7話
ご無沙汰しております。
7話:《運命の音色》
大部屋を出た後数分もしないうちに、次の最後になるであろう部屋の扉が見えてきた。
「せ、先輩、あれが・・・」
「ああ、おそらくボス部屋だろうな。」
「とうとうやって来たのです!」
ボス部屋前特有のあの特別な緊張感に、ルルは恐る恐るな様子で、ララは力の入った様子で扉に近づく。
扉の前で俺は二人にいちど確認をした。
「開けていいか?」
「は、はい!」
「だ、大丈夫なのです!」
少し押すと、扉は簡単に内側に開いて行った。
中には、予想通りハルと来た時よりも少しレベルの低めの奴が居た。
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『アグレッシブスターターチキン・大』Lv15
巨大な攻撃的な『スターターチキン』。
弱点属性:火、風、闇
耐性属性:土、光
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大きめのホールとなっているボス部屋の大半を占める巨体を持つ金色の鶏が一羽、部屋の中央にたたずんでいる。
「よし、二人ともいいか。俺が正面から攻撃をかける。その隙に側面を抜けて、後ろから攻撃してくれ。図体はでかいが基本はさっきまでのスターターチキンと変わりはない。ただ、一発が重いから攻撃はなるべく回避してくれ。いいか?」
「「は、はい(なのです)」」
「よし、じゃあラスト、行くぞ!」
二人が頷くのを見て、俺は『アグレッシブスターターチキン・大』に向かって走りだす。
「リープスラッシュ!!」
「コケーーー!!」
アーツ名を叫ぶ声に呼応するように、アグレッシブスターターチキンは臨戦態勢を取る。
俺はアーツにより強化された脚力で空中に身を躍らせる。
「うら!」
「コケーーー!!」
スターターチキンのクチバシを俺は少し体がかする程度で避け、俺の刀はスターターチキンの左目に出ていた弱点表示をしっかりととらえ大ダメージをたたき出した。
「今だ!!」
「「はい(なのです)」」
俺の掛け声でルルとララは、大ダメージにより硬直状態のスターターチキンの脇を抜ける。
俺も少なくないダメージがあったので、一旦回復薬を口に含んだ。
二人の体制が整うのと同時にスターターチキンの硬直が解ける。
コケーーーーーーー!!
片目を欠損状態に持ち込まれ激高状態のスターターチキンは、俺をしっかりとターゲッティングして襲い掛かる。
「二人とも、両翼からできる範囲で攻撃してくれ!」
「「はい(なのです)!!」」
俺はわざとスターターチキンの巨体に近寄り、体当たりなどの大きく位置の動く技を使いにくくする。
「っち!、俺のレベルも前回の時より上がってるって言っても、流石はボスモンスターだ。一発のダメージが重いな。」
俺は小さくぼやきながらも敵のクチバシをさばき、細かくダメージを与え続ける。
ヘタにアーツなどを使って隙を作るわけにもいかず、純粋な剣術だけで攻撃をさばき続けているため決定打に乏しく歯がゆい状態が続く。
俺は相手のHPゲージが見えないというこのゲームの仕様がとても憎らしく感じた。
「ルル、ララ、一気にとどめまで持ってきたいから時間が欲しい。一瞬の時間を稼いでくれ。」
「は、はい、でも、どうすればいいですか? 私たちのSTRでは少し荷が重いです。」
俺の言葉に不安そうな表情をするルルに俺は一つ頷き返す。
「ああ、二人合わせてアーツを叩き込んでくれ。ルルがカウントを取って、二人でタイミングを取るんだ。」
「や、やってみます。ララ!」
「はいなのです!」
やる気を宿した表情で頷きあう二人は、双子らしくピッタリそろったタイミングでアーツの準備のために一歩距離を取る。
「行くよルル!」
「はいなのです!」
「先輩行きます!カウント、スリー、ツー、ワン! 「『スラッシュ』!!」」
ボイスコマンドにより二人の剣はライトエフェクトを帯びる。
コケーー!?
