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決勝戦

国明は聖斗と相手との戦闘を頭の中で思い返しているようだった。美珠はそんな相手との戦闘を想像している国明の隣に立った。けれど、国明はしばらく気が付くことはなかった。

「勝てそうですか?」

「わ、美珠様!い、いつからそこに。」

「先ほどからです。・・・勝てそうですか?」

「さあ、わかりません。心配ですか?俺のこと・・・。」

「別に・・・でも・・・・・・怪我はしないでください。これは馬鹿姫からの命令です。」

 すると国明は嬉しそうににこっと笑って敬礼して会場へと向った。

 何故か嫌な気持だった。何がと問われても分からない。ただ良くないことが起こりそうな気がする。

 それは先ほど男と目を合わせた時と同じような胸の奥にある違和感だった。

 美珠には試合場へと入ってゆく国明の背中が妙に寂しく思えた。


 試合開始の銅鑼の音が響き、会場の熱気は最高潮に達していた。

美珠は試合場のすぐそばで国明を見つめることにした。

 すうっと国明の目が武人の目に変わる。それは相手も同じことだった。

 そして一瞬何かが心の中から湧き出した。

(あの人・・・知っているような気がします。過去のどこかで・・・。)

 二人の表情は兜のせいで良く見えない。

 激しく討ちあう二人の剣から何度も花が散った。

 その火花が見えるごとに美珠の心に不安が積もった。

(もう止めてください。何か気持ちが悪い・・・。)

 攻めるのは国明だった。相手はそれを防戦し、時に反撃技を繰り出す。

「団長!」

「そこです団長!」

 国王騎士団は非常に盛り上がっていた。彼らは自分たちの団長の勝利を信じて疑わなかった。

 国明が切りかかると、相手は身を翻し、下から切り上げる。国明は予測したようにその剣を大きく振り払った。相手の体が振られた。

 国明はそれを見逃さなかった。

「終わりだ。」

 言葉と共に相手の首に剣を突きつける。

(終わった・・・。)

 美珠は息をついてまるで早鐘のように打ち続ける自分の心臓をなでおろした。

 そして国明は美珠に顔を向けた。それはまるで子供のように無邪気な顔。屈託のない笑顔だった。

「国明さん!おめでとうございます!」

 目が合うと美珠も観衆に負けず劣らず拍手を送った。

 誰もが国明が勝ったと思った。

 けれど、相手は違った。相手は国明が気を許したその時、目にも留まらぬ早業で剣を持ち上げ国明の右胸に剣を付きたてた。

(え・・・?)

 美珠の中でしばらく時間が止まったようだった。

 叫びたいのに声が出ない。

 国明は鎧を突き破り自分に刺さった剣をただ見た。

 血がぽたぽたと柄からほとばしりっていた。

 国王騎士達からは悲鳴が聞こえた。

 美珠は動くことも出来ずうめき声のような呟きを出した。

「そ、そんな!国・・・明さ・・・。」

 国明の口から大量の真っ赤な血が吹き出た。そしてそのまま自分を貫く剣を押さえ端正な顔を苦痛に歪めその場に倒れこんだ。

「早く治療を!」

 魔法騎士数人を引き連れた魔央が駆け寄り術をかけ、血を止めようと何かを唱えはじめた。

 すぐに緑色の光が国明を包み込み、姿は見えなくなってゆく。

「珠以・・・。」

 そう呟いていた。

 無意識に呟いた声が国明に届いたのか、国明の目は美珠をただ悲しげに見ていた。

 そして姿は完全に見えなくなった。

 美珠は錯乱し、視線を反らすとその場に頭を振って座り込んだ。

「美珠様!大丈夫ですか?」

 そばに駆け寄ったのは静祢だった。

「いや!死んじゃう!珠以が死んじゃう!誰か!誰か助けて!」

「美珠様!しっかりしてください!誰か!誰か手を貸して!」

 瞳孔を開け真っ青になった美珠を立たせて、静祢は無理やり奥に連れて行った。


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