ツンツン頭
武闘大会が行われているために、街の中はお祭りの様相を呈していた。
街全体が灯りに包まれ、酒屋では男たちが今日の武勲を自慢しあい、子供達は楽しそうに屋台に群がっていた。
美珠は走ることに疲れ、鼻をすすりながらとぼとぼと道を歩いていた。
何処を歩いてきたのか、視線の先に大きな川が流れていた。
美珠は惹かれるようにその黒光りした川によろよろ歩いていった。
「お母様なんか大嫌いです。一体年がいくつ離れていると思ってるんですか?」
河原の石を掴んでは文句を言いながら投げ込んだ。けれど気が晴れることはなかった。
「というより!何が聖母ですか?何が聖女ですか?一体どんな人間なんですか?」
思い返すたびに涙が落ちた。何故か分からないが悔しかった。自分にかけられることのなかった愛情を見せ付けられた気がした。
「なあ、そんな河原で泣いてると痛い女と思われるよ」
「え?」
振り返ると短い黒髪をつんつん立たせている少年が息を切らせて後ろに腰掛けていた。
大きなクリクリした目が面白そうに美珠を見ていた。
(な、何ですか。この人・・・。)
「で、文句の内容からして教皇様と何があったのさ。また話しかけられないってうじうじ悩んでんの?」
「だ、誰ですか?あなた!」
「は?俺がわかない?冷たいなあ。」
自分の周りにこんな話し方をする人間がいるわけなかった。
「ひ、人違いじゃないですか?」
「チョット待て!この俺様の記憶力をなめんな。俺の方がいつも計算問題早く問いてたろ?」
(け、計算問題?)
「な、なんですか?それ。」
「あ、そっか。消されたんだった。ま、何でもいいや。早くお城戻ろう?」
(消されてるって?何が?このツンツン頭。)
「皆心配するからさ。早く。」
「いやです。」
「何いってんの?じゃあ、どうすんの?」
「ここで、野宿します。」
すると少年は腹を抱えて笑い出した。
「美珠様が野宿出来るわけないじゃん!野宿の意味分かってんの?」
「それくらい知っています。失礼ですね。」
「そんな格好でこんなところで寝てればそれこそ痛い女だよ。だから戻ろ!」
「誰か知りませんが、いやです。私はここで自分を見つめなおすんです。」
すると少年は真顔になった。
「偽りの美珠様が何いってんのさ。」
「え?」
けれど、それは一瞬だった。すぐに顔を戻してへらへらと笑った。
「じゃあ、しゃあない!一緒に宿屋へ行こう!」
少年は腕を掴んで、美珠を引っ張った。
「え?絶対いやです!離してください!」
(国明さん助けて!)
何故か国明の顔が思い浮かんだ。けれど、男の力には逆らえず美珠は無理やり連れて行かれた。