二人の攻撃は寸分たがわぬタイミングでスターターチキンの両わき腹を捕える。
スターターチキンは背後からの攻撃に驚き、一瞬の硬直状態に入った。
俺はその隙を見逃さず体勢を立て直し、今持っている中で一番ダメージをたたき出せるアーツを発動した。
「『ラッシュ』!」
ボイスコマンドに反応して俺の刀の刀身に紅いエフェクトが宿る。
俺は硬直状態が解けきっていないスターターチキンに刀を振り下ろした。
そこからは間髪入れず、斬り上げ、斬り下ろし、縦横無尽に刀を振るった。
コ、コケ~
そんな断末魔を残して『スターターチキン・大』は地面に倒れ、その体をポリゴンに爆散させた。
パッパラパ~ン♪
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《YOU WIN》
おめでとうございます。
《始まりのダンジョン》が攻略されました。
メニューから帰還が選択可能になりました。
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ファンファーレの音と共に浮かび上がるウインドウに激しくデジャヴを覚えるが、今の俺の最大の攻撃がこれなのだから仕方ないことだ。
そう、しかたないのだ。
「た、倒せたのです~」
「つ、疲れました・・・」
「おう、お疲れ。っと、まだダンジョンの攻略報酬も開けてないし、気を抜くのは早いぞ。」
「は、はい。」
緊張から解き放たれたルルとララはその場にへたり込むが、俺の一言で再び立ち上がる。
二人が近づいてくるのを待って、俺は宝箱に手をかけた。
「開けるぞ、二人ともいいか?」
「「は、はい(なのです)。」」
俺は二人の緊張と期待の入り混じった表情に苦笑を浮かべながら宝箱を開けた。
「「「おおーー!」」」
箱の中に入っていたのは三つの笛だった。
大きさは手のひらくらいで細長い円柱の形をしており、真ん中にそれぞれ違う色の宝石がはまっていた。
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《絆の笛》
分類:消費アイテム
グレード:R
品質:S
使用制限一回、
特定の場所で吹くことでレアモンスターを呼ぶことができる。
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「とりあえず鑑定してみたけど全部効果は一緒だし、好きな色で分けるか。」
「そうですね。」
鑑定ではどこで使えばいいかまでは分からなかったが、結構いいアイテムな気がする。
色は、赤、黄色、みどりと青が無かったのが残念ではある。
「先輩が先に選んでください。」
「ん?、初めてのダンジョン報酬だし、二人が先に選んでいいぞ。」
俺がそう進めるが二人は首を横に振る。
「いえ、このダンジョンも先輩がいなかったら攻略できていなかったのです。なので、先輩に先に選んでほしいのです。」
二人のかたくなな表情に俺は苦笑を浮かべる。
「そうか、なら先に選ばせてもらうか。」
「はい、そうしてください。」
実際選ぶとなると俺には迷いはなかった。
すぐに箱から緑色の宝石の着いた笛を取り出し、箱の前を二人に空ける。
やっぱり赤や黄色は俺の色ではない気がする。
「ほら、じゃあ二人とも次いいぞ。」
「はい。・・・・ララ、どっちがいい?」
「えっと、じゃあ、私は黄色をもらうのです。」
「それなら、私が赤ね。」
アイテムの分配はすぐに終わった。
「二人ともまだ時間は大丈夫か?」
二人に尋ねながら視界の右上の時計を見ると、時間はちょうど8時になったところだった。
「あ、はい、夕食は9時くらいなのであと一時間くらいなら。」
「そうか、じゃあさっさとステータを操作して、この笛の使う場所を街で聞きまわってみるか。」
「はい!」
「了解なのです!」
二人は勢いよく返事をすると、自分のステータスを操作しだした。
二人のレベルは、このダンジョン攻略で2レベルもあがり、現在6レベルに到達した。
そしてなんと、俺もようやく10レベルに到達した。
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Name:ヒカリ
性別:男
Lv10
種族;人間族
HP:77/84 《10》〈5〉
MP:54/79 〈5〉
STR:62 (24)《17》〈5〉
VIT:56 《35》〈5〉
INT:59 (26) 〈5〉
DEX:68 (36)《11》〈5〉
AGI:41 (16)《3》 〈5〉
