決勝前夜
時がたつにつれ、勝者だけが会場に残り、そして鐘の甲高い音が闘技場に響いた。
本日の試合が全て終了した合図だったす。
その夜は父と母と三人揃っての夕食を久々に取った。家族といられる時間を何より大切にする父は上機嫌で美珠に訊く。
「どうだ、相手は決まりそうか?」
「まだ分からないわ・・・。」
「ならば第一印象で気に入ったのは?」
美珠が返答に詰まると母が助け舟を出した。
「ねえ美珠、明日一緒にお洋服を買いに行きましょうか。」
美珠は思いも寄らぬ母の言葉に何度も頷いた。
「行きます。行きます!でも試合はどうするんです?」
「準決勝までに時間が空くからその間にいって戻りましょうか。」
「じゃあ、私も。」
「あなたはちゃんと行って下さいね。」
教皇は冷たい口調でウキウキしている国王を突き放すと、国王は明らかに小さくなった。
美珠は今にも飛び上がりそうな笑顔で部屋に入った。
部屋では道代が床の準備をしていた。
「明日お母様とお買い物に行くのよ。」
「まあ、ようございましたね。」
美珠は興奮したように寝台の上に転がった。
「だって、お母様とお出かけなんて何年振りだと思う?三年二ヶ月ぶりよ!お母様とはあまり一緒にいたことがないから。ねえ、ばあや、お母様なら結婚相手のお話乗ってくださるかしら。気持ちを素直にお話してもいいかしら?」
「そうですね。国王様よりは教皇様の方が女として話してくださるかもしれませんね。」
「ああ。すごく楽しみ。何着ていこうかしら。」
「それで明日は何時にお出かけに?」
「あら、決めるのを忘れていたわ・・・。ちょっとお母様の所へ行ってくるわね。」
美珠は興奮さめやらぬ顔をして、頬を紅潮させたまま走って出て行った。
道代はやれやれという顔をして静祢と目を合わせると美珠の嬉しそうな姿をやさしい目で見送った。
白亜の宮にある母の部屋は父と正反対の場所に位置している。本当は二人で使う大きな寝室があるのだが、性格の不一致からか全く二人は使用しない。
美珠が部屋に行くと、教皇の部屋の前だというのに見張りが誰もいなかった。美珠は少し不思議に思いつつ、扉を叩こうとしたまさにその時人の声が聞こえてきた。
「今日もまた一段とさえていましたね。」
「あなたが見ているんだ、力など抜けませんよ。」
「また生意気を言って。でも本当にあなたは無敵ね。」
母の声だった。
「あなたの為に俺は強くなりました。あなたを守るため・・・。」
相手は父とは全く違う若い男。
「あら、だめよ。ここでは国王もいるんだから。」
「でも俺はしたい。」
「甘えたね。」
いけないこととは思いながらもそうっと覗いてみた。
(ど、どういうことですか?)
母と聖斗だった。
激しく口付けあいながら男は女の服を脱がしていた。
(何が起こっているんですか?あれは何ですか?どうして母と聖斗さんが?)
美珠は走り出していた。体の筋肉を全て使用し、一刻も早くこの場を離れるために。
(気持ち悪い!)
しかし、普段使用していなかった筋肉はすぐに使い物にならなくなり、足が絡まって転んだ。止まると美珠の目から涙がこぼれる。
(何で涙なんか!何の涙ですこれ?)
正面に白亜の宮の裏門が見えた。
(何故今まであんな人を尊敬のまなざしで見てきたんでしょうか?寂しくて泣いている時も、熱が出たときも一度も一緒にいてくれたことなどなかったのに。私が馬鹿でした。もう言うことなんて絶対ききません。大嫌いです!)
美珠は息を吸うと門を一気に走り抜けた。裏門を守る暗黒騎士達は驚き顔を見合わせた。
「今の何だ?俺には美珠様に見えたんだが。」
「俺の勘違いじゃないな。」
「美珠様だって?んなばかな!」
騎士に先ほどまで入れてもらうように交渉していた少年は驚いたように女の背中を見、あわてて走り出した。
「何で姫様がのこのこ出てくんだよ!早くお前らも追えよ!」