馬鹿娘
空が白みかけたころ美珠と相馬は白亜の宮の正面にたどり着くことが出来た。相馬に背中を押され、美珠は一度深呼吸すると足を踏み入れた。
衛兵が驚いたように美珠を目で追っていた。そして光騎士は叫んだ。
「美珠様がお戻りあそばされました!」
宮中に声が響く声。
誰よりも早く駆けつけたのはばあやだった。美珠を確認すると走り寄って抱きつく。
「全く姫様は!」
「ごめんね、ばあや。」
「皆さん本当にお疲れですのよ。」
「あ、そうだ、噂の・・・。」
振り向いたときにはもう相馬の姿はどこにもなかった。
「あ、あら?今そこに・・・。」
「どうなさったんです?さあ、早く!」
道代に連れられ、廊下を歩いていると父や竜桧が走ってきた。
父は美珠の姿を確認すると息を吸い込み宮中に響く声で怒鳴った。
「この、馬鹿娘が!」
美珠はあまりの声に驚き肩をすくめ、目を閉じた。
「今まで何処に行っていた!」
更に怒鳴られ萎縮する。
(お母様と話しようと思っていてお父様の存在を忘れてました。ここは素直に謝らないと、更に怒られそうです・・・。)
「ご、ごめんなさい。」
「ごめんで済むか、私も団長達も一睡もしていないのだぞ、団長達は今日の決勝を控えているのに!」
「寝ていらっしゃらないの?そんな!」
「俺らは鍛えてあるから大丈夫ですよ。気になさらないで。」
そう言って竜桧は鍛え上げた腕を曲げて力こぶを見せつけた。
「ごめんなさい・・・。せっかくの武闘大会なのに!」
焦りと自責の念にさいなまれ思わず涙が頬を伝う。
家出を誰に怒鳴られることよりも、人が待ちに待った大切な日をだめにしてしまったことが今更ながら辛かった。
見かねたばあやが父と美珠の間に丸い体をいれ取りなした。
「まあまあ姫様もご無事で、謝っておられることですし。」
国王はため息をつき、侍女に美珠が見つかったので体を休めるように皆に伝えるよう命令すると、美珠の頭にポンと手を置いて、あくびをしながら歩いていった。
「ありがとう、ばあや。・・・少しお母様のところへ行ってきす。」
「ええ、ええ。お顔見せてらっしゃいま今度はちゃんと戻ってきてくださいよ。」
道代はそう言って片目をつぶると美珠を部屋から送り出した。