5話
遅くなりました。
5話:《一期一会》
ハルとダンジョンを攻略した翌日、俺は珍しく朝寝坊してしまった。
しかし、運よく今日は母さんが朝ごはんを作る日なので俺は慌てずに自室から一階のキッチンに降りる。
灯姉はもうすでにご飯を食べていたようでもう俺の分しか残っていない。
俺はさっさと朝食を済ませて自室に戻った。
部屋に入り《LAWO》にログインしようとヘッドギアを手に取ると、ヘッドギアの横に置いてあった携帯がメールの受信を知らせた。
送信相手はテツだった。
内容は『お前らイベントアイテム集めすぎだろう。」
の一言と、外部リンクのURLだった。
俺はURLをタッチしそのページに飛ぶ。
すると、《LAWO》のホームページに特設された今イベントのランキングページが開き、一位には俺の名前と隣に104の数字、二位がハルで101、三位にはなんとテツがいてその数62であった。
そしてそのページを下にスクロールしていくと次は『ダンジョン攻略ログ』というのがあり、そこには俺たちのことと思われる『昨夜の0時32分に《始まりのダンジョン|(二人用)》を初クリアした』というログだけがが上がっていた。
まあ、始まって一日なのでこれくらいの差はすぐに詰められるだろうが、ダンジョンキーが他にドロップしていなことは驚きだ。
俺はメール画面に戻って受信時間を見ると2時47分となっている。
おそらく、テツは今はまだ夢の中だろう。
俺はとりあえずテツの事は置いとくとして《LAWO》の世界にログインした。
俺たち三人はそのゲームにより、ソロや各自の作ったパーティーでなどスタイルを変えてプレイしている。
今回俺たちはソロでこのゲームを進めるつもりである。
ロードが終わり、起き上がると昨日泊まった宿屋の部屋で目覚めた。
メニューのフレンドリストを開くと、ハルはログインしていたが案の定テツはログインしていなかった。
俺は宿屋の主人に鍵を返して宿屋を後にする。
向かう先は『役場』だ。
この役場という施設はかなり重要な施設で、クエストが受けられたり、アイテムの買取をしてもらえたり、お金を預けたり、土地の売買をすることができるのだ。
俺は南西区の中を突っ切り、そのまま中心から西エリアまでをつなぐ大通りも突っ切り、北西区に入る。
北西区に入るとそのまま奥まで進み、一番大きな建物に入った。
ここが『役場』である。
中はまあまあな数のプレーヤーがいて、アイテムの売却やクエストの選別を行っていた。
俺は入ってすぐのアイテム売却のカウンターの列に並ぶ。
それから数分列はやっと俺の番になった。
「いらっしゃいませ、お売りになるアイテムをご提示ください。」
俺は今から装備などを整えたかったので食材アイテムと非売品のイベントアイテム、薬草類以外すべてのアイテムを選択した。
「確認しました。全部で2320Gになります。こちらのパネルをタッチしてください。」
俺がパネルをタッチすると、
_________________________
2320G獲得しました。
_________________________
というウインドウが表示され、すぐに消えた。
そして、次はクエストボードに向かった。
クエストボードとは、その名の通りたくさんのクエストが張り出されたボードで、そこに貼ってあるクエストシートと呼ばれる紙をカウンターに持っていくことでクエストを受託できる。
クエストを物色していくと、さっきまでならクリアーできた納品系のクエストをいくつか見つけ、自分の浅はかさに膝をつく。
(しまった・・・・、なぜ先にこっちに来なかったんだ・・・・・)
役場に入ってすぐに買い取りカウンターに少なくない人数が並んでいたのにつられてしまったのが運の尽きだった。
とりあえず、気持ちを入れ替えて討伐系のクエストをいくつか手に取ってカウンターに持って行くのだった。
俺は目的が済んだので早々に役場を出て次は路地裏に向かう。
しかし、路地裏に入ってすぐに俺はまるで得物を見つけた猛獣のような視線を感じ、振り返ろうとしたが遅かった。
背後に突然現れた気配が振り向きかけた俺の顔をホールドして、その柔らかい胸に押し付けた。
