開催!武闘大会
『珠以、その雷はどうしたら出せるの?』
『気を集中させて、心で雷を思い描くのです。』
小さな光の塊がまるで刃のように地面へと突き刺さった。
『これは素質がいるんだよ。』
そう言って横にいた珠利は氷を小刀のように横へ投げた。
美珠はそんな二人を尊敬の眼差しで見ていた。
『いいなあ。でも!絶対私も出せるようにするわ。』
二人は美珠の言葉に驚いたように顔を見合わせ、そして笑った。
『美珠様は出せなくても大丈夫だよ。美珠様は私達二人が命に変えても守るんだから。』
『そうですよ。俺達は貴方を守るためだけに強くなるんですから。』
美珠は目を開け、体を起こし、白い格子窓を開ける。朝のすがすがしい風が体を包みこんだ。その風のあまりの心地よさに体をうんと伸ばし深呼吸を一つする。
今日から武闘大会の幕が開く、全国から地方大会を勝ちあがった本選出場者や、その関係者が続々と王都に集結していた。その為町中が活気に溢れ、観客席では多くの人々が声を張り上げ選手を応援していた。
「すごい熱気ね。これが民の力なの?」
美珠が静祢に楽しそうに尋ねると静祢も笑顔で頷く。
「この国の一大行事ですからね、全国の参加者は一五万人、騎士も軍も関係ありません。今日ここで試合が出来るのは勝ち残った五百人です。」
「え?そんなに?」
「ええ。」
「団長!三回戦進出おめでとうございます。さすがですねあの剣技!あそこでの斬り返し、見事としか言いようございません。」
試合を終えた国明の下へ部下たちが駆けつけた。若い団長でありながら年上、下関係なく絶大な信頼を置かれている国明の周りにはすぐに人だかりができた。
「今年の優勝者は団長で決まりでしょう!今年こそあの無表情な教会騎士団長を!」
「美珠様も見ておられましたよ!団長の試合!国王陛下の隣の方が美珠様ですよね!」
「あの綺麗な人が美珠様ですか?ひゃあ、めちゃくちゃ綺麗なお姫様ですね。あの方が団長の未来の妃ですか。羨ましい」
「え?あの、真ん中の?うわあ、細い〜。」
部下たちは始めてみるこの国の跡継ぎに釘付けになっていた。
「で、どうなんですか進展は?団長。」
「さあなあ、美珠様はどう思っておられるんだろうなあ・・・。」
「何ですか!その気のない返事は?まさかご結婚が嫌に?」
「そうですよ!いつもの自信どうなさったんですか!」
「団長以外、誰が美珠様を幸せに出来るって言うんですか!誰が団長より優れてるって言うんですか!」
口々に取り巻きたちは国明に言葉を掛けてゆく。国明はそんな言葉に気恥ずかしさを感じ頭を掻いた。
「まあ、こればっかりは武術でどうなるものでもないし。ご本人のお気持ちしだいだからな。」
年若い国王騎士団員は崇拝する国明を取り囲み、歯切れの悪い自分の上司を叱咤激励した。
そんな時一段と騒がしい国明たちの姿を見つけた美珠が軽く手を振った。
国明も軽く手を上げ返すと、周りの団員たちは冷やかした。
「何だ、心配することもなさそうですね。」
「光騎士団の団長も良い方ですが、やっぱりうちの団長で決定ですよね。」
「ですよね。」
「それ以外誰もいませんよね。」
「団長万歳!」
好き勝手言う団員に国明は口調をきつくした。
「お前ら!無駄口叩いている暇があれば、精神統一して来い!出番、もうすぐだろ?」
「はい!」
団員達が散ると国明は国王と静祢と楽しそうに観戦を続ける美珠をもう一度見つめた。