姫、失踪
「何?見つからぬだと!」
国王が半狂乱になって怒鳴る隣で教皇は頭を抱えていた。
「ばあや、あなたが付いていながらどういう事です!」
「美珠様が教皇様の所に行かれるというので、安心して・・・。申し訳ありません!」
道代は蒼白になって二人の前に土下座していた。彼女自身自分の失態よりも美珠の身を心配し今にも倒れてしまいそうだった。
けれど母である教皇は違った。
娘の心配とそして自分の過ちを見られたかもしれないと不安が入り混じった。
「私のもとに・・・来たのですか。」
教皇は無意識に呟いて手に持っていた扇を落とした。
「何か知っているのか?」
「私・・・。」
教皇が戯言のように呟こうとした時、聖斗が口を出した。
「動揺しておられのです。」
「・・・そうか・・・。なら少し休むといい。後のことは私が引き受けよう。教皇を部屋へ。」
国王は侍女に言いつけ、教皇を下がらせた。重苦しい空気が部屋を覆う。
「さて・・・。美珠が取り乱していたという話も聞いた。一人で泣きながらこの宮を出たと。誰か何か知らぬか?」
その場にいる六騎士団団長に訊く。しかし誰も何も言わない。
「そもそも門衛である暗黒騎士は何をしていた。」
「申し訳ありません。宮に入らせろという少年と押し問答をしていたとのことです。この失態すべて私が。」
表情の読めない暗守の言葉を国王はさえぎった。
「今はそんなことはいい。あの子は自分で出て行ったのだな?」
「は・・・。」
「まさか・・・な。あのことを・・・国明。」
「はっ。」
「何か・・・知らぬか?何かなかったか。あの子が、」
王がいいたい言葉を国明は知ってか知らずか直ぐに返答した。
「いいえ。存じ上げません。申し訳ございません。もう少し我々が気を配っていれば・・・。とにかくすぐに捜しに!」
「頼む・・・。」
国王はため息混じりに呟くと、明日も試合のある騎士以外の全員を捜索にかり出した。
しかし六騎士団団長全員自ら捜索に乗り出し、その夜の王都は眠ることはなかった。