「可愛い~女の子つ~かま~えた~」
「ふが!!」
俺は脱出しようと暴れるが、何者かの腕は離れる気配はない。
「あれ~?この感じは~、男の子~?」
俺は少しホールドが緩んだすきをついて抜け出す。
「な、な、な、何ですか!?」
「あら~、ごめんね~、そんなに警戒しなくても~大丈夫よ~」
俺の視線の先には長い金髪に綺麗なエメラルド色の眼の美女といった感じの兎人族お姉さんが立っていた。
「うふふ~、役場に来たら~可愛い娘がいたから~お姉さんつい~抱き着いちゃった~、」
「ついって・・・、てか、俺は男です!」
「うん~、やっぱり男の子か~、でもこれはこれで~、うふふふ~、き~めちゃった~。」
「な、なにを?」
俺はいつでも逃げれるように体勢を整えながら聞き返す。
「あのね~、私~裁縫の~生産職プレーヤーなの~、だから~貴方の服を作って、あ・げ・る~。」
「はいぃ!?」
「あ~、革防具を使うなら~、服だけじゃなくて~防具もお姉さんが~作っちゃうよ~。」
「いや、そう言う事じゃなくて、どうしてこうなったんですか!?」
「う~ん、私は~気に入った娘に~、服を作ってあげるのが~趣味なの~」
やばい、話が通じない・・・まあ、悪い人ではないというのは分かった。
「えっと、じゃあ、とりあえずフレンド登録をするっていうのはどうですか?」
「うん!!もちろ~ん。じゃあ、じゃあ、お姉さんが送るよ~。」
「はい、承認しました、って、レーナさんってあのレーナさんですか?」
「ん~、ヒカリちゃんが言ってる~『レーナさん』が~どの『レーナさん』か~わかんないけど~、《OFF》で優勝した~『《UQO》代表のレーナさん』なら私だよ~。」
「やっぱり!!」
俺の中を驚きの念が占める。
《OFF》とは《 Online Fashion Festival 》の事で、その時期に正式稼働していた4大オンラインRPGの中で最も優れたファッションセンスを持った生産職プレーヤーを決める祭りだ。
まず、各ゲーム内で予選があり、それを勝ち上がった者が他のゲームのプレーヤーと戦える本選に進む。
俺らもその時期にやっていた《 Grand Quest Online 》通称《GQO》の中で予選に参加したのだが、全員予選落ち、そのゲームでは唯一ランキングトップに入れなかったイベントだ。
ちなみに俺たちはその《GQO》で初めて『TS』と呼ばれるようになったのはまた別の話。
そして、その祭りで最終的に二位とかなりの大差をつけて優勝したのが現在俺の目の前にいる『レーナ』さんだったのだ。
『レーナ』さんは、デザイン、性能共に最高ランクの裁縫師ではあるが、性格は美少女好きの残念美女という噂のある有名人だ。
「いやー、すごい人に目を付けてもらったんですね、俺は急に抱きしめられるから危ない人かと思いましたよ。」
「ひど~い、まあ~確かに今まで何回か~運営に通報されて~、アカウント削除の一歩手前まで行ったことは~あったかな~。」
「いやいやいや、それでも直らなかったんですか?」
「う~ん、直す気はないかな~。」
俺はガックリと膝をつきたい気分になった。
「はあ、でもそんな有名なレーナさんとフレンドになれたのは幸運でしたよ。今度防具を作ってもらいに行きますよ。」
「うん~、そう言ってもらえるとお姉さんもうれし~な~、そうだ~ヒカリちゃん、この後お昼まででいいから一緒し狩りしよ~よ。お姉さん昨日はずっと修練所に籠ってたから武器買ったり~レベル上げたいの~。」
「え?、俺はいいですけど・・・てか、俺でいいんですか?」
「うん~、だって~、イベントランキング一位のヒカリちゃんなら~、生産職の私が足手まといになっても~対処してくれるかな~って、思ったから~。」
「え?、あ、ランキング見たんですね。」
「うん~、たった半日で~100個超えるなんてすごいよね~。」
「はあ、分かりました。じゃあ、この先にある装備やで武器を買ってから行きましょうか、っと、それと俺は武器のメンテもあるんで少し時間が掛かりますよ。」