LUK:48 《3》 〈5〉
《スキル》
【剣技Lv12】【鑑定Lv9】【識別Lv8】【狩人の眼Lv8】
《称号》
『初のダンジョン攻略者』:全ステータス+5
《装備》
武器:刀
脇差
上半身:無地のポロシャツ(青)
手:指ぬきグローブ
下半身:ジーパン(紺)
インナー:ただの下着
頭:なし
胴:革の胸当て
腕:なし
腰:なし
足:革のブーツ
アクセサリー:おまけポーチ
始まりのリング
始まりのバンド
《所持金》
27370G
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※( )内の数字はスキルによる、《 》内の数字は装備による、
〈 〉内の数字は称号による加算分を表す。
今のステータスはざっとこんな感じである。
ボスの討伐報酬は前回と同じく、15000Gと始まりの大鈴が一個であった。
今回はとりあえず『始まりの大鈴』を『始まりの鈴』に変換するのは保留にする。
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〈インベントリー〉
・三角獣の革×8
・三角獣の角×4
・兎の毛皮×7
・幸運兎の毛皮×1
・緑猿の毛皮×6
・緑猿の牙×4
・白い羽×92
・兎の肉×2
・猪の肉×3
・鶏肉×99
・鶏肉×80
・卵×99
・卵×12
・ニンジン×5
・リンゴ×3
・カミレ草×23
・薬草×35
・石ころ×48
・始まりの鈴×99
・始まりの鈴×72
・始まりの大鈴×1
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今日一日の成果はこんな感じだ。
まあ、ゲーム開始二日目にしてはかなりの稼ぎだろう。
俺はメニューウインドウから顔を上げる。
ちょうどよく二人もメニューを閉じて顔を上げるところだった。
「よし、じゃあダンジョンから出るか。」
「「はい(です。)」」
「っと、それと、ダンジョンから出てもまだ圏外だから気を抜かないように。」
「は、はい・・・・」
「そ、そうだったのです・・・・・」
俺はメニューを操作しようとして、ふと思い出し二人に忠告する。
二人はそのことを忘れていたようで、情けない返事を返す。
俺はそれに苦笑を浮かべながら、メニューから帰還を選択した。
転移の時のライトエフェクトが治まると、そこは数時間前にいた西部エリアの『クインメリーの森』だった。
「よし、戦闘はなるべく避けながら街まで帰るぞ。」
「はいです!」
スキル的に索敵に向いている俺が先頭に立ち、アクティブモンスターを回避しながらも最短距離で街に向う。
幸いなことに、一度も戦闘を行うことなく街に着くことができた。
俺たちはまず、情報収集や今回得たアイテムの売却のために役場に向うことにした。
役場では中途半端な時間帯だったことが幸いしたのか、買い取りカウンターに並んでいるプレイヤーの数は少なく、すぐに俺たちの番になった。
「はい、確認しました。全部で2558Gになります。パネルにタッチしてください。」
食材アイテムなどを取って置くのに加えて、今回は嬉しいことに『幸運兎の毛皮』というレアアイテムがドロップしていた。
しかし、どうせならレーナさんに何か作ってもらおうと思って、『兎の毛皮』を含めてとっておいた。
ちなみに、『ラッキーラビット(幸運兎)』とは、西側フィールド全体に出てくるノンアクティブモンスターである。
柄は様々で、その個体によって落とす毛皮の柄が違い、極まれに『幸運兎の毛皮』とういレア素材を落とすのである。
閑話休題
アイテムの清算が終わった俺たちは、インフォメーションカウンターに向かう。
「こんにちは、本日はどういったご用件でしょうか?」
「はい、このアイテムの使用できる場所を知りたいんですが。」
受付のNPCの問いに俺は、インベントリーから現物を取り出しながら尋ねる。
「はい、承りました。鑑定させていただきます。」
そう言うと、受付嬢は『絆の笛』を手に取った。
「これは、『絆の笛』ですね。残念ながら私ではお客様のご要望の情報を持ち合わせておりません。」
「そうですか、分かりました。じゃあ、その情報を知っている可能性のある人はこの街にいますか?」
「少々お待ちください。」
受付嬢はそう言って、机の下から街の全体マップを取り出す。
そして、マップの南東区のある一軒の家を指した。
「こちらに住んでいらっしゃるセオルドさんとおっしゃる方にお聞きすれば、きっとお客様のご要望に則した回答がいただけるとおもわれます。」
