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第三章 放伐  嵐の夜 上編

「国明は一命を取り留めた。魔法騎士のおかげだな。まあ、もう傷は消えたから・・・、あとは生気が戻るのを待つだけだ。」

 館に戻った美珠は国明が眠る寝台のそばまで来ると力を失い座り込んだ。

「まあ、完全に傷がいえるまでの間は何かと不自由があるだろうが・・・。」

「良かった・・・。本当に良かった・・・。国明さん・・・。」

 美珠は寝台にもたれかかってずっと国明の顔を見つめていた。娘の背中を見ていた国王は何も言わず出て行った。外には魔央と竜桧が控えていた。

「あの者、少し調べておけ。嫌な予感がする。私も城に戻るぞ。」

「はっ!」

 二人は国王の後ろについて歩き出した。けれど、その時には彼らの後ろでいくつもの影が動き出していた。


手が少し動いた。美珠はそれに気が付くとそっと暖かい手に触れ、頭を置いた。

「怪我しないでくださいって言ったのに・・・。絶対私の言うことは聞いてくださらないんですね。意地悪。」

昼間の快晴と打って変わり、雨が降り出していた。美珠は窓の近くに行って外の様子を観察した。地面に叩き付ける雨、木々を激しく揺さぶる風。雨は風に逆らわず地面を這い、生き物のように動き回っていた。

(嵐・・・みたいです・・・。)

 風が窓を叩いていた。美珠は国明のそばに戻った。心なしか最近夢の中に出てくる珠以が国明の顔に変わってきていた。だから先ほども混乱して珠以の名を呼んだのかも知れない。

「そんなにいい男ですか?」

「いいえ。性悪です。」

 美珠は国明が目を覚ましたことが嬉しくて微笑んだものの、目を合わせると何か甘酸っぱい気持ちになった。けれど、それは決して嫌な気持ちではなかった。

「情けないものです。今年こそ優勝するつもりでいたのに・・・。」

「では、一から根性を叩きなおして差し上げましょう。そうすれば、来年は優勝できるかもしれません。何なら今から叩きなおして差し上げますよ。」

「美珠様に特訓されるとはありがたいのか、迷惑なのか・・・。」

「本当に口の減らない人ね・・・。」

「はあ・・・。今年こそ優勝できると思っていたのに・・・。」

 本当に悔しそうに呟く国明の横で美珠は安心して微笑んでいた。

「笑い事じゃありません!俺にとっては死活問題なんですから!夢がかかっているんです。」

「夢?夢ってなんです?」

「っと、まあ・・・・それは今度・・・・。ん・・・?しっ!」

国明の目が不意に団長の目に変わり、気の緩んでいた美珠の耳に一瞬悲鳴のような声が聞こえた。風かもしれないと一瞬思ったが、その悲鳴は連続して聞こえた。

(何ですか・・・?)

 かすかに聞こえる女の悲鳴。金属の擦れる音。

(悲鳴?どうして!これは?)

 美珠は目の前にいる国明の怯えて服を掴んでいた。

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