「うん~、大丈夫よ~、でも、武器屋さんは~北東区じゃなかった~?」
「こっちに隠れ武器屋的なものがあるんですよ。」
「そうだったの~、お姉さん運が良いな~。」
俺はレーナさんを連れて路地裏の奥に入っていく。
「そう言えば、レーナさんはどうして北東区じゃなくてこっちに居たんですか?」
「うん~?、昨日~、裁縫のスキルを取るために~修練所で練習用の素材を買ったから~、それを役場で売って~、装備を整える資金の~足しにしようと思ってたの~。」
「へ~、で、予算は?」
「2250Gよ~、修練所で裁縫セットが少し高めのを買い取ったから~500Gで~、練習用素材が~一セット1000Gで~二回追加したから~合計3500G使ったんだけど~、役場での売却額が~750Gだったのよ~」
「え!、結構使いましたね。まあ、装備は買えなくないんで、回復薬系を少し諦めて自然回復でやりますか。」
「うん~、おねが~い。」
そうこう話しているうちに目的の場所に到着する。
「今日も見せてもらいますね。」
「・・・勝手にしな・・・・」
店主の男は相変わらず不愛想だが、とりあえず気にせず武器や装備を眺める。
今日、俺はここにサブ装備を探しに来たのだが、実は昨日のうちにめぼしはつけてある。
「すみません、この脇差をください。」
「・・・タッチしな・・・」
俺がパネルにタッチをすると店主は俺に脇差を渡した。
「・・・相変わらずいい目だ・・・・」
店主は小声で俺を褒めてくれる。
どうやら昨日のことを覚えていたようだ。
「あの~、私はこれをくださいな~。」
「・・・タッチしな・・・・」
レーナさんは長弓と矢筒を買っていた。
矢筒には最初から数十本の矢が入っている。
「・・・兄ちゃんの連れか・・・持ってきな・・」
「あ!ありがとうございます~。」
店主はレーナさんにもあの『おまけポーチ』を渡していた。
俺たちは次は俺の武器のメンテのために鍛冶屋に向かう。
「ふっふっふ~ん、ヒカリちゃんのおかげで~、お姉さん得しちゃった~。」
「ちなみにいくら余ってるんですか?」
「ん~、450Gよ~。」
「まあ、狩りで稼ぎましょう。」
「うん~、お店を持ちたいから~頑張って~お金を貯めなくっちゃ~。」
「頑張ってください。」
この世界で土地や家を買うのは現実よりかなり簡単ではあるが、それでも最安値で数十万はする。
俺は自分もプレーヤーハウスが欲しいな、なんて考えながら歩くのだった。
_________________________
Name:脇差
グレード:N
種類:刀
耐久値:100/100
STR+4
DEX+5
《備考》
白銅で打たれた脇差、
価格:500G
_________________________
_________________________
Name:長弓
グレード:N
種類:弓
耐久値:100/100
STR+5
DEX+10
《備考》
しなやかな木材を使った長弓、弱い力でも引きやすい優れもの
価格:1000G
_________________________
_________________________
Name:矢筒
グレード:N
種類:背嚢
耐久値:100/100
STR+10
《備考》
堅い木材でできた矢筒、それなりの量の矢が入る、
価格:800G
_________________________
以上が今回買ったものだ。
これにより俺の所持金は16370Gになった。
装備も整える必要があるが、夢のマイホームのため貯金も視野に入れておこう。
♢
NPC鍛冶屋に刀のメンテナンスを頼んだり、役場でレーナさんも討伐系の同じクエストを受けたりと諸々の用事を済ませて、俺たちは西側のクインメリーの森に来ていた。
「つああ!」
俺は脇差で目の前の敵を切りつける。
「キキィィー!」
しかし、敵、『グリーンエイプ』はそれを余裕持って飛び上がることで避ける。
本人|(猿?)はしてやったりのつもりだろうが、実はこれが俺たちのの狙いである。
「ショット~」
そんなおっとり口調と共に俺の後ろから黄色いエフェクトをやどした矢が飛んできて、空中で身動きの取れない『グリーンエイプ』の心臓部を的確に打ち抜いた。