「そうですか。わかりました、行ってみます。ありがとうございました。」
「いえ、お力になれず申し訳ございません。またのお越しをお待ちしております。」
俺は受付嬢のすまなそうな笑顔に見送られながら、後ろの方で待機していた二人のそばによる。
「あ、先輩、どうでしたか?」
「ああ、その情報を知ってそうな人の居場所が聞けたよ。早速行ってみるか?」
「はいなのです。」
「時間もまだ大丈夫ですから行ってみたいです。」
「おう、じゃあ、行くか。」
俺は二人を引き連れて役所を出ると、南東区に向かう。
「先輩、どこに向かっているんですか?」
「ん?、ああ、なんか物知りのNPCがいるらしくてな、他のことでも色々聞けそうだから覚えておくと徳かもしれないぞ。」
「そうなのですか。」
「うっし、着いた。ここがそのNPCの家らしい。」
「こんなところにあったんですね。」
「ああ、隣の雑貨屋の方にばかり気を取られて今まで気にしたことなかったからな。」
南東区、雑貨屋と薬屋のそばにある目の前のこじんまりとした家が今回の目的地だ。
「まあ、取り敢えず入ってみるか。」
「そうですね。」
NPCと言えど人の家だ、俺はノックをしようと扉に近づく。
っと、急に扉が中に開いた。
「ありゃりゃ、タイミングが悪かったみたいだにゃ。」
扉の前で手を上げた状態の間抜けな姿の俺を見て、白い猫耳の猫人族の少女がイタズラっぽく笑った。
「ああ、すみません・・・って、前田?」
「うん、そだよ~、でも、この中ではユキにゃんと呼んで欲しいにゃ。」
「えっと、ロール?」
「だにゃん。」
イタズラっぽい笑みを浮かべる子の少女は、そう、同じクラスで席が俺の前の前田、や、ややこしいな。
前田雪菜、自称美少女の情報通で新聞部の若きエースである。
「えっと、先輩、お知り合いですか?」
「あ、うん、学校の同じクラスのえっと、プレーヤーネームは『ユキ』でいいのか?」
「ユキにゃんがいいにゃん。」
「まあいい、仲良くしておいても損はないやつだ。それでユキ、こっちが俺の剣道場の後輩の『ルル』と『ララ』だ。」
「ふむふむ、ヒカリキュンの後輩ちゃんか・・・、猫人族のユキにゃ、よろしくにゃん。」
「は、はい、ルルです。よろしくお願いします。」
「ララなのです。よろしくなのです。」
「うむうむ、見た目そっくりな美少女双子姉妹、萌えるにゃーーーーー!!」
「うるさい、お前らもだろうが!」
ルルとララを見ながらふむふむと頷き、急に奇声を上げるユキに俺は思わずつっこんでしまう。
「む、むぅ、確かににゃあとヒョウちゃんもそっくり双子姉妹だけど、それはそれ、これはこれにゃ。
というか、キャラ被り!!、にゃあ達消滅の危機!!」
「何から消滅するんだよ・・・」
「それは、ヒカリキュンを取り巻く物語からにゃん。」
「はぁ、妄想も体外にしとけよ・・・」
俺は深いため息をつきながら、呆れ口調で言う。
ユキは本人も言っている通り、見分けのつかない程そっくりな双子の姉、前田氷花がいる。
こいつらは二人揃ってのゲーマーであり、《GQO》時代からの知り合いだった。
今年の春の入学式の時、二人の方から俺ら三人に話しかけて来てリアルでも知り合いになったのだ。
「で、ヒョウはどこにいるんだ?」
「えっと、このゲームでヒョウちゃんは『コオリ』って名前でプレイしてるにゃん。それとヒョウちゃんは今、別のところで情報取集にゃん。」
「そうか、で、営業はいつからだ?」
「う~ん、まだ未定にゃ。でもそう長くしないで始めると思うにゃん。」
「そうか、じゃあ取り敢えずフレンドだけでもしとくか。」
「よろしくにゃん。」
ユキは俺の他にルルとララともフレンド登録をすると、上機嫌で耳とおそろいの白い尻尾を揺らしながら去って行った。
「えっと、先輩、さっきの営業ってどういうことですか?」
「それは、私も気になったのです。」
「ああ、あいつらはゲーム内で情報屋をやっているんだ。アイテムやダンジョンの情報をゲーム内通貨やレアアイテム、まだ持っていない情報を報酬に売っているんだ。俺は別のゲームでもお世話になっていたんだ。」
「そうだったのですか。では、初心者の私たちはいい人に知り合えたのです。」
「そうだな。まあ、分からないことがあったら俺かあいつに聞けばいい。」
「「はい(です)」」
「よし、じゃあ、お目当ての情報を聞きに行くぞ。」
そう言って俺は、さっきユキが出てきた小屋の扉を開けた。
「おお、おう、今日は千客万来じゃな。して、お前さんたちはこの老いぼれに何の用じゃ?」
