嵐の夜 中編
国明はすぐに事態を把握したのか寝台の下にある剣をとろうとしてよろけ寝台から落ちた。
「力が・・・入らない。」
命を繋ぐことに全ての力を使い果たした国明はそれでもすぐに剣を抜くと美珠を背に庇った。美珠の足は震え、腰が抜けていた。
「くっそ、見張りの騎士は?誰もいないのか・・・、それとも・・・。」
「ねえ、これはなんです?悲鳴が聞こえるんです!ああ!待って、行かないでください!」
美珠に何を告げるでもなく立とうとする国明を怖れで泣きながら掴んだ。けれど、国明はやはり全く体に力が入らないようで、その場に倒れこんだ。
「一緒にいて・・・。」
「いえ!貴方はとにかく隠れて!本来なら貴方の傍を離れるべきではないけど・・・体が思うように動かない。こんなときに限って!だから囮になってなってひきつけます。貴方はその間に隠れて!それにばあや達が心配ですから・・・。」
(そ、そうだ、さっきの悲鳴ばあやかもしれない!)
「待って!私も一緒に。」
立ち上がろうとした時、
「姫様ああああ!」
一番聞きたくなかった悲鳴が近くから聞こえた。
聞くだけで道代だと分かった。
興奮のあまり美珠の目の前はぐらつき床に手をついた。
「美珠様!」
「・・・ばあや。」
次に顔を上げたとき美珠の焦点は国明の持つ剣に注がれていた。頭の中の何かが手を差し伸べているような気がした。
「それを貸してください・・・。私、行かなければ。みんなを助けに。」
「それだけはできません!あなたは私の命に代えてもお守りする、っ!」
国明は最後まで言うことが出来なかった。美珠の目はいつもと違い強い力が宿っていた。美珠は国明の唇を手でふさぎ、驚いた国明の剣を奪い取る。
「私だって守りたいものはあるんです・・・。あなたは体が動かないんでしょう?だったら私に貸しなさい。」
美珠はそう呟くと、体の動かない国明の制止を振り切り、部屋から出た。
廊下の明かりは消え、雷の光が時折中を照らした。
一目散に先ほどの悲鳴が聞こえた方向へ向った。
そこは自分の部屋だった。
鼓動が体中に響き取っ手を持つ手が汗でぐっしょり濡れた。
扉を開けると道代と暗黒騎士三人がいた。しかし、既に道代の体には剣が突き刺さっていた。暗黒騎士からはこの世のものとは思えない醜悪な気が漂っているように思えた。
「ばあや!」
返事がない。
代わって答えたのは暗黒騎士だった。
「探す手間が省けた。美珠様だ。・・・諦めろもう、この女は死んでる。」
男たちは笑いもう一度道代を剣で刺した。道代の体が上下に動いた。
「やめて・・・ばあや・・・ばあやああ!」
美珠の体がワナワナと震える。
道代との思い出が目の前をよぎる。寂しがって眠れないといつも隣で添い寝してくれたこと、母に会うのが怖いとまごついていると手を牽いて母の元へ連れて行ってくれたこと。それら全てがまるで鎖のようにつながり高速で回転を始めた。
パアン
そして美珠の中で音をたてて何かが弾けた。