「キィィーー」
『グリーンエイプ』はそんな断末魔を残し、倒れる。
「やったわ~、またレベルが上がっちゃった~。」
後ろの木に隠れていたレーナさんは嬉しそうにやってくる。
現在、俺は9レベで、レーナさんが今のレベルアップで4レベになった。
倒している敵は4,5レベくらいでそこまで強くないが、レーナさんは昨日はずっと修練所に籠りっぱなしだったことで2レベくらいだった。
なのでレベルがぐんぐん上がってきているのだ。
もうすぐ、レベル5の壁にぶつかるところだろう。
「う~ん、残念だけど~もう12時になっちゃうね~、」
「ああ、そろそろお昼のログアウトが必要ですね。」
「そ~ね~、レベル上げに付き合ってくれて~、ありがと~。」
「いえいえ、俺も自分のメイン武器が無い時間を有意義に過ごせました。」
俺たちは街の方に向かって歩きはじめる。
現在、いるのは西側フィールドの森エリアの少し入ったところである。
なぜ西ばかりかというと、西のエリアが一番レベルが低いからである。
「うふふ~、そ~言ってもらえると~お姉さん助かるわ~、午後も一緒に狩りしましょ~、って、言いたいところだけど~、残念、お姉さんは~用事があるんだ~。」
「そうですか。俺で良ければまたいつでも誘ってください。」
「うん~、ありがと~、そうそう~、これ今日のお~れ~い~。」
そう言うとレーナさんは一着の服装備をトレードで送ってくる。
「え!、いや、そんな悪いですよ。」
「い~の、い~の~、これ私がスキルのために作ったやつで~少しだけ性能が~いいやつだから~、それに~お姉さんが~これをヒカリちゃんに~着てほし~の~」
「えっと、そう言う事ならありがたくいただきます。」
「うん~、男の子は素直が~一番~」
俺はレーナさんに押されて装備を受け取る。
装備は《和服【椿】|(上下)》という名前だ。
着替えをするには一瞬だがインナーのみになる必要があるので、着替えるのは午後からにする。
そのまま、他愛のないことを話しながら役場でクエストの報告を済ませ、俺たちは宿屋に到着する。
この世界の宿は、階段を上るとインスタントマップに入り、パーティー以外の人の部屋には本人と一緒でなければ行くことはできない。
また、一度宿屋に料金を払えば、日付が変わってからその部屋を出るまでその部屋を使い続けられるので一日に何回も宿代を払う必要はないのだ。
「じゃあね~、装備が欲しいときは~いつでも連絡頂戴ね~。」
「はい、じゃあまた。」
俺たちは宿屋についてからパーティを解除すると、そのまま自分の割り当てられた部屋に入りログアウトした。
ログアウトしてから俺は自室を出て、台所に降りる。
「あ!ヒーちゃんおはよー。」
「灯姉おはよう。ご飯すぐ作るから待ってて。」
「うん、」
俺たちは多少時間のずれた挨拶をするが、まあ今日初めて会ったのだからしょうがないだろう。
俺は簡単に昼食を仕上げる。
今回灯姉にはお皿を並べることの他に生野菜を手でちぎってもらった。
「よし、できた。いただきます。」
「いただきまーす。」
今回のご飯は、牛肉を焼肉のたれで炒めた物と生野菜、あと白ご飯とみそ汁である。
俺たちはさっさとご飯を平らげると、皿洗いを済ませ自室に戻る。
灯姉は午後から大学のサークルの友達と待ち合わせしているらしく、珍しくそそくさと部屋に戻って行った。
ちなみに灯姉はVR研究会というサークルに参加している。
このサークルは研究とは名前だけのただのVRゲーマーが集まって情報交換する場所らしい。
たまには自作ゲームを作ったりするとか、しないとか、まあ、自由なゲーマーのためのサークルらしい。
閑話休題
ゲームにログインすると、俺はまずレーナさんにもらった服装備を装備することにした。
メニューから装備用アバターを開き、現在着ている『ただのシリーズ』のシャツとズボンを解除する。
_________________________
現在装備解除を選択している装備は、
装備を解除してしまうと消失してしまいます。
それでも装備を解除しますか?