小屋の中で机に向かい何かをしていた老人が、俺たちを笑顔で迎えてくれる。
「えっと、このアイテムについて知っていると、役場で来たのですが。」
「ふむ、見せてもらっていいかね?」
俺は『絆の笛』を実体化させて老人、セオルドさんに渡す。
セオルド爺さんはかけていた眼鏡をずらすと、目を細めながらじっと笛を観察した。
「ほう、これは『絆の笛』じゃな。このところはめっきり見ておらん高品質の物じゃな。
珍しいこともあるものじゃ。
今日一日で二回も目にすることになるとはな。」
「そうだったんですか。
それで、これはどこで使うことが出来るのでしょうか?」
「うむ、この笛は緑色じゃから、西の『クインメリーの森』の奥の泉か、東の『アムンゼンの森』の苔岩のどちらかで吹けば、きっと良き友人の出会えるであろう。
まあ、今のお前さんでは東の森の苔岩はたどり着けんだろうな。」
「そうですか、ありがとうございます。
それと、赤と黄色の奴はどこに行けばいいんですか?」
「ふむ、黄色のものは西の森の泉と南の『ナキ高原』の大樹で吹くとよい。そして、赤は北の『ヴィクトリア山地』の火炎の祠で使うとよい。
まあ、北は今のお前さんたちでギリギリじゃな。
じゃが、午前の暖かくなり始める前に行けば、モンスターの動きも鈍く、笛を吹いて帰ってくるくらいなら安全に行けるじゃろう。」
「分かりました。色々ありがとうございます。」
「「ありがとうございます(です)」」
「よいよい、老いぼれの良い息抜きになったわい。
まあ、また来て話を聞いてくれたり、薬草を取って来てくれると嬉しいのぅ。」
「はい、また来ますね。」
「うむ、頑張ってくるんじゃぞ、若人諸君。」
俺たちはセオルド爺さんに見送られて小屋を出た。
街の中は夕日が差し、綺麗な朱色になっていた。
「さて、俺はこれから『クインメリーの森』で泉を探したいと思うが、二人はどうする?」
「はい、ついていきたいところですが、そろそろ母が夕食の支度を始める頃なので私たちはここでログアウトしたいと思います。
宝石類の鑑定は、お店でやってもらうので気にしないでください。
今日はありがとうございました。明日は道場の方で用事があるので無理なのですが、時間があったらまた一緒に遊んでくれますか?」
「ああ、もちろんだ。」
「ありがとうなのです。とっても楽しかったのです。」
「おう、俺も久しぶりに二人と話せて楽しかったぞ。」
「はい、では先輩、おやすみなさい。」
「ああ、またな。」
ルルとララが名残惜しそうに宿屋の方に向かって行くのを見送って、俺は西の『クインメリーの森』に向かって歩き始めたのだった。
二人には泉を探すといったが、実はもう大体のめぼしはついていた。
俺は今日ルルとララと一緒に歩き回った北の崖沿いを、極力戦闘を避け、最短距離で進む。
途中、アクティブモンスターに数度エンカウントしたが、何とか一人で捌ききることができた。
と、今日の探索中に見つけた小川に到着した。
俺は、小川の上流に足を向けた。
さらさらと水の湧き出す涼やかな音が聞こえだした。
俺の歩みも自然と早まっていく。
周囲からモンスターの姿も消えた。
どうやらセーフティーエリアに入ったらしい。
ピュヒーーーーーーーーーーーーーーーー
不意に、透き通った音色が森に響き渡る。
俺はその音色に誘われるように木々の間を通り抜け、開けた場所に出た。
ふと、春の桜の香りがした。
目の前の泉のそばで、白銀の髪を腰まで伸ばした美少女が今まさに一頭の幼い白馬と友諠をかわしていた。
俺はその神秘的な光景に息をのみ、見とれてしまう。
っと、人の気配に気づいた白馬の視線につられて少女の琥珀色の視線が俺をとらえた。
「え?、青嶋君?」
俺は少女に見とれてしまい、その言葉に反応できない。
「あの、えっと、その。」
彼女は慌てたように言葉を紡ぐが、指示語しか出てこない。
そんな、主の様子に不安を感じてか、白馬は少女の影に隠れる。
「あっと、すまん、つい見とれてしまった。その、リアルの知り合いですよね?」
一足先に平静に戻った俺は、その少女が何となく見たことがあるも思い出せない事から確かめの言葉をかける。
「あ、はい、そうです。同じクラスの図書委員の桜井舞姫です。」
「え?桜井さん!?」
「はい、こっちではマイって名前でやっています。」
「あ、ああ、俺はヒカリだ。」
俺はあまりの驚きに呆然と答える。
桜井さんは、学校ではあまり目立たない教室や図書室で静かに本を読んでいるようなタイプだった。
