠はその日から鬼教官と会うことは無くなったが、珠以と珠利は毎日二時間鬼教官のもとに通っていた。
『美珠様、よろしいですか?』
『ええ。』
美珠は信頼している若い教官についていった。
彼が好きだった。それは恋とは全く違うもの。
いかつい騎士の鎧を脱ぎ、いつも目じりを下げて自分たちをみる彼のような人間に憧れていた。
教官の部屋には武道書が山のように積まれていた。
もともと光騎士であったこの教官が弱冠二十八にして騎士を育てる教官に就任したのは彼の人一倍の努力からだと父に聞かされたことがあった。
『美珠様、もう一人の教官はどういった者なのです?』
教官は跪き、美珠の視線の高さに自分の視線を合わせて尋ねた。
『とにかく恐いの・・・。弱肉強食っていつも言うの・・・。それで珠以や珠利をいつもいじめるの・・・。』
『いくつ位の男ですか?』
『多分・・・。四十代だと思うわ。』
教官はそれ以上何も訊かなかった。
教官と部屋から出ると、痛々しい姿をした珠以と珠利が立っていた。
『お昼ご飯食べよ。美珠様。待ってたんだよ。ね?珠以。』
『今日のお昼はばあや特製の玉子焼き入ってますし。』
『二人ともどうしたの・・・。ひどい・・・。私もうやめるように言ってくる!』
『あ、美珠様。痛ってえ・・・。ちょっと待って!珠以止めて。』
『無理・・・。追いつかない。俺・・・もう無理・・・。』
美珠は鬼教官のもとへ走っていった。
いつも無表情で二人をいじめ抜く三十代後半と思しき鬼教官は日記を書いているようだった。
『あの・・・。』
『なんです。』
美珠が来ているのに手を止めることがない。
美珠は大体騎士でもないこの男に教わること事態許せなかった。一般人が騎士に何を教えるというのか・・・。
その上、彼自身の浅黒い肌も嫌いだった。辺境の地から出てきたらしいが、自分たちとは違う肌の色が気に入らなかった。
『・・・どうして、珠以と珠利をいじめるのです。』
『いじめてはおりません、稽古しているのです。』
『でも誰が見たって・・・。』
『見る力のないものが見るからでしょう。二人の実力は上がっていますよ。』
『・・・美珠様。あなたの目でみた物だけが全てでは無いのです。そこには目で見えぬ人の思いがあるのですよ。それが分からぬようであれば、あなたは強い人間になれぬでしょうね。それに、見た目で判断することが差別、ひいては民を苦しめる戦争の一歩になります。王、教皇はそんなこともお教えにはならぬのですか・・・。』
『失礼な!父上も母上もたくさんのことを教えてくださる!』
『はあ・・・。これでは国が思いやられる。貴方が力をもてば、我々の民族は破滅させられるかもしれない。』
言われること事態が口惜しかった。頭まで血が上り顔を真っ赤にした美珠は部屋を相手をにらみつけると扉を荒々しくしめその部屋を去った。