YES/NO
_________________________
この初期装備の『ただのシリーズ』はVIT+1という低スペックではあるが、服の重量設定が無く初期ステータスでも動きの阻害にならない優れものである。
しかし、運営側の思惑でプレーヤーが服にもっと気を遣うようにと20レベで使用できなくなるレベル上限と一度解除すると消失してしまう使用制限の二つが科されている。
俺は警告の文章を何の迷いもなく解除を押す。
そして、レーナさんにもらった装備をタップして装備を選択し、自分の浅はかさを呪った。
「なんだこれーーーーーーーーーーーー!!!!!」
各部屋はインスタントマップになってるため音漏れの心配はないが、現実では壁ドンレベルの絶叫だった。
ウインドウに映る装備モデルアバターは、紺の生地に鮮やかな椿の柄が入った綺麗な女性用の和服を装備していた。
俺は思わず下を見て自分の服を確認する。
うん、ピンクの帯がよく栄えている、
じゃない!
「は、はめられたー・・・」
俺はガックリその場に膝をついた。
レーナさんは最初は俺を女と勘違いしていたんだし、それに彼女自身も言ってたじゃないか。
『う~ん、私は~気に入った娘に~、服を作ってあげるのが~趣味なの~』と・・・
俺は落ち込んではいられない、と、すぐにメニューからフレンドリストを呼び出し、レーナさんがログイン中な事を確認するとメールを送った。
『レーナさん!!、明日の午前中に今日いただいた装備の事でお話があるので、朝の9時に転移魔法陣広場の北西側ベンチで待っています!!』
俺がメールを送り終えると、レーナさんからはすぐに返信が帰って来た。
『うふふ~、ヒカリちゃんなら似合うと思ったんだ~、明日はちゃんとヒカリちゃん用の装備を作っておくから~、怒らないでね~。』
何とも、怒りずらいメール内容ではあるが、怒らないのは絶対に無理である。
まあ、ここで今日一日を過ごすわけにはいかないし、
とりあえず、鍛冶屋に刀を取りに行くついでに服屋で安い服を買おう。
と、決意しながら俺は和服に合わない革の胸当てや指ぬきグローブを外すのだった。
「おっ!、懐の空間に大きさ関係なしに武器が装備できる・・・・・まあ、他の補正がVIT+5だけだけど練習用素材でなんでここまでの物が作れてるんだろうか・・・・・正直めっちゃ疑問だ・・・」
気を取り直して、俺は宿屋を出てから北東区に向かう。
北東区には装備品関係の店が集中しており、服飾店もそこにある。
まだ、ゲーム開始二日目にしてここまでの装備である俺にいろんなプレーヤーからの視線が集まってくるため正直とても歩きづらい。
俺は人目を避けるように早足で北東区の路地に逃げ込んだ。
「ねえねえ、いいじゃん、二人とも生産職なんでしょ?」
「そうそう、俺たちが素材集めに協力してあげるって言ってんの。」
「け、結構です!私たちだけで十分ですので。」
俺が路地に入り込むと、そこには二人の土妖精族の少女を取り囲む三人の男の姿があった。
俺は、はあ、と、ため息をつく。
この手の低知能生物はいろんなところですぐ湧いてくる。
どっかの黒光りする六足歩行の生物と一緒だ。
俺は自分の今の姿を思い返して、とある方法を思いついた。
「あら、二人ともごめんね、遅くなっちゃった。」
俺は自分の中性的な高い声と女に見える外見で男たちの間に割り込む。
「ああ!?、なんだてm!?」
「おお、これは上玉じゃねえか。」
男たちは割り込んできた俺を見て引くどころか下卑た目線を俺にまで送って来た。
気持ち悪・・・
「おいおい、嬢ちゃん、女三人じゃ圏外は危ないぜ?」
「そうだよ。それに男三人に女三人でちょうど数もあってるしね。」
「いえ、私たちは昨日から三人で狩りをしてきたので、ね?」
俺が後ろにかばっている二人に問いかけると、二人はものすごい勢いで首を縦に振る。
「あの、そう言う事なので。ああ、わたしこう見えても結構レベル高いんでお手伝いとか不要ですよ?」
めんどくさくなって来た俺は最終通告のつもりで言う。
しかし、男たちは引くことは無かった。
「ぎゃっはっは、ウソはいけない。俺たちはさっきその二人が武器屋から武器を買って出てくるところを見たんだが、昨日は武器なしで狩れたのか?」
ぬかったーーー!!