確かに美人ではあったがあまり化粧っ気が無く、こっちでは髪や目の色が違ったので異なった印象を受けてしまった。
「え、えっと、ヒカリ君ですね。本名のままで大丈夫なんですか?」
「あ、ああ、別にありきたりな名前だし、大丈夫かな?」
俺たちはぎこちない会話を続ける。
元々、学校ではそんなに話す機会がなかったこともあり、特にこれといった話題が思いつかなかった。
「え、えっと、その、ヒカリ君はどうしてここに?」
「あ、ああ、マイさんと同じく『絆の笛』を使いに来たんだ。」
「そうだったのですか、私も昨日偶然手に入れたので、ユキちゃんに手伝ってもらってここを見つけて来ました。」
「そうか。ユキの情報力は現実でもこっちでも半端ないからなぁ。」
「はい、私はこういうゲームは初めてなので、ユキちゃんに昨日簡単なレクチャーをしてもらって、今日から一人でプレーしてたんです。」
マイさんは少し恥ずかしそうに言う。
「あ!、申し遅れました、この子が笛で来てくれた。
白馬の『白亜』です。
黄色い笛で、地属性を持っています。」
「そうか、よろしくな、白亜。」
白亜はまだ少し警戒をしているようで、遠巻きにこちらを見ている。
因みに、この世界では名前に漢字を使用することはできる。
たまたま、俺の周りに漢字の奴がいなかっただけだ。
閑話休題
「あはは、警戒されてしまったな。・・・・
まあ、今は置いといて、俺も笛を使ってみるよ。」
「あ、はい・・・・その、私も見ていていいですか?」
「ん?別に問題ないよ。」
「はい!ありがとうございます。」
マイさんは嬉しそうに頷くと白亜を連れて少し後ろに下がった。
俺はそれを目の端で確認しながら、インベントリから『絆の笛』を実体化させる。
ヒュピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺が笛を吹くと静かな風のような音色が森に響き渡った。
と、何処からともなく一陣の風が吹いてきた。
ピイピイ
風が過ぎ去ると、そこには真黒でありながら頭部に少し金色の毛の混じった小さな毛玉がいた。
その毛玉は自分の体よりもはるかに小さな翼をはためかせ、俺の方にヨタヨタと心配になるような飛び方で飛んできた。
そして、俺の肩にいっちょ前に我が物顔で止まる。
「えーっと、これからそうすればいいんだ?」
俺はどうすればいいかわからず、マイさんに助けを求める。
「ヒカリ君、名前を付けてあげてください。」
「な、名前って言われても・・・・・・・」
俺は改めて、肩に陣取る毛玉を眺めた。
手のひらくらいの大きさで、羽毛は黒く、小さな羽が生えている。
そして、頭部に金の毛が混じっており、つぶらな瞳で一生懸命に俺のことを見つめている。
「う~ん、特徴の金色も取り入れてやりたいが・・・・、そうだな、お前は黒羽だ。」
ぴぃー!
名前が気に入ったのか、黒羽は胸を張って元気よく鳴いた。
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《Information》
モンスター、《フォレストクロウ》をテイムしました。
ステータスをご確認ください。
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着信音と共にウインドウが開く。
俺は、インフォメーションウインドウを閉じるとメニューから黒羽のステータスを呼び出した。
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Name:黒羽
性別:女
Lv1
種族:森鴉|《希少種》
状態:雛
属性:風属性
HP:10/10
MP:13/13
STR:4
VIT:2
INT:7
DEX:3
AGI:8
LUK:6
《スキル》
【飛翔Lv0】【風魔法Lv0】
《装備》
アクセサリー:なし
《備考》
フォレストクロウ希少種の雛、頭部の金の羽毛が特徴
群れのリーダーになる素質を持つ。
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「き、き、」
「き?」
「?」
「希少種------------!!!???」
「ひゃっ!」
「!!!!!」
静かな森の中に俺の絶叫が響き渡るのだった。
ご無沙汰しております。
外山です。
このたびは長期休載申し訳ございません。
間隔は空くと思いますが、「進異世界」ともども完結まで執筆は続けるつもりです。
どうか、寛大な心でお付き合いいただければ幸いです。
これからも、よろしくお願いします。