やっぱり口から出まかせはダメだったな・・・
よし、こういう場合は実力行使有るのみだ。
俺は、後ろのしっかりしてそうな方に小声で運営に通報するように言うと、口調を男口調に戻した。
「はあ、こんだけ嫌がってんのに引かないとは、俺たちの狩りを助けてくれるんだろ?なら、俺より弱いってことは無いよな?」
「あ?なんだこいつ急に・・・」
俺は戸惑う男どもを無視するとメニューから決闘を選択し、三人対俺一人のデスマッチデュエルを申請した。
「あはっは、なに?、君一人で俺たちに勝つの?」
「威勢のいいことで何より。」
「いいぜ、その代り俺たちが勝ったらお前ら全員俺たちとパーティー組んでもらうからな、一生な。」
「「「ぎゃはっはっは」」」
なにが面白いのか男たちは下品な笑いをまき散らしながらデュエル了承ボタンを押す。
「ちなみに俺たちは全員6レベだぜ?」
「そうそう、あの5レベルの壁を超えたんだぞ。」
「ははは、今更やっぱやめたわなしだぜ。やりたきゃ敗北宣言しな。」
男たちの言葉で後ろの二人に緊張が走る。
俺は安心させるように二人に微笑かけると、目線を前に戻した。
ちなみに5レベルの壁っていうのは5レベに上がるときと次の6レベになるまでに必要な経験値がかなり多くなることから掲示板で使われるようになった言葉だ。
現在はこの5レベルを超えて6レベルになっているプレーヤーは結構トップランカーに入ることになってるが、明日にはその下限は10にまで上がってるのではないだろうか。
そんな事を考えていると、目の前のデュエル開始準備時間である30秒のカウントが残り10秒を切っていた。
男たちはそれぞれ自分の得物である剣、斧、槍を構える。
俺は懐から脇差を取り出した。
3
2
1
GO!
カウントダウンが終わり、デュエルがはじまる。
男たちは舐め切った表情で、俺の動きを待った。
しかし、一秒後、二人は表情を驚愕に染めた。
一番目の前に居た剣の男の首を俺が一瞬で刎ねる。
そして、驚愕で動きが止まっている斧の男に心臓に脇差を突き刺した。
二人の男のHPバーは一瞬でなくなり戦線を離脱する。
《致死部位破壊》俺が行った技術だ。
人間の弱点を攻撃することで一発で倒すプレーヤースキルだ。
このプレーヤースキルとはシステム外のプレーヤー本人の技術を指す言葉である。
「この!クソアマがーーーー!」
逆上した男が槍をめちゃくちゃについてくる。
しかし、俺はそれを脇差でさばいたり、歩法で躱したりしていく。
が、男が一瞬、槍を突き出し過ぎたのを見計らって槍を引っ張り男の体制を崩す。
そして、前のめりになった男がそのことを認識するよりも早くその首を刎ね飛ばした。
「残念だったな、お前らとは格が違う。」
《YOU WIN》
その表示が空中に現れる。
「「「「うおおおおおおおおお!!」」」」
と、いつの間にか集まっていたギャラリーが歓声をあげる。
俺はその中、どうやってここから逃げようかという算段を必死に立てるのだった。
大変遅くなりました。
これからも少し時間はあきますが、進異世界も含めて更新は続ける所存です。
どうか、これからもこの拙作をご愛読よろしくお願いします。
7話までは来月